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最終回

「全く強情だな」


 この男性は私を責め立てるばかりで、一向に状況が好転しない。


 冬香と瞳、それにカールさんがすぐに助けを呼んでここに来るとしたらそろそろかな。


 策は考えたし、だんまりを決め込んだので体力もそれほど消耗してはいない。


「いい加減に」

「いい加減にしなさい!」


 見たことない女性が入って来た。見た目は50近く、すこしふくよかだが身に着けた気品というものが感じらせる。


「こ、これはギルドマスター。ご苦労様です。お前、いい加減にしろ。普段は温厚なギルドマスターもご立腹だぞ。素直に白状しろ!」


 男性は顔を真っ赤にして怒鳴っているが、その顔にギルマスの平手が飛んでくる。


「いいかげんにするのはあなたです。これは魔道具ではありません。昨夜私がこの目で確認したしました」


「そ、そんな馬鹿な」


 ギルマスの指摘を受けて、顔が真っ赤から一気に真っ青へと変化する。


「いいえ、本当よ。私が昨日ドライヤーを貸してその時確認したのだから間違いないわ」


「クレアさん! それにカールさんも」


 やっぱり助けに来てくれたんだ。


「優さん、ウチの部下の不始末を許して下さいね」


「それより、今は時間が、アイリさんは」


 私は道具ギルドのギルマスにしがみついた。


「今解放しているところです」


「時間は?」


「5時45分よ。急いで」


 クレアさんからは焦りが感じられる。ここからキーガンが泊っている宿まで3キロくらいはあるから、全力疾走しても間に合いそうにない。


「優さん、アレは?」


 カールさんの指摘するアレとはローラースケートのことに決まっている。


「鞄ごと押収されたわ」


「ちょっと、一体何を押収したの⁈」


 ギルマスが若い男性を厳しく追及している。


「彼女の鞄に訳の分からないものが……」


「早く持ってきなさい」


「はいっ」


「じゃあ、私は帰らせて頂きます。鞄は玄関に持ってきてください」


 こんなところで履いたら返って動きづらいからね。




「優ちゃんっ」


「アイリさんっ」


 玄関へ向かう途中でアイリさんと合流できた。


「大丈夫だった?」


「私は大丈夫です。それよりアイリさんは?」


「ええ。私はほとんどほったらかしだったから。それより時間がないわね」


「急ぎましょう」


 玄関まで駆けながら、アイリさんにアイディアと伝える。といっても大した策ではないけど。


「確かに靴といえば靴ですから」


 ローラースケートを自分で履くと時間がかかるので、冬香の能力でローラースケートという履物を身に付けさせてもらうのだ。ローラースケートは履くのに存外時間がかかるから、これで少しは時間が短縮できるだろう。


「ああ、いたわね」


 玄関へ着くとあの男性が鞄を持っていた。そして隣には冬香と瞳とソフィーが心配そうに佇んでいる。


 これなら間に合うかもっ。


「こ、これです」


 恐縮そうに鞄を渡してくれたのはいいが、このあととんでもないことを言い出した。


「冬香、ちょっとお願い」


「はい」


 思った通りだ。一瞬で私はインラインスケートを、アイリさんはクワッドスケートを装着できた。


「ちょっと待って下さい」


「何、時間が無いの」


 もう、イライラするわっ。


「釈放の手続きを行ってください」


「そんなの後にしてっ」


 この状況で……一体何を考えているのっ


「ですが正規の手続きを踏まえないのは規定に反します」


 及び腰ではあるが、引く気が全くないな。こりゃとんだ石頭だね。


「私が許可します」


「いくらギルマスでも、ダメなのもはダメです」


 ギルマスは話しが分かるのに此奴ときたら。


「ねえ、間に合わなかったらどう責任とるの?」


「訴えて下さい。それなら規定にも法律にも反しません」


 なぜかここで堂々とした態度を示すのが許せない。


「それでお店が戻ってくるの! 戻ってこないでしょうっ」


 流石にアイリさんも怒っている。


「ですが規則は規則です。守って下さい」


 ギルマスは冷めた目で彼を見ると一言言い放った。


「もういいわ。あなたは即刻謹慎とします。私の責任において手続きを後回しにします」


 あ、ギルマスが完全に此奴を見限ったわね。


「ではもっと上に報告させて頂きます」


「……いいわ。好きにしなさい」


「ギルマスを降格になりますよ。それでもいいのですか」


 マジかっ。さっき、間が空いたのはそれか。


「2人とも、行って。さあ、早く」


「行きましょう、アイリさん」


 迷っている暇はない。厳しいようだけど、ここは不出来な部下の責任を取ってもらおう。


「で、ですが」


「おいおい、何をしておる、早くいかんか」


「「「辺境伯」」」


 それに夫人まで来てくれた。それなら問題ないだろう。私たちは全力で駆けだした。




瞳視点


「辺境伯の名において、釈放の手続きを後日とする。よいな」


「はっ」


 優様を捉えた男性が辺境伯の前で跪いている。領主が例外と認めればいいみたいだ。


「なんで勝手に優ちゃんとアイリさんを捕まえたの!」


 立ち上がる前にギルマスが事情聴取を始めた。他の人は取り囲んでその様子をじっと見ている。


「僕、最近失敗続きで……」


「ここに来てからずっとでしょ」


 ギルマスも辛らつだな。


「それで昨日も憂さ晴らしにお店で飲んでいたら、知らない人に声を掛けられたのです。僕の愚痴をいてくれてすっかり意気投合しまして……」


 それ、マルケス商会の手下だよね。


「それで」


ギルマスが続きを促した。


「だったら手柄をあげればいいじゃないか、ということになりました。でも手柄なんてどうやってと尋ねたら、こっそり教えてくれたのです。今話題のドライヤー、実は魔道具だって。明日ギルドに内緒で捕まえて、それをサプライズ的にギルマスに報告すれば、一気に僕の評価が回復するって」


「あのねえ、こういう時は事前に上司に相談するのが常識でしょう」


「で、ですが、絶対という訳ではないので……」


「そうなのですか?」


 ボクは疑問に感じたので魔道具ギルドのギルマスさんに確認してみた。


「彼の独断で逮捕しちゃいけないなんて規則はないけど、上司に相談しないで勝手にというのは普段の指導を無視していると言わざるを得ないわね」


 ギルマスさんは全員に聞こえるほど大きなため息をついた。


「あの……僕はどうなりますか?」


 おずおずと尋ねているけど、どうもこうもないよね。


「さっき謹慎を言い渡したでしょう。追って処分を伝えるわ」


 マルケス商会に騙されたんだろうけど、同情の余地ないよね、これじゃあ。


ソフィー視点


「ですが、本当に魔道具ではないのですか?」


 この男性、納得していなようです。ここはきちんと説明して納得してもらいたいです。優さんの為にも。


「師匠、ドライヤーの見本を出して頂けないでしょうか?」


「うん、わかった」


「では分かるように説明します。このドライヤーの先端に加熱した石をセットして風を送ることによって温風が出てきて髪を乾かします」


「フン、どうやって風を送るんだ? 魔道具も使わずに」


 私を子供と思って侮っている様です。


「レバーの下を握ると上が引っ張られ、そこがバネを引っ張り、バネが歯車の回転軸を回し、プロペラを回す。プロペラが回ると風が発生してドライヤーの底部から中に風が送られ、風が焼けた石を通過して風の温度が上がる。その熱風がノズルから出て髪を乾かす。空気を吸い込む(プロペラの回転する)面積が、ノズルの面積の約10倍。ノズルから空気が出るときには風の密度が10倍になり、速度が10倍になる」


「なるほどな」


 カールさんがちいさくうなづいている。でもこれで解説は終わりではない。ここからは私が自力でたどり着けなかった正解だ。


「そしてレバーを離しても逆回転しない仕組みがあります。歯車は3枚ありレバーを握ると回転するのですが、レバーを離すと真ん中の歯車がスライドして回転しなくなるようになっているのです」


「こ、こんなの見たことも聞いたことも無いぞ……」


 男性が想定外のモノを見せられ驚愕の表情を浮かべる。


「見たことないとか、聞いたことないとか関係ありません。大事なのはこれが魔道具でないにもかかわらず、魔道具と決めつけ誤認逮捕したことです」


 これでいいでしょうか、優さん——私はこのはた迷惑な男性をピシャリとしかりつけた。


優視点


「さあさあ、どいてどいてっ」


 私は大声を出しながら全力で道路を疾走した。私のほうがアイリさんよりずっと速いので、アイリさんの手を引きながらだけどね。


「なんだありゃ」

「優さん……?」

「アイリちゃん何やってるの?」


「ごめんなさい、急いでいるのっ」


 間違いなく、大騒ぎになるよね。誰も見たことのない道具で全力疾走より速く走ってるんだから。


 でも、これなら間に合いそう。


 100メートル先の角を曲がれば、到着だ。


 そう思っていた時だった。


 えっ。


 突然、道路に材木が大量に投げ込まれた。


「危ない!」


 慌てて回収に入ったのは’薔薇の乙女’の4人。とはいえ全部は回収しきれず1本が地面に転がっている。


 進路上で左右に躱すのは無理だし、止まるのも危険だ。


 迷ってる時間は無い。


「飛んで!」


「はいっ」


 私はアイリさんに指示を出した。昨日練習したから出来るはず。だから一か八かじゃない。出来ると信じている。


 私はアイリさんの手を離すと難なく飛び越えた。


 そしてアイリさんは……。


「あっ」


 まさか転倒⁉ 驚きのあまり私の心臓が止まりそうになる。


 お願い、無事でいて……。


 そう願いながら減速しながらも振り返ろうとして、何かが袖に触れる。


「アイリさん!」


 ちらりと振り返ると、あの整った顔が、愛らしいケモ耳がそこにあった。


「昨日、練習した甲斐がありました」


 アイリさんは眩しいくらい素敵な笑顔を見せてくれた。私が男性だったら間違いなく一発で落ちてるわ。


「うん」


 私はアイリさんがどれだけ努力したかを知っている。そのことを考えると涙で前が見えなくなりそうだけど、それは危険なので、ひたすら涙をこらえ宿まで走り切った。




冬香視点


 一目見て、この方は何か普通の人とは違うなと感じましたでも、異世界でこんな痛快なことをしてくれるとは想像もしていなかったです。


「さ、優様、もう一杯」


 すでに出来上がっていますが、今日は祝杯だから多少は多めに見ましょう。こっちの白ワインは口当たりがよく飲みやすいのですが、飲みやすい割にはアルコール度数が高いので酔っぱらいやすい。


「うん。ありがと~。やっぱり冬香は気が利いて最高よね~。へへぇ~」


 私をお顔に抱き寄せ頬刷りする。感触はぷにぷにしていいのだけれど、ちょっと、いえ大分お酒臭いです。


「……それで最後ですよ」


「うん。これで最後~」


 コップを大きく掲げ、タガが外れたようにけらけら笑っている。


 これ、絶対飲み続ける気ですよね。仕方ない。ここは大人の方にお願いしよう。とはいえ、男性や貴族に方には頼みにくいです。


「アイリ様、クレア様、申し訳ございませんが優様をお止めして下さい」


「ふふ、そうですね。流石にアレはちょっと……」


「なんだ、優ちゃんは自分の限度を知らないのか」


 アイリ様は苦笑いしていますし、逆にクレア様は呆れています。それに2人とも普段のしっかりしている優様しか知らないのでちょっと驚いている面もあるようです。


「お酒を飲むのはこれが3回目とのことです。前回は用件がありましたので私と瞳が早めに止めました」


「1回目は?」


 アイリさんが興味ありげに尋ねました。


「私が優様にお仕えする少し前、二十歳の誕生日で軽く乾杯しただけだったそうです」


「じゃあ、本格的に飲むのはこれが初めてか」


 クレアさんはそれなら仕方ないといった感じでしょうか。


「そうなりますね。ところで最後はどうなりました」


 結果は伺っておりますが、詳細が知りたいです。


「これ約束のお金ですってキーガンに借金を空けしたら顔を引きつらせていたわ。ホント、スッキリしたわ」


 それも気になりますが、私は別のことが気になっています。


「あの、やっぱり材木は彼の仕業ですか?」


 話を聞いているとかなり危なかったはずです。


「多分。でも証拠も今のところ無いですし、問い詰めても知らぬ存ぜぬです」


「アタシらが捕まえたヤツは、手が滑ったの一点張りだしな」


 ウィドさんが口惜しそうにしている。


「どうやってあんな風に手が滑るのやら」


 トリシャさんが憤懣やるかたない表情をしています。


「絶対嘘」


 リオマさんもいつになく不満そうな顔をしています。


「いつまでも愚痴っていも仕方ないわ」


 べルティーナさんがリーダーらしく場を収めようとしています。


「できれば捕まえてやりたいが、ちょっと難しいな」


 会話に入ってきたのはホルスさんです。


「それは仕方がありません」


 日本の警察では無いですし、監視カメラもありませんから。


「それより、明日なんだが……」


 ホルスさんが恐ろしいことを言い出しました。これはもう、飲んでる場合じゃありません。


「優様~、もう帰りますよ~」


 私と瞳は優様をなんとかアイリさんの家まで引っ張って帰りました。今日はアリア様の家には戻れません。




 そして翌日。


「あ~、飲みすぎたわ~」


 うん、優様は立派な二日酔いですね。


「はい、お水です」


「ありがと~」


 かなり顔色が悪いです。


「あら、大丈夫かしら?」


 アイリさんが心配していますが、自業自得でしょう。


「おい、嬢ちゃん」


 先日の憲兵さんです。昨日優さんとアイリさんがローラースケートで街中を走ったので事情聴取をされたのです。それは無事お咎め無しだったのですが……。


「はい。ああ、どうしまし……ああー!!」


「まさか、忘れてたのか」


 今日の午後、子供たちに合気道を教える約束をしたのです。


「忘れるだなんて……瞳、アレ用意できる?」


 アレって畳のことですよね。


「いくらボクでも無理です」


 瞳はにべもなく断った。イ草なんてここには無いはずですから無理ですよね。


「だよね~」


 優様が乾いた笑いを浮かべている。


「おいおい、大丈夫か」


 あの憲兵さんも心配している。


「ああ~、どうしよ~」


 優様が頭を抱えだした。


 畳が無いので芝生の上で練習するということも実際にあるのですが、ぎりぎりまで黙っておきましょう。いい薬です。

一旦ここで終了と致します。最後までご覧になって下さった皆様、どうも有難うございました。

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