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事情

「優ちゃん?」


 アイリさんも何が起きたのか分かっていない様子だ。


「此奴らは倒しました。すぐに警察を呼んでください」


「警察って?」


 あ、しまった。


「この国だと、憲兵かな」


「それなら……」


 その後は聞き取れなかった。誰かが大声で叫んだからだ。


「アイリ!」


「ホルス!」


 アイリさんと抱き合っている憲兵は旦那さんか彼氏さんだろう。アイリさんは大人の女性で、顔も性格も申し分ないからパートナーがいて当たり前だ。


「嬢ちゃん、怪我してるのか」


 もう一人入ってきた憲兵が私の手首を見て勘違いしたようだ。


「これは、ここに来る前からです」


「そうか。それで事情を聞かせくれるか」


 あちらの二人に今、声を掛けるのは野暮というものだろう。


「……という訳なのです」


 一通りの経緯を説明するころには増援も到着して、ヤンキーたちは捕縛された。


「ところでだ、どうやって此奴らを倒したんだ」


 身長155cmと小柄な女性で、しかも左手をねん挫しているのだから不思議だろう。合気道はこの世界にないからね。


「あら、護身術は乙女の嗜みよ」


 艶のある声で、髪をかき上げ、(しな)を作って見せる。これが大学なら「乙女じゃなくて子供だろ!」と同期の男子がツッコミをいれるところだ。


「はっはっはっ」


「おおー、受けた受けた」


「いやいや、嬢ちゃんには負けたよ。だからどうやって倒したかは聞かない」


 別に隠すつもりはない。


「一週間待って頂ければ無料で教えます」


 今はアイリさんの借金を片付けるのが先決だ。


「そいつは恩に着る」


 ダンディーなおじさまの口元がわずかにほころんだ。


 ん。まてよ。


「この店の借金を肩代わりしてくれるなら今すぐ教えてあげますけど」


 おじさまは深いため息をついた。


「それが出来れば万事解決なんだが、予算が下りるのを待っている間にこの店は差し押さえられちまう」


「そう、ですか」


 いい方法だと思ったのだが、そういうことなら仕方ない。


「なあ、嬢ちゃん」


「はい?」


「嬢ちゃん、バラの棘ってのは見えているから男が警戒するんだ。でも嬢ちゃんの棘は透明さ。男が迂闊に触れて怪我をする。出来れば嬢ちゃんの棘は誰にでも見えるようにして欲しいね。そうすれば不用意に男が近寄らなくて済む」


 キザなセリフが良く似合う。これで葉巻を咥えていたり、ウイスキーのグラスを傾けていたら絵的には最高だ。


「あら、兵士さんも薔薇を摘み取る連中の味方?」


 なら、こっちも乗りますか。


「いや。稀にいるのさ。棘があっても力づくで薔薇を手折るヤツが」


 ゲームより物騒な世界になってるのね。


「そうね。首に’触るな危険’と書いた看板でもぶら下げようかしら」


「そいつは止めたほうがいい。せっかくの美人が台無しだ」


 兵士さんは腕を広げておどけて見せた。


「じゃあ、貴方が虫をおっぱらってくれる?」


「そうしたいのは山々だが、毎日薔薇を眺めているとカミさんに叱られちまう」


「あら、残念。ならせめてそこにいる害虫を人さらいってことで逮捕してくれる?」


「そいつは難しいな」


 これまでの小粋なトークからは考えられない対応だ。


「どういう事」


 なにか理由があるのだろうか。証言だけじゃ逮捕できないとか。


「此奴らはただのチンピラで、嬢ちゃんの身柄を金にかえる当てなんてないのさ。それに今回の目的は単なる脅しだからな」


「脅し?」


 それにしてはやりすぎのような気もするが。いや、連中の脳みそには’やりすぎ’という単語がないかもしれない。


「もしくは挑発だな。アイリが嬢ちゃんを助けようと早まったマネをしてくれることを期待して」


「連中にそんな頭脳ありますか?」


「連中になくても親玉には、マルケス商会にはそれだけの知恵があるさ。大事にならないように指示を出しているのは間違いない。今回だってなんだかんだいっても数日でシャバに出られるはずだ。これが嬢ちゃんを襲ったっていうなら監獄に数十年ぶち込んでやれるんだがな」 


 憲兵さんは肩をすくめた。


「マルケス商会。一体どんな店ですか」


 ゲームにそんな商会はなかった。一体何が起きているんだろう。


「黒い噂の絶えない店さ。さっきみたいのことが常套手段として知られている。だから大抵の人はマルケス商会を敵に回したくない。……おっといかん。俺は城に戻らなきゃいけないから、続きはあっちの二人に聞いてくれ。おい、あとは任せるぞ」


 その声に反応してアイリさんと男性が歩いてきた。 


「優ちゃん、紹介するわ。わたくしの夫、ホルスよ」


 やっぱり旦那さんだったか。


「ホルスだ。巻き込んで済まなかった」


 頭を下げされても困る。


「別に気にしないでください。それより立ち入ったことお伺いしますが、マルケス商会と何があったのですか」


「恥ずかしい話ですが借金があるんです。それも返せる見通しが立たない金額が」


「何でまた?」


「今から二年前、ここを開いていた私の両親が事故死しました。仕入れた商品を馬車で運んでいる最中に、がけ崩れに巻き込まれて……ううっ……」


 アイリさんの目から涙が零れた。


「それで」


 ホルスさんに目配せをして続きを促す。


「家族は一人娘のアイリと夫である俺の二人だけ。だからアイリが後を継ぐことにしたんだ。アイリは昔から店で働いていたから仕事は一通りできる。だが、いくら仕事ができるといっても商品が無いことには始まらない。それに馬車だって必要だ。だから商業ギルドと他の道具屋に援助を頼んだんだ」


「よく同業者が助けてくれましたね」


 いやおかしい。そもそもゲーム内に道具屋はここ一軒しかなかった。同業者っていったいなんだろう。


「ああ。他の道具屋達とは仲がよかったからな」


「その後はどうなりました?」


「今から一か月前、マルケス商会が他の店が持っている借金の証文をもってここに来たんだ。あいつ等他の店を半ば脅して相場以上の金と引き換えに証文を手に入れたんだ」


「犯罪スレスレってことですか」


 ホルスさんは唇をかみしめながら頷いた。


 つまり明白な恐喝ではないってことか。まるでインテリヤクザだね。


 そうえいば昔見た映画でも、ヤクザは地上げするとき相場以上の金で土地を買っていたっけ。


 何か手はないか。そういえばさっき気になる単語が出て来たな。


「商業ギルドは?」


 ゲームには商業ギルドなんてなかった。考えられるとしたら二つ。一つはアリアさんがゲームと同じ世界を生み出した時に辻褄合わせで発生したケース。ゲームの世界より店舗が大幅に増えてるなら何らかの対策が必要となる。

 もう一つはアリアさんが作ったケース。二次元の世界に精通しているアリアさんなら如何にもやりそうだ。


 どちらにしろ知らないことには変わらない。詳しく聞いてみよう。


「彼らは中立を保っている。商会の連中も脅しが効かない相手と分かっているから脅してはいない。だから取り立てには来ない。けど担保がないからこれ以上金を貸してくれることもない」


「何かつけ込む余地はないの」


「いや、マルケス商会は保身のために犯罪行為は行わない。精々末端のチンピラがやりすぎるくらいだ」


 今回みたいにか。


「でも、どうしてそこまでしてこの店を手に入れたいんですか」


「マルケス商会はいわゆる新興勢力です。そして日用品から武器、防具、魔道具と各種そろえた大型店舗を王国各地に建設していると聞きました。

 そして次に出店するのがここバーデンです。王国中のお金持ちが入れ替わり立ち代わり訪れるし、金持ちはたいてい普段からマルケス商会を利用している。だからここでも客として計算できます。

 しかも、平民もたまの贅沢ということで財布の紐が緩くなります。ここで初めて利用して、商品を気に入れば地元でリピーターとして来てくれる可能性は十分あります。

 新たに出店するにはもってこいの場所と言えます。

 ただ、新たに出店するにはバーデンは場所が狭く、土地を入手するのはお金と手間がかかります。でもなるべくお金と手間をかけたくないのが商人というものです」


 流石にこの辺りの事情は兵士のホルスさんより商人のアイリさんの方が詳しい。


「それで考えたのがこんなことなんてサイテーだね」


「ついでに言えば同業者を一店舗潰すことが出来ます」


 うん。クズだ。もしこの話が全て本当なら。


 そしてアイリさんたちが嘘をついている様には見えない。


 もっとも彼女たちがゲームのキャラクターで、声を声優さんが当てていれば、嘘を見抜く自信は無いけど。


 どうするか腕組みして悩んでいるとホルスさんが中座した。


「二人とも済まない。流石にもう戻らないといけないだろう」


「ちょっと、この状況で戻るの」


 幾らなんでも冷たすぎないか。


「うん。仕方ないわね。それじゃ気をつけて」


 アイリさんもあっさりと送りだした。


「どうしてですか」


 アイリさんはぽつりぽつりと語り始めた。


「実はね。ホルスは給料を前借りしているの」


「よく貸してくれましたね」


「ええ。滅多にないことなの。でもその分きちんと働かないといけないわ。もしサボりでもしたら今後私たちみたいにお金に困った人が前借りしようとしても借りられなくなるかもしれないから」


「確かに、ホルスさんが悪しき前例になると不味いですね」


 うん。後で謝っておこう。


「でも、本当にどうしましょう」


 私は決めた。


 アイリさんの肩に手を置き、きっぱりと言い放つ。


「大丈夫、私が何とかするわ」


「でも、どうやって」


「私はまだ勉強中の身だけれど技術者よ。素敵な発明品を持っているの」


 ここは瞳に作ってもらったアレの出番だ。

気が向いたら、ブックマーク登録、評価ポイントの方、よろしくお願いします。励みになります。


他にもう一作書いています。


タイトルは


『神魔大戦~神と悪魔の戦いに化学で割って入る物語』


https://ncode.syosetu.com/n2539ft/


です。こちらは打って変わって生々しい描写のオンパレードです。思いっきりR15指定です。


読まれる際は十分気をつけて下さい。

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