力を合わせて
四方向全て石壁に囲まれ、小さく頑丈な鉄の扉だけが唯一の出入り口、これは取調室か。
「ですから、あれは魔道具じゃありません!」
私はテーブルと叩いて講義する。
「そーゆー嘘は調べればすぐにばれるんだよ!」
だけど目の前の若い男性は全く話を聞いてくれない。
「だったらすぐに調べて下さい! 中身を見れば分かります!」
「オレは忙しいんだ。わざわざ調べるか!」
「言ってることが矛盾しているじゃないの! もう時間が無いの。早くお金を持って行かないとアイリさんのお店が潰れちゃうの!」
「違法に魔道具を売っている店なんか潰れて当然だろうが」
何も吐き捨てるようないい方しなくてもいいじゃないっ。
「潰れちゃいけないお店なの。あのお店はアイリさんが両親から引き継いだ大切なお店なの」
私の目から涙が溢れてくる。
「だったら魔道具を違法に売るなよっ」
「だからアレは魔道具じゃないって何回も言ってるでしょうがっ」
こっちが必死に訴えても逆に額に青筋を立ててがなり立ててくる。ダメだ。この人には何を言っても通じない。
どうしてこうなったの。いや考えられるまでも無いか。
まさかマルケス商会がこんな手を打ってくるとは思わなかった。
賄賂……いえ、そんな感じはしないわね。演技じゃなくて本気で怒ってるように見える。となるとデマを吹き込まれているのかな。
どっちにしろ話を聞いてもらえないのは不味い。
と、なると冬香と瞳、それにカールさんが頼りか。何とかしてくれると信じよう。私は、その後のことを考えよう。解放されてから残り時間が僅かかもしれない。その場合どうしようか。
辺境伯夫人視点
「あなた、変わりはなかった?」
夫である辺境伯は普段はバーデンを空けることが多い。というのはバーデンは山奥であり交通の便が悪いから領主の仕事をするのに都合が悪い。だから普段は山を下りた先にこじんまりとした屋敷を立ててそこで仕事をしている。
「もうすでに優ちゃんの噂は広まっておるよ」
「やっぱり」
「それ以外は特に変わらんな。麦の収穫も予想通りの豊作になりそうで何よりだ」
「それなら安心して、パーティが開けるわね」
「アイリ嬢のお店はどうなった。今日のパーティはそっちも兼ねているからな」
「あら、そっちがメインでしょ。大丈夫、カールさんが用立てしたって」
私はすっかり安心していた、この時までは。
「父さん、母さん、大変だ」
フリードが血相を変えて飛び込んできた。この子がノックもしないで、しかも表情を見ると大事のようね。
「おいおいどうした」
夫もただ事ではないことを察したので、表情が引き締まっている。
「優さんが逮捕されました」
「なんだと!」「なんですって!」
「容疑は魔道具の違法販売なのですが、優様はそんなことしておりません」
フリードの後ろには冬香ちゃんがいた。体を小さく震わせている。
「ああ、わかっておる。フリード、直ぐに馬車を用意しなさい」
「ですが父さん」
この時間ともなると、国中あるいは外国からもお客さんが殺到して馬車を走らせても渋滞に巻き込まれてしまう。
「分かっておる、行けるところまで行ってそこからは走るぞ」
「あなた、私もついていきます」
「分かっておる。何年連れ添っていると思っているのだ。そもそもワシ一人なら馬を用意させるぞ」
夫の口調はとても穏やかだった。心の中では怒りが渦巻いているのに。
ソフィー視点
「うん、これならお店に出せる」
「ありがとうございます」
若い職人のドライヤーの出来を見せてもらった。これでこの工房でドライヤー作りに参加している職人は全員作れるようになった。近いうちに販売を開始できるだろう。全ては優さんと師匠のおかげ。本当に感謝。
「ソフィー!」
「師匠、どうしました!」
感謝していたらその本人が来た。それにしても様子がおかしい。いつも私に指導するときにはどっしりとした感じがするのに、今はちょっと焦っている感じが伝わってくる。
「優様が逮捕された。もちろん冤罪。助け出すから手伝って」
「もちろんです」
そこまでするマルケス商会! 私は絶対にあなたたちを許さない。私は心にそう固く誓った。
クレア視点
コンコンっと優しくノックする音がする。
「どうぞ」
「ギルマス、コーヒーをお持ちしました」
ああ、もうそんな時間か。デスクワークに追われて時計見てなかったわ。
「ありがとう」
「あれ、ギルマスなんか機嫌良さそうですね。いいことありました?」
「うん、今夜はパーティーにお呼ばれされているの。なんと辺境伯家よ」
「ええ~、いいなぁ~」
「いいでしょ~。しかも料理は冬香ちゃんが作ってくれるの~」
「冬香ちゃん?」
「あの白くてちっちゃくてかわいい子。彼女料理がすっごく上手なの~」
「そんなにすごいんですか?」
あら、分かってないようね。
「ふっ、ふっ、ふ~、なにしろ辺境伯家の料理人が教わるくらいなのよ」
「ど、どれだけ上手なんですか?」
「しかも、バーデンでは見たことも聞いたことも無い料理がたくさん作れるのよ~。いや~、楽しみだわ~」
私の機嫌は最高に良かった。この時までは。
「クレアさん、いるか」
けたたましいノックをする音がした。こんな叩き方、職員には指導していない。誰だろう。あれ、この声は……。
「カールさん⁉ どうぞお入り下さい」
「大変だ、優さんが魔道具ギルドに捕まった!」
「嘘でしょっ!」
そんなはずはない。だって……。
「いや、ホントだ。オレの目の前で逮捕されたんだ」
私の機嫌は一気に一気に急降下した。
「では、魔道具ギルドに向かいましょう。貴女はすぐに馬車を用意して」
引き出しからギルドカードを取り出すと駆け出した。
「どう思います」
カールさんも同行するということで二人で職人ギルドの馬車に乗っている。
「多分下が勝手にやったことでしょう」
「上は関与していないと」
「ええ。少なくとも魔道具ギルドのギルマスは無関係と断言できます。ですから真っ先にギルマスに会いましょう。彼女を通じて釈放してもらうのが一番早いです」
「その根拠は?」
「昨日、ギルマスにわたしのドライヤーを貸してあげました」
「個人で所有出来るなんて流石アイリさんですね」
「あら、おだてても何も出ませんよ。それで、ドライヤーを彼女に貸した時に、彼女はドライヤーが魔道具でないことを確認しているんです。ですから彼女を通さないで下が勝手に逮捕したと考えるのが自然です」
「賄賂か? いやマルケス商会が、贈収賄で捕まるリスクを負うとは思えないな」
「たしかにそうですね。となると職員を騙したのでしょう」
「賄賂にせよ、騙したにせよ、どっちにしてもギルマスを通した方が早いですね」
すると馬車が止まった。御者の方からは「渋滞です」と報告があった。
「ここからは走りましょう」
「ええ」
私はスカートを摘み、全力で駆けだした。大切な二人の友人を助け出す為に。
次回で一旦終了となります。




