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ヘアアイロン その②

 話は今朝に遡る。


「カールさん、フレデリーカさん。まずはブラシ付きドライヤーです」


「どうぞ、収め下さい」


 今回は瞳にも同席してもらった。フレデリーカさんが会いたがっていたというのもあるが、私もなるべく一緒に過ごしたかったのだ。


 冬香も一緒にいるけど瞳の後ろに控えている。役割分担に応じて立ち位置(比喩でなく物理的な意味で)を選んでいるのだろう。


「いつもありがとう」


「瞳ちゃん、ありがとうね」


「いえ、皆さんのお役に立てて何よりです」


「それと、昨日フレデリーカさんにお話しした試作品です」


 私と瞳はヘアアイロンを差し出した。


「ドライヤー? この棒みたいなのが……」


 カールさんの疑問に答える前に、私と瞳はヘアアイロンの髪の毛を挟む部分をパカパカと開いて見せた。


「こちらはヘアアイロンです。髪の毛にアイロンをかけ真っすぐにしたり、巻き髪を作ることが出来る道具です」


「それ、本当!!」


「ほほう……」


 私とあまり面識のないフレデリーカさんとそれなりに面識のあるカールさんでは反応が違うわね。


「こちらはストレートアイロン、髪を真っすぐに伸ばしたり、ショートヘアにカールをかけるのに適しています。瞳が持っているのがコテアイロン、巻き髪を作るのに適しています」


 へアイロンにもストレートとカールの二種類がある。そして今回瞳は両方を用意してくれたのだ。しかもカールに至っては太さが26mm、32mm、38mmの3種類。これでしっかりしたカールからゆるふわカールまで自由自在。結局瞳は徹夜で4つも試作品を作ってくれたのだ。ホントに申し訳ないわ。


「ねえ、試してもいい」


 今日はクラウディアさんとエマちゃんはお出かけで不在とのこと。となるとコレを使うのはフレデリーカさんしかいない。フレデリーカさんもそれに気付いているから今は殺気だっていないし。


「もちろんです」


「ああ、でも、迷うわね~」


 そりゃ、どんな髪型にするか迷うわよね。フレデリーカさんの髪型はゆるふわカールだけど、これを使えば日本人みたいな綺麗なストレートに伸ばすことも逆にきっちり巻くこともできるからね。


「「……」」


 気持ちは分かるけど、早く決めて欲しいわ。


「優ちゃんみたいな一部の隙も無いストレートにしようかしら、あ、でも以前の夫人みたいなのもいいわね」


「「……」」


 私もカールさんも口にこそ出さないが、フラストレーションが溜まってきている。


「え~、どうしよう~。困っちゃうわ」


 もちろん表情は全然困っていない。ちょっとウザイかも。


「「……」」


「う~ん。ちょっと決められないかも」


 プチン。


「あ~、もう早く決めて下さい」


 まさか私が最初にしびれを切らすとは思わなかった。


「そうだ、優ちゃん、なにかいい髪型知らない?」


 こっちで見かけなくて金髪に合う髪型。


 あ、あったわ。髪型の名称にクラウンが付くからフレデリーカさんの金髪にも合うし、あの髪型は私も何度もやっているから出来るし。


「こんなのどうです」


 私の髪型を一部変えるだけなので、ちょっとした仕草でフレデリーカさんに完成形が伝わった。


「あら、とってもお洒落ね。それにしましょう」


「それじゃ、準備しますか。カールさん、炭火ってありますか」


「炭火? ああ、加熱に使うのか。分かった、ホテルに頼んでみよう」


「では、私は何かお飲み物をご用意致します」


 冬香はやっぱり気が利くね。それじゃ一服しますか。




「では使い方を説明させて頂きます」


 それからしばらくして炭火が届き、それまでにフレデリーカさんは髪を洗って軽く乾かしていた。


 その間私とカールさんと冬香と瞳はコーヒーを堪能したけど。


「うん、楽しみね」


 ヘアアイロンのプレート側には蓋が付いていて、パカッと開き炭火を入れ蓋を閉じる。


「まず、こちらに炭火を入れ温度が上がるのを待ちます。髪質には個人差がありますので、とりあえず150度で試してみます」


「おい、ちょっと待て!」


 150度のくだりでカールさんが大声を上げた。


「あー、やっぱり驚きますよねぇ」


 こうなるのは予想の範疇だけどね。

 

「あったりまえだ! どうやって測るんだ!」


 二人にプレートの外側を見せる。


「ここに温度計があります。ご覧の通り、100度から200度まで目盛りを振っておきましたけど絶対に180度より上では使わないで下さい。髪を傷めますから」


「そんなすごいモン、簡単に付けたな」


 バイメタルはプレート部分に埋め込んであり、プレートの温度を測定することが出来、目盛りはその上についておりガラスで覆われているので目盛りが見られる仕組みだ。


「付けたのは瞳なんですけど」


「でも考えたのは優様です」


「そんなに凄いのですか?」


 フレデリーカさんはイマイチついていけてないようだ。


「ええ、水温より高温を測れる温度計なんて見たことも聞いたこともありません。間違いなくこの世界の技術の進歩に大きく貢献します。しかもこんな小さく作って」


 だよね~。


「なんかこう、ピンとくる例えがほしいですわ」


「そうですね。シュニッツェルを上げる油の温度は170度が目安です」


「は……。ちょ、ちょっといい、そしたらその温度計を使えば揚げ物の温度が測れるから焦がしたり中身が生って失敗をしないで済むってこと? なにそれ。凄いじゃない。優ちゃん、料理用の温度計を作ってよ」


 目に涙を浮かべているのは、きっと揚げ物で失敗したことがあるからよね。それも彼氏に作ってあげて失敗したとかそういう切実な感じがする。


「温度計についてはヘアアイロンの後でよろしいでしょうか」


「ああ」


「そ、そうね。続けてくれるかしら」


 二人とも少し落ち着きを取り戻してくれたので再開することにした。


「希望の温度になったところで、作業を開始します。今回はフレデリーカさんの髪を真っすぐ伸ばします。やり方は比較的簡単です。この二枚の板の間に髪の毛を挟みます。位置としては髪の根元から3cmほど離れたところで髪を挟み、テンションをかけながら毛先まで滑らせます」


 フレデリーカさんの髪をブロッキングしてヘアアイロンで髪を真っすぐに伸ばしていく。そして冬香と瞳が鏡を使ってその様子をフレデリーカさんに見せている。


「ええっ、凄い」


 フレデリーカさんは大きく開いた口を手で塞ぐ。


「たしかに、これは凄いな」


 カールさんもその様子に驚きを隠せない。


「後は、フレデリーカさんの両サイドの髪をそれぞれ上下に分けて三つ編みにします。そして後ろに持ってきて耳より少し高い位置で二つを紐で縛り、内側に二回くるっと回し入れます。最後に紐を解いて出来上がりです」


 髪型の名称は編み込みハーフクラウンアップ、ソードアートオンラインのヒロインであるアスナの髪型だ。アスナとこの髪型の組み合わせはとても可愛くて可憐だ。近年まれにみるほどの人気が出る要因の一つだろう。


「華やかな感じがしてとっても気に入ったわ」


 そしてフレデリーカさんがこの髪型にすると女性らしさがぐっと増すのだ。


「実に素晴らしい」


 カールさんも賛辞を惜しまない。


「ところで優ちゃん」


 甘えるような声でねだってくるが、いえ口に出さなくてもこの後ねだってくるのが目に見えてるからねだってくると表現しよう。


「今すぐは差し上げられません。だって試作品これしかないんですよ」


「ええ~、欲しい。お願い。せめてこれだけでも」


 ごねられてもダメである。


「あ~、それじゃ明日でいいですか」


「明日ねえ。髪はさっき洗ったし、今日一日この髪型で過ごすから、いいわ」


 フレデリーカさんも納得してくれた。


「但し、明日のブラシ付きドライヤーの納品はありませんがよろしいでしょうか」


 行くらなんでもこれ以上瞳に無理をさせる気は無いからね。


「ええ、その位全然いいわよ」


「それじゃフレデリーカさんだけ……いや何でもない」


 フレデリーカさんだけヘアアイロン4点セットを入手できるのは不公平であると抗議しようとしたカールさんをフレデリーカさんが全身全霊で殺気を放って止めたのだった。

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