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別行動

 試してみる、となると場所は一か所しかない。


「シスターマム、こんにちわ」


 毎日のルーティーンはあまり変わらないようで、マムが聖堂で清掃をしていた。


「三人ともいらっしゃい」


「今日もお祈りに来ました。それと昨日の続きを……よろしいですか」


「ええ。いつでも歓迎しますわ」

 

 いくらここの環境がいいとはいえ、親兄弟を亡くしていたり、別々に生活しているのだからさみしいとか辛いとか感じることもあると思う。そんな時は、マムの柔和な笑顔が子供たちを癒してくれるんだと思う。


 でも、マムなら男性にもてそうだし、子供好きだから結婚して子供を作るって生活を送っててもよさそうなものだ。その辺りは何かあるのかもしれない。気にはなるけど詮索するのは失礼よね。


 などと益体も無いことをお祈りしながら考えていたとはシスターマムは想像もつかないだろうけど。


「それではおやつ作りを手伝わせて頂きます」


「お願いしますね。子供達も冬香のお菓子が大好きですから」


 冬香には子供達の注目を集めてもらうことにしたのだ。




 想定通り冬香のおやつは大好評だった。そしておやつの時間が終わると皆はいつも通り温泉へ行くこととなった。


「優さんは行かないんですか?」


 などと私に声を掛けてくれるのはライラだけだ。他の子は皆冬香と瞳から離れようとしない。


「私はお仕事があるから」


 仕事があるのは私だけではない。


「ボクもまだ仕事があるから」


 瞳には、皆がいなくなったところであっちでドライヤーを作ってもらうことになっている。材料はすでに購入して鞄に入っている。


「えー、瞳と一緒に温泉入りたい」「私も私も」


 瞳は可愛い可愛いエゾモモンガなので子供達からの人気も高い。私と違って。


「ほら、我儘言うんじゃないよ」


 グランマが注意すると子供達もおとなしくなってくれたけど。


「皆ゴメンね。でも冬香は皆と一緒に温泉に行くから、楽しんできてね」


「「「「「「はーい」」」」」」


 やはり冬香の人気は絶大だった。




「じゃ、やりますか」


 まずはインラインスケートを履いてみる。


「どうですか?」


 瞳はまだあっちに戻っていない。別に急いで帰る必要はないからね。


「うん、しっかりしてるわね」


 地面を踏んでみると、ウィールの硬さが全然違うのが良く解る。


「多孔質の部分が樹脂で埋まってますから、その分強度は大幅に上がってます」


 試しに滑ってみること小一時間、傷やひび割れが一切ない。これなら何の問題も無いだろう。

 ローラースケートも試してみたいが足のサイズが合わないので、履くことが出来ない。アイリさんの方が1cmサイズが大きいのだ。


「よし、これで完成っと」


「あ~、やっと出来た~」


「これも瞳のおかげだよ」


 私は瞳をぎゅっと抱きしめた。うん、瞳が使い魔で本当に良かったよ。


「優様が真剣に考えてくれたおかげです」


 いつになく真顔でそう言われるとちょっと恥ずかしい気もする。


「そう、ありがとう」


 嬉しさとテレが相まって顔がやや紅潮しているのが自分でも分かる。


「あ、そろそろ行かないと」


 転移しているのを見られるわけにはいかないから、皆が戻ってくる前に転移しないといけない。


「それじゃ、お願いね」


「はい」


 瞳はおどけて大げさにびしっと敬礼してれくれた。




 あ~あ。


 私は魔法陣の有る礼拝堂まで瞳を送り届けると椅子に座り込んだ。


 ここはグランマが戸締りしたから出られない。かといって今教会の中で出来ることやしたいことは特にない。強いて上げるなら芝生の上で寝転んでみたいところだがせっかく冬香が仕立ててくれた服を汚すつもりは無い。

 もし、インラインスケートで転倒したら汚れるどころか破けてしまうが、その時は冬香が破けた箇所は直してくれることになっている。しかし汚れを落とすことは出来ない。ちゃんと毎日あっちで洗濯してくれるのよ。それに普段着は3着用意してくれてこれを着まわすことになった。冬香は幾らでも作ってくれるって言ってくれたんだけれどこれは私が止めた。流石にもったいないからね。


 さてこれからどうしようか。この後辺境伯家に焼きそばの作り方を教えに行く約束があるから一旦アイリさんのところに戻ってドレスを取りにいかないといけない。


 それからどうしようか。完成したのをソフィーに見せたいし、でもアイリさんの件でカールさんに相談したいし……。


「優様」


「冬香、おかえり」


 考え込んでいるうちに皆が帰ってきてくれた。お風呂上りなので冬香の顔がほっこりしていてこれまた可愛い。


「留守番ご苦労さん」


「グランマ、私子供じゃないんですから」


 私は苦笑した。グランマからすれば私はまだ子供扱いなのだろう。


「おや、瞳は?」


「仕事があるので先に帰らせました。私もこれで失礼します」


 嘘はついていない。皆がアイリさんの家に帰ったと思ったらそれは勘違いだ。


「そうかい。仕事じゃしかたないね。でもこれからもなるべく顔を見せて欲しいね」


「そうです」「また来てね」「明日も」


 子供たちのキラキラ輝いた瞳を見せられると断れない。


「なるべく来られるようにします」


「うん。またお菓子を作りに来るからね」




 悩んだ挙句先に辺境伯家を訪ねることにした。というのもアイリさんの身の安全が今すぐどうこうという訳ではないのであれば辺境伯家に私と冬香が約束通り尋ねるのが筋と考えたから。


「こんにちわ」


 門の前で出迎えてくれたのはなんとフリードさんだった。


「お待ちしておりました」


 フリードさんのエスコートで建物まで案内された。昨日と違って庭師の方がマーガレットの手入れをしている。


「フリードさんがわざわざ出向かえてくれるとは思いませんでした。てっきり執事さんとか門番の方とか」


「ああ。門番を雇っていませんよ。といいますか家に門番がいるのは王室か、よっぽどのお金持ちか、あるいは後ろ暗い方々ですね」


 辺境伯家でさえ門番がいないとはね。ゲームではいたんだけどあれは雰囲気を出すための飾りみたいなものだったのかな。


「マルケス商会とかは」


 後ろ暗いの筆頭だからね。


「王都にあるマルケス商会の社長宅には門番がいるとのことです」


 ここにいるのに王都の情報を集められるなんて、フリードさんは優秀なのかもね。


「後ろ暗いから?」


 フリードさんはあえて皮肉っぽい言い方で、両手を広げて、肩をすくめた。


「さあ、分かりません。でもお金持ちなのは事実です」


 あからさまに他人を卑下することなく、事実だけを述べている。でも真意は伝わってくる。うまい言い回しよね。


「さっき、マルケス商会がトラブルを起こしたのは耳に入っていますか?」


 フリードさんの声がこれまでと違って硬くなった。


「ええ。あのお店は優さんが懇意にしているお店ですよね」


 やはり有能ね。


「なんとかなりませんか?」


「基本的に辺境伯家は中立です。それにお金なら用意できるのではないですか」


 驚いた。そこまで調べ上げているとわね。


「どうやって調べたのですか」



「クヴァルティーアデパートさんやいくつかのお店と商談をしているのは承知しています。

 内容は分かりませんが少なくともドライヤーの売買については商談を進めているいるはずです。それなら借金の返済など、いとも容易いことでしょう」


 ホテルカイザーに出入りしているのを見られていたのか。それならあとは想像するのは難しくないか。


「クレアさんからは何も聞いていないのですか?」


「いいえ。クレアさんは守秘義務をきちんと守っています。あくまで友人としてアイリさんの窮状を訴えては来ましたけど……」


 だったら私の年齢も伏せてよ! いや待て、そしたら昨日ビールを飲めなかったのか。

 

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