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ドライヤー

 更衣室は、違う意味で男性には見せられない状態と化した。 


 おっかしいな~。


 私は首を傾げた。たしか、この作品は’ゆるふわもふもふストーリー’だったはずなんだけどな~。


 さっきのヤンキーたちは例外でほとんどのキャラはゲーム通りだとおもったんだけどな~。


 こんな状況にした責任の一端は私にもあるからこの場を収めたいんだけど、どうしたものかね~。


 途方に暮れた私に、更衣室に入ってきたばかりの少女が声を掛けた。


「あの~、一体どうしたんですか」


 ちっちゃく黒いケモ耳に、黒縁眼鏡の利発そうなちょっと年下の女の子。


「お願い、何も聞かないで店員さんを呼んできてくれる」


 事情を聴かれたら参戦ということもあり得るからね。


「わかりました」


 すると、すぐに店員さんがドタドタと駆けつけてきた。アラフォーくらいの貫禄ある雰囲気の店員さんだ。


「お客さん方、ちょっと落ち着いて下さい。……それとアイリ、説明しておくれ」


 長年客商売をやっていてこの手のことに慣れているのか動じる様子もない。





「な、なんだいこれは」


 私とアイリさんが実演して見せたら、目を丸くて驚いた。


 お願いだからミイラ取りがミイラにならないでー


 私の心の叫びは、伝わった。


「それじゃあ、髪の濡れているお客さん方には順番に並んでもらって、濡れてないお客さんは髪を洗ってきてもらえますか。シャンプーとトリートメントの無いお客さんは、ウチで購入して下さい。売上は二人の夕食代になります。みなさんそれでよろしいですか」


「「「はーい」」」


 お客さんは納得したようだ。ただ、私たちは納得していない。


「おかみさん。わたしは嬉しいのですがお店が損をするのでは無いですか?」


 すると店員さんは豪快に笑った。


「何いってるんだい。こんな便利なモノが出回れば髪を洗うお客さんが増える。そしたらシャンプー忘れたとか言ってここで買ってくれるお客んさんも増える。 

 それに世の中のシャンプーの需要が増えれば供給も増える。供給も増えれば仕入れ値も下がる。あんたたちの夕飯くらい安いもんさ。そっちのお連れさんもいいかい」


 この人、頭も回るけど人柄もいいわね。なるほどアイリさんが頼りにするわけだ


「4人よ」


「あら、それはちょっとわがままってもんじゃないのかい」


「だってこれを考えたのは私ですけど、実際に作ったのはこの子()ですからね」


「ほう」


 おかみさんが感嘆の声を上げる。


「それに、夕飯代としてこれを置いていきます。正式に’販売’するまで客寄せとして使って下さい」


 私はドライヤー試作第一号をおかみさんに渡す。と、同時に本来の目的を果たす。


「気に入った! アタシはアンタが気に入ったよ」


 あの、肩をバンバン叩かれると痛いんですけど。


 いや、それより他の人の反応が気になる。


「今販売って言った?」「うん、聞いた聞いた」「幾らですか?」「幾らでも買うに決まっているでしょ」「アイリ、これでお店立て直せるね」


 私とアイリさんの周りに人が集まる。だが話がこっから予想外の方向へ進む。


「あの、ちょっといいですか?」


「はい。何でしょう?」


 さっきの黒縁眼鏡の女の子だ。


「それって、どうやってプロペラを回しているんですか? 魔法ですか、それとも歯車ですか」


 この子、解ってるじゃない。


「歯車よ」


「歯車……軸受けがあれば……でもレバーは……」


 ブツブツ呟いているのが正解だ。多分彼女以外分かっていないだろうけど。


「アイリ、これ魔道具じゃないんだ」


 


「ウチは道具屋だから当たり前でしょ」


「それなら、そんなに高くないよね」


 どうやら魔法で出来た道具は高価らしい。このドライヤーは材料が木材と鉄だから安いけどね。


「あれ? ちょっと待って」


 女性が何かに気づいたようだ。表情が曇りだした。


「これ作った人、ちょっといい」


「何でしょう」


 何かやらかしただろうか?


「このロゴ、見たことないんだけど?」


 そのまま売っても面白くないので、瞳が作った商品にはエゾモモンガをデフォルメしたロゴを入れるつもりだ。もちろん試作品であるこれにも入っている。


「でしょうね」


「クレア、優ちゃんはね外国から来たのよ」


 この世界にエゾモモンガは居ないだろう。だからエゾモモンガをモチーフにしたロゴを見たことも無いのも当然だろう。


「そっか。だからギルドでも見たことないんだ」


「えっと、ギルドって何ですか?」


「だから職人ギルド」


「ですから職人ギルドって何ですか?」


 場がシーンと静まり返る。


「うそ、優ちゃんの国って職人ギルドないの?」


 アイリさんの表情が真っ青に青ざめている。


「大変、今すぐ登録して」


 クレアさんが私の腕を引っ張る。ここには腕を引っ張る習慣でもあるのだろうか。


「ちょっ……」


 お願いだからタオル1枚で拉致しないで!




 それから大慌てで服に着替え、職人ギルドなる建物に連れ込まれた。


 すっかり暗くなって、この中もずいぶんと閑散としている。


「改めまして。職人ギルドへようこそ。わたくしギルドマスターのクレアと申します。以後お見知りおきを」


 見た目は20代半ばだぞ⁉ 一体どうやって出世したんだ?


「こちらこそ改めまして。優です。その若さでギルマスなんて凄いですね」


 クレアさんの眉がぴくっと跳ねた。なんか失礼なこと言ったかな?

 

「では早速申し込み用に記入して下さい。見本はこちらです」


 市役所かとツッコミたいが見本があるとありがたい。それにしても文字は一体どうなっているのだろうか。恐る恐る目を通す。


「よしっ」


 ありがたいことに見本は全て日本語で書かれていた。これで重要な懸念が一つ解消された。


「どうしました?」


「いえ、別に」


 本名はそのまま書けばいいよね。


 生年月日? 日本と同じでいいのか?


 性別? 迷わず 女 に〇をつける。


 住所? どうする?


「クレアさん、私旅の途中なんですけど」


「弱りましたね。ギルドの無い国から来て、こっちに住まいもない。こんなケースは初めてですね。とりあえず最後に住んでいた住所を記入してください。あとで身元の確認が取れるかもしれないですから」


 いや、無理でしょう。と、言いたいが説明できるはずもない。仕方ない。前世の住所を書くか。


「終わりました」


「優さん、提出する際にこの水晶に手を当てて下さい」


「これ、何ですか?」


「嘘をついてるか判断する魔道具です。もし嘘をついていると黒く光るんです。本当なら白く光ります」


 おお、うそ発見器か!


「汝よ、ここに真実を述べていることを誓いますか」


「はい誓います」


 水晶が白く輝いた。


「はい、ありがとうございます。ええと……えっ」


 私の顔を二度見する。


「どうしました?」


 やっぱり、日本と書いたのが不味かったのだろうか。


「は、はたち~」


 そこですか。


「はあ、よく驚かれます」


 緊張して損した。


「えっ」


「どうしました?」 


 今度こそ、日本と書いたのを追及されるのだろうか。


「誕生日を迎えたばかりなんですね。おめでとうございます」


 そこですか。


「はあ、ありがとうございます」


 問題なかったか。


「細かい説明があるから優ちゃん、こっちに来てもらえます」




 通されたのは書類棚に囲まれた一室。絨毯はふかふかだし、テーブルは……マホガニー製かな。主にデスクワークに使われ、尚且つ来客にも対応できるってことはギルマスの部屋かな。


 こんなところに通されるなんて嫌な予感しかしない。


「それじゃあ、申込用紙は受理いたします」


 予想外にクレアさんは顔はニコニコしている。


 だがよく見ると目がちっとも笑っていない。これ営業スマイルだな。


「ありがとうございます」


「なんて言う訳無いでしょう」


 ですよね~。人生そんなに甘くないですよね~。


「えっと、どの辺が問題ですか?」


「住所の欄。見ようとしたら女神アリア様の認識阻害魔法が掛かって見えなかったわ」


「あ~」


 私は思わず両手で顔を覆った。

 当初、優とクレアのやり取りは’狐と狸の化かしあい’にしたのですが、書いてみたら理屈っぽくってこの作品には合わなかったのですっきりとさせました。


気が向いたらで結構ですが、ブックマーク登録と評価ポイントをよろしくお願いします。元気が出ます。精神的なエサを下さい。


他にもう一作書いています。


タイトルは、『神魔大戦~神と悪魔の戦いに化学で割って入る物語』


https://ncode.syosetu.com/n2539ft/


です。こちらはとっても生々しい描写のオンパレードです。思いっきりR15指定です。読まれる際は十分気をつけて下さい。

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