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ディナー

「すみません、ちょっとお時間を……」

「自分、隣町で商会を開いている……」

「是非、当店でも販売を……」


 職人ギルドから出たら犬耳とふさふさ尻尾に囲まれました。眼福眼福……なんてトリップしている場合ではないわよね。


 彼女たちが真っ当に商いをしているなら問題ない。いやむしろ喜んで手を貸したい。ドライヤーが普及すれば毛並み……もとい髪の毛のお手入れがしやすくなる。


 とはいえ、ぼったくり価格で販売するような輩と手を組む気は起きない。ゲームそのままならぼったくり商人なんて一人も出てこないんだが……。


 そうだ。


「皆さんギルドカードを見せて下さい」


 職人のギルドカードには主な仕事を書く欄があったから商業ギルドのカードにもあるかも。


「「「はい」」」


 次々とカードに目を通すが問題なさそうだ。


「こちらの皆さんのお店は、よく存じておりますが皆さん信用に足る方ばかりです」


 クレアさんがそういうのであれば信用してもいいかも。


「アイリさんはどう思います」


「私は他の地方にあるお店のことは存じ上げませんが、職人ギルドのギルドマスターが保障して下さるなら問題ないでしょう」


「それならいいでしょう」


 アリアさんのお店から皆さんのお店に卸すことが決まった。


「「「ありがとうございます」」」


 これで話はついた。


 約一名、「ここまでしてもらったら悪いです」とか「一生かかっても返せない恩は頂けないわ」などと暴言を吐く人がいるが、当然却下だ。


「クレアさん、何か聞こえました?」


「いいえ、何も」


 クレアさんもニコニコしている。


 見ず知らずの人を助けたり、困窮しているのに薬やシップを無料で提供しようとしたり、温泉フルコースを3時間もかけて案内してくれる(ドライヤーを宣伝するだけなら入浴時間は短くていい)、そんな人には相応しい末路を用意しなければならない。


 それでもまだゴネるアイリさんを黙らせる一手を打つ。


「私、こっちに拠点が無いんですよ」


「そういうことなら……仕方ないわね」




「待ってました~」


 中世ヨーロッパをモチーフにした異世界モノにおいて、異世界に無い食べ物を作って皆を驚かせるというのはお約束なのだが、このゲームではそれは難しいい。ゆるふわな世界観を演出するために、知名度の高いヨーロッパの料理と日本式の洋食は登場するのだ。


 本革で設えたメニューを開けばゲームと同じメニューがあった。そうなるとゲームと同じメニューを頼むのがゲーマーの心理というものだろう。


 ブレッツェル(8の字のパン)に仔牛肉のシュニッツェル、付け合わせにジャーマンポテトと白アスパラという本格的なドイツ料理がテーブルに並ぶ。


 私は早速熱々のシュニッツェルを口に入れる。


「どうだいアンタ、気に合ったかい?」


 おかみさんは赤ワインをグラス一杯開けて上機嫌だ。


「もちろんです」


 少量の油で焼いたので表面はパリッとして、そこに絞ったレモンの果汁がしみこむとさっぱりしてたまらない。ネットで調べてある程度想像はついていたが、この味は想像以上だ。


「これでビールが飲めれば最高なのにね」


 クレアさんは残りの仕事を若い職員に投げてこっちに合流したのだ。


 私はやむを得ずジュースを飲んでいる。


 別に未成年に間違われたんじゃないからね。


 身分証明書を持っていないわけじゃないからね。


 ギルドカードに年齢が書いていないのが悪いなんてちっとも思ってないからね。


「なにかホルスに悪い気がするわ」


「アタシだって旦那をおいてここにきてるんだ、気にすることは無いさ」


「おかみさんの旦那さんってどんな人なんですか」


 おお、こっちに来て最初の食事が女子会になるなんて!


 話が盛り上がり、今はまったりコーヒーを飲んでいる。


「ところでアンタ、工房はどうするんだい?」


「瞳次第ですね」


 全員の視線が、デザートのアプフェルシュトゥルーデルを頬張っているエゾモモンガに集中する。


「ボクの腕前は門外不出なのです」


 そう、私もあっちで作業しているのを見ていないのだ。


「となると警備が厳重な建物になるねぇ。アタシがお客さんに相談してみるかい?」


「それなら大丈夫です。だよね冬香」


「はい。問題ありません」


 今日ここに来たばかりの私たちに当てなんてある訳が無い。


「なんだ、もう決まっているのかい」


「私は何も聞いていないです。でも二人がいいというならそこで」


 聞いてはいないが見当はついている。


「それじゃあ、あとは材料か。それも当てがあるのかい?」


 私たちは首を横に振った。


「ついてきな」




「お邪魔するよ」


 おかみさんが紹介してくれたのはアイリさんのお店の近くにある材木屋さんだった。


「おお、どうした。なんだギルマスとアイリも一緒か。それとその嬢ちゃんは見ない顔だな」


 いかにも職人といった感じのご老人が道具の手入れをしている。


「こんな時間まで仕事とは感心だね」


「ま、こいつはオレの生きがいだからな」


「それよりさ、この子たちに材木を売って上げてくれよ」


「よろしくお願いします」


「おいおい、オレがなんでこんなお嬢ちゃんのアイタっ」


 後ろから誰かが一撃を入れた。もちろん私じゃない。


「優ちゃんに売らなかったらバーデン中の女性を敵に回すことになるわよ」


「やっぱりもう知ってるか」


 おかみさんがニヤリと笑う。


「勿論、もうドライヤーの噂で町中もちきりよ」


「それならアタシがここまで無事にこれたのは運が良かったってことかい」


 ギルドの前で商人が退散してからは誰も近寄ってこなかったがあれは運が良かっただけなのか?


「義姉さん、知らなかったの。優ちゃん、マルケス商会んとこのチンピラ二人を一瞬で半殺しにしたって。優ちゃんのプライベートを邪魔する度胸なんて誰も持ち合わせちゃいないよ」


「うっそ」


「マジ」


「マジで」


 私よりおっかなそうなおかみさんがビビっている。


「いや半殺しは嘘です」


 どうして人の噂ってこう大袈裟なのかな。


「だと思ったよ」


「そうですよ。優様はちゃんと手加減しました」


 冬香、誤解を招くこと言うのは止めようね。


「それで、そのドライヤーってのは何だい?」


「こいつさ。って言っても今は使えないけどね」


 おかみさんが持ち歩いている間に石が冷えてしまっている。


「義姉さんが来るんじゃないかと思って用意してありますよ」


「ありがとよ。気が利くじゃなないか、どっかの弟と違って」



 義妹さんが要してくれた石を入れて動かした。


「驚いた。これは噂以上だよ」


 義妹さんは女性だけあってその利便性に気づいてくれた。


「それにしても一体中身はどうなっているんだ」


 男性の方は、原理の方が気になるようだ。ノズルから中を覗き込んだり、レバーを握ってプロペラが回る様子を観察している。


「分解すれば分かりますよ。でも今はその一個しかないので我慢してください」


「そっか。それならそこの木材持って行きな」


「これってパイン材ですか。ありがとうございます」


 パイン材は軽くて丈夫なのが特徴だ。まさにうってつけである。


「なに、いいってことよ。足りなくなったらいつでも行ってくれ」




 こんな感じで他所で鉄板もゲットしてアイリさんのお店まで戻ってきた。するとアイリさんが「父さんと母さんの部屋、好きに使っていいわ」とこの部屋に案内してくれた。これで拠点がゲットだ。


 ただ、材料を買ったらすっからかんになってしまったので、何とかドライヤーを作成しなければならない。いや元々今晩作るつもりだった。


「で、瞳、工房ってアリアさんの部屋?」


「はい」


「じゃ、行きますか」


 アリアさんの部屋に行こうと思ったら魔法陣を使わなければならない。そしてその魔法陣は教会の中。見つからないようにいくとしたら今はチャンスだ。そうなることを見越してお酒を飲まなかったのだ。

もう一本作品を執筆しています。


タイトルは、『神魔大戦~神と悪魔の戦いに化学で割って入る物語』


https://ncode.syosetu.com/n2539ft/


です。こちらはR15指定になります。それも一応念のためR15指定にしたとかぬるい内容ではなく「よくR15で済んだね」という内容です。

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