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マルケス商会

誤字報告有難うございました。今後ともよろしくお願いいたします。

 人だかりが女性ばかりなのは、ドライヤー目当ての客しかいないからだろう。女性が逃げ出していないからまだ流血沙汰にはなっていないようだ。


「全くあいつらときたら」


この街(バーデン)からたたき出してやりたいよ」


 店の前に集まっている女性達が悪しざまに言っている。その中に見知った顔があった。

 

「どうしました?」


 一度立ち止まり深呼吸してから、材木屋のおばさんに尋ねた。


「どうしたもこうしたも、ああ、優ちゃんいいとこに来た。来てるんだよ。彼奴らが」


 彼奴ら、マルケス商会ね。


「ちょっと通してください」


 私が大きめの声を上げると全員が私の方を振り向き、そして人だかりが真っ二つに割れた。まるでモーゼの十戒のように。


 中に入ると筋肉質のいいガタイをしたお兄さんが二人と、その2人に挟まれた、いや守られている男性がいた。


 お腹がでっぷりと出ているだけでも見栄えが悪く、葉巻をくゆらせているので近づきたくないし、おまけにパープルのスーツを着込んでいるのだが、これが全くもって見た目がキツい。

 別にパープル自体はいいのよ。問題はギャグとしか思えないほど明るいから派手なのよ。

 これが落ち着いたパープルで、スマートな男性、例えばカールさんみたいな男性が上手く着こなせば様になるけど、こいつの場合はまるで正反対だ。品という言葉をどこかに置き忘れたのではないのだろうか。


 この三人とアイリさんの間に’薔薇の乙女’の4人が立ちふさがり剣呑な雰囲気が漂ってはいる。けれども、4人とも武器を構えてはいない。


「優様、マルケス商会が乗り込んできました」


 対してマルケス商会の男は視線を冬香に向けると、暴言を放った。

 

「乗り込んで来たとは、人聞きが悪いですな。おっと人ではなく獣でしたな。ガハハ」


 冬香に対する侮辱で頭に血が上りそうになる。だけど、合気道で心身を鍛えているのでかろうじて怒りを抑え込むことに成功した。


「言っておくけど、人聞きっていうのは他の人が聞いたらって意味だからね」


 その男はアイリさんや’薔薇の乙女’をじっくりと嘗め回すように顔を見つめるとさらに暴言を重ねた。


「おや、ここにはあなた以外に人間はいないでしょう。優さん」


 此奴と部下には、そして私にもケモ耳は無い。つまり此奴は公然と差別したのだ。


 私は沸き上がる衝動をぐっとこらえて、7秒ほど待って心を落ち着かせてから冷たく言い放った。


「人間、言っていいことと悪いことがあるのよ。親に教わらなかった」


 だが、目の前の男はこちらの説教には一切耳を貸さず葉巻を吸うと、スパーっと煙を吐き出した。


 お前は不良の高校生かっ。


「ええ、父からはそんな甘いことは教わっていないですな」


 ろくでもない親子だね。


「あなた一体何者。さしずめマルケス商会のお偉いさんの息子ってところかしら」


「これは申し遅れました。私マルケス商会社長の三男でキーガンと申します。マルケス商会バーデン支店の支店長に就任予定です。以後お見知りおきを」


「知りたくないわね。それでここに何しに来たの」


「これはとんだご挨拶ですな。私どもの末端の配下が無礼を働いたということでお詫びに参った次第です」


 胸を張っていうことかっ。


「それにしては来るのが随分遅かったんじゃないの」


「何しろ我がマルケス商会は’非常に規模が大きい’もので、私の耳に入るのに一昨日の夜まで時間がかかりましてね、それで夜分にお伺いするのは失礼ですし、昨日は日曜日でしたので、それで本日お伺いした次第です」


 うん。これっぽっちも信用できないね。


「私を連れ去ろうとしたのを’無礼’で済ませるつもり」


 舐められたままなんて許すつもりは無いから。


「部下が問い詰めたところ、ちょっと脅かそうとしただけだと弁解しています。確かに彼らには、人身売買などという大それたことをする度胸もツテもありません。彼らを首にしましたのでこの件はこれで収めて頂けないでしょうか」


 ふざけないでと啖呵を切りたいが、これについては一応裏が取れている。あとは落としどころをどうするかよね。


「話にならないわね。慰謝料はきっちり払ってもらうわよ」


 別にお金が欲しい訳じゃないけど筋が通らないからね。


「慰謝料なら彼奴らから貰ってくれ。私は知らん」


 軽く受け流されてしまったが引くつもりは無い。


「あの時はマルケス商会に雇われて仕事していたんだからマルケス商会にも責任があるんじゃないの」


「別に当店がそんな指示を出した訳じゃないですから。それとも何か証拠でもあるのですかな」


 甘い。これで言い逃れが出来ないはず。


「たとえマルケス商会が指示を出していなくても、事業者には第三者に損害を与えた責任があるんじゃないの。

 私を連れ去って人身売買しようとしたのならマルケス商会は無関係って言い張れるけど、私をダシにアイリさんを脅かそうとしたのなら無関係とは言えないんじゃないの」


 内容はさっきと同じだが法律用語を駆使したのだ。

 

 するとキーガンは「誰だ余計な入れ知恵をしたのは」と吐き捨てるように呟いた。


「金額については後日改めてご相談させて頂きます」


 今日のとことはこんなものかな。金額についてはあとでカールさんに相談するかな。


「それで、アイリさんはどうなの」


 アイリさんは全身を小さく震わせて怯えている。けど、店主として対応をしてもらわなければならない。


「慰謝料を請求します。金額については優さんと一緒に交渉しますので今日のところはお引き取り下さい」


 その瞳には力が籠っていた。勇気を振り絞って対応したのがよくわかる。


「では後日改めて。帰る前に優さん、一つよろしいですかな?」


「よくない」


 見当はついている。


「そうつれないことをおっしゃらずに」


「いやよ! どうせマルケス商会と手を組もうって話でしょ」


「クヴァルティーアデパートよりいい金額を提示させて頂きます」


 見た目はあれだけど抜け目は無いようね。


「お金の問題じゃないわ。ドライヤーを普及させて皆が幸せ(というかもふもふ)になるのが目的なの」


「フハハハハハ。甘い、甘いですぞ優さん。所詮世の中は金なのです。おい、行くぞ」


 キーガンは二人の部下を引き連れ退店していった。


「アイリさん、大丈夫!?」


 アイリさんの顔から血の気が引いている。かなり精神的に参ったのだろう。


「部屋で休ませましょう」


 ベルティーナちゃんの指示で、トリシャちゃんとウィドちゃんはアイリさんの肩を支えて部屋へと退散した。


「優様、裏手には誰も居ませんでした」


「ありがとう。瞳も無事で良かったわ。今回は力ずくでは来なかったわね」


「そうですね。彼らが来てから優さんが来るまでの間もあんな感じでした」


「’薔薇の乙女’の皆もアイリさんを守ってくれてありがとう。早速だけれど私が来るまでの間のことを詳しく聞かせて」


 ベルティーナちゃんの報告では口は悪いが暴力に訴えに来たわけではないようだ。


「あの二人、明らかに手練れではありますが武器も無いですし魔法が使えるようにも見えませんでした。4対2ならまずこちらが勝ちます。どうやら私たちが警護についていることも知っていたようです」


 それなら最初から戦う気は無いってことかな。 


「敵の強さとか魔法が使えるとかって分かるものなの」


「ええ、それこそ勘ですが」


 冒険者の勘っていうのは経験の積み重ねだからバカには出来ないわね。そうなると益々マルケス商会の打つ手が読めないわね。


「ふぅ。とりあえず、お昼にしましょうか」

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