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ヘアアイロン その④からの……

明けましておめでとうございます。今年もよろしく願いします。


多忙につき、執筆時間が取れないまま新年を迎えてしまいました。

「それじゃ、まず髪にカールをかけましょう」


 瞳から渡された38mmのコテアイロンを手に取ると、リリーのサイドの髪のうち前の方を一房まとめる。


「髪の中央から戦端にかけて加熱したコテアイロンを軽く巻き付けます。温度は150度、とても熱いので気をつけて下さい」


「「はいっ」」


 声に気迫が籠っていて、真剣に覚えたいという意欲が私にしっかりと伝わってくる。


「バーデンでも見かけますが、こういうふるふわな感じが出ると可愛いでしょう」


 ゆるく一回転させて体の前に垂らす。ただそれだけ。


「は、早い」


「私達の5倍、いえ10倍以上かも……」


 やっぱりスピードも大事。女性は身だしなみに本当に時間がかかるから、少しでも早く仕上げたいよね。 


 続いてサイド、そして後ろ髪を7:3に分けると左右の二つをサイドテールにして纏める。止めるのにはリリーの髪留めを使う。


「さて、ここからが今回の真骨頂」


 サイドテールの先端にこれまたコテアイロンをかけさらにカールをかける。あとは前髪をサイドテールと逆の方向に7:3に分ければゆるキャン△の犬山あおいの髪型が出来上がり。


「あら素敵~」


「この髪型、若い女性に流行りますよ」


「きっと、女性なら年齢に関係なく受け入れられますわ」


「優ちゃんならアレンジも出来そうだわ」


 夫人、フレデリーカさん、クラウディアさんは気に入ってくれたようね。


「どう、リリー?」


 リリーは頭の角度を変えながら鏡を覗き込んで、満足そうに頷いている。


「今までで一番のお気に入りです。帰ったら早速彼氏に見せてあげたいです」


「そ、そう。それはいいわね」


 このリア充めっ、と思わなくもないが口に出すほど大人げないマネはしない。


「それにこの髪型ならそちらのヘアアイロンがあればどなたでも一人で出来そうですね」


「ええ、技術的にはそんなに難しくないわ。あとは量産化だけど、それもなんとかなるでしょう」


 ソフィーなら作れるだろうし、いずれ私の工房でも作るだろうからね。


「それでは師匠、他の髪型も是非ご教授下さい」


 ミーナが一歩前に出て来る。ヘアアイロンを知ったら俄然やる気が出るわよね。


「いいわよ」


 私の指導は夕飯を挟んで深夜まで続いたが、途中で帰ったのはカールさんとエマちゃんだけだった。




「それで、彼女はどうなの。随分上達したみたいだけど?」


 私は次に辺境伯家を訪れた。目的はアイリさんへの指導だ。


「アイリさんですか。本当に上達しましたよ。最初は腰が引けていたのに今は曲がるのも止まるのも出来るようになりましたから」


 私の目の前では、アイリさんが腕を振り、体重をしっかり乗せて左に曲がり、そこからまた加速し、右に曲がっていく。


「彼らに襲われても、逃げられればいいけど……どう?」


 夫人は護衛についているウィドちゃんに尋ねた。相手が辺境伯夫人とあってはウィドちゃんも敬語を使う。


「囲まれたり、不意を突かれなければ簡単には捕まらないでしょう。本当によく練習しましたよ、アイリさんは」


 ウィドちゃんはアイリさんの努力と上達ぶりを手放しで賞賛した。




 アイリさんはあれから毎晩猛特訓を続けた。昼間はお店を切り盛りし疲れがたまっているのにそれでも休もうとはしなかった。初日・二日目は転倒を繰り返しあざが出来てるだろうにそれでも休まなかった。私が初心者の頃はまだ子供で体重も軽かったし、プロテクターもあっちの世界の上等な代物だから転んでも大したダメージにならなかったけど、アイリさんは違う。大人だから体重だってそれなりにあるし、プロテクターもそこまでいい物じゃない。

 体をあちこち痛めているのに続けているので、「どうしてそんなに頑張れるの?」と尋ねたら、「優ちゃんが私の為に頑張ってくれるから。だから私も全力で頑張る。もちろん自分の為、お店の為でもあるけれど。それに何が起こるか分からないなら万全の準備をしておくべきだと思うの」と、微笑んで見せたのだ。




「タイムリミットは明日の夜6時だったわよね」


 辺境伯家なら調べ上げていて当然か。


「予定では明日のお昼にはクヴァルティーアデパートさんからお金を受け取れることになっています。ですから6時には余裕で間に合います」


「仕掛けるとしたら今晩でしょう」


 ウィドちゃんの声が少し重たい。


「あなた達がいるのに?」


「ですが、昼間に襲撃するのは捕まる可能性が高いので、仕掛ける可能性は低いです」


 リオマちゃんの考えは正しいと思う。けどやっぱり引っかかる。私たちは何か大事なことに気付いていないのではないか?この1週間、何度もそう思ったけれど結局答えは出なかった。


 今、私に何が出来るだろうか?


「アイリさん、もう一つ教えてあげますね」


 私はいざというとき役に立ちそうなテクニックを教えることにした。




 そして翌朝。何も起こらないまま夜が明けた。’薔薇の乙女’の4人は拍子抜けしていたが何も起きないならそれでいい。私は別の用件を済ませることにした。


「カールさん、ソフィー。二人には話せる範囲でお話ししましょう」


 二人を職人ギルドに呼び寄せたのだ。あれを説明するために。


「ああ、是非聞きたいな」


「私も興味があります」


 二人ともいつになく真剣な顔をしている。


「クレアさん、お願いします」


「その前に。二人ともこれは最重要機密です。知っているのは私と優ちゃん本人、それに冬香ちゃんと瞳ちゃんだけですから、そのつもりで」


「ああ、口が堅くなかったらクヴァルティーアデパートの社長は務まらないさ」


「私も師匠が仕える方を裏切るようなことは致しません」


 そうだよね。


「二人ともこれを見て」


 クレアさんが机の引き出しから取り出したのは、私が提出した申込用紙。


「嘘だろ……」


「これは……」


 二人とも私の住所に目をやり、絶句している。私には見えないけど、アリアさんの認識阻害魔法が掛かっているらしい。それもアリアさんが掛けたと分かるように。


「まあ、そういうことです」


 私は重々しい空気を吹き飛ばそうとペロッと舌を出した。


「分かった。これ以上は詮索せんよ。お前さんが神の御使いだろうがな」


 カールさんは大きなため息をついた。


「いえ、そんな偉いもんじゃないですよ。でも詮索しないで下さると助かります」


「私もこれ以上はお尋ねいたしません。このことは墓場まで持って行きます」


「ソフィーちゃんが墓場に行くのは6~70年後だろうけど、そうして欲しいわ」


 この件はこれで解決したし、後はお金を受け取るだけか。



「さあ、約束のお金だ。是非受け取ってくれ」


 カールさんがアイリさんに渡したのは二枚の小切手。1枚は借金と同額の2億G、そしてもう1枚は8億G。合計すると約束通り10億Gとなる。


「うひゃ~、こんな大金、生まれて初めてみたよ」


「ちょっとウィド、はしたないわよ」


 窘めたのは勿論ベルティーナちゃんだ。


「そうですよ。たしかに普段お目にかかれない額ですが、だからといって奇声を上げるのは貴女に品が無い証拠です」


「ウィド、懐に入れちゃダメだよ」


「アタシはそんなことしね~よ」


「分かってる。ほんの冗談」


 リオマちゃんが真顔なので冗談に聞こえない。


「ではマルケス商会というか、彼奴がいる宿に行きますか」


 何が起こるか分からないからさっさと渡してしまおう。


「そうですね」


 ベルティーナちゃんが頷くと他のメンバーの顔つきが一気に引き締まった。


「’薔薇の乙女’の皆、わざわざ付き合ってくれてありがとう」


 契約期間は今朝までなのだが、お金を渡すまで付き合ってくれると申し出てくれたのだ。これは心強い。万が一白昼堂々襲われても対処できるだろう。


「いいえ、お気になさらず。これは美味しい食事を頂いたお礼ですから」


「そうそう、気にしないで下さい」


「是非恩返しをさせて下さい」


「これは乗り掛かった舟。最後まで付き合います」


 やはりこの4人がいると頼もしい。そう思いながらホテルカイザーを出たところで、見知らぬ男性に呼び止められた。


「おい、道具屋のアイリと職人の優だな」


 服装はスーツでビシッと決めているが、いかつい人相。そして後ろには武装した兵士がずらっと並んでいる。


 こうなることも頭の片隅にはあったので私も含め全員が構える。


「あなた達は何者ですか!」


 ベルティーナちゃんが誰何すると、その男性は懐から一枚の紙を取り出し見せつけた。


「こちらは魔道具ギルドだ。魔道具ギルドの許可なく魔道具を販売した罪で逮捕する。おい、二人をひっ捕らえろ」


 驚きのあまり何もできないまま私とアイリさんは逮捕されてしまったのだ。

近日中に別作品をUPして、その後次をUPしますが、いつになるかは未定です。

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