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完成間近で

評価ポイントを下さったお二人、どうも有難うございました。俄然やる気が出てきました。

「これ見て」


 ローラースケートを鞄から取り出し、ソフィーに見せる。彼女の頭脳なら一目見れば大体見当はつくだろう。


「……これは、面白いですね。走るより速くて、走るより疲れない。車輪が木で出来ていて、これを強化したいのですね」


 ソフィーは僅かに口の端を上げている。これは笑っているのよね。


「ウィールって言うんだけどね。ここには体重が掛かるし、地面に接するから強度が欲しいのよ」


 ソフィーはなるほど、と小さく呟いた。


「ウィールの幅が二種類あるのは?」


 今度は私が僅かに口の端を上げる番だ。


「それは出来てからのお楽しみ。それで、これに必要な松脂って集められるかな」


 纏まった量ではないしここは山の中だから、入手しやすいといいんだけどね。


「この位ならすぐ」


 おや、断言したぞ。


「どこで売ってるの」


 この質問に対する回答にはとんでもないオチがあった。


「道具屋で買えます」


 ど、道具屋。イヤな、というかむしろ都合がいいんだけど精神的に凹む予感しかしない。


「あんまり確認したくないんだけど、アイリさんとこで売ってるのかな?」

 

「昨日、お店で見ました」


「え~」


 ポリ酢酸ビニルや生分解性プラスチックを作ろうとした苦労は一体何だったのよ。開発っていうのはそう上手くいかないって思っていたけど、これは悲しすぎる。


「でも、量は少ないですよ。何しろ用途が松明ですから」


「ああ~」


 この世界が中世のヨーロッパなら松明は需要が多い。いや、とてつもなく多い。灯りが松明かランプか蝋燭くらいしかないから。でもこの世界には明かりの魔法がある。なので松明の出番は少ないのだ。


「あとは楽器屋さんにもありますが、アレは高いです」


「そんな高級品、こんなことに使わないって」


 私は苦笑いをした。


 弦楽器の弓に松脂を塗って弦を擦ることによって音が出るんだけれど、そのような用途の松脂は高品質なので、もったいなくてこのような用途には使えないから。


「優様、カールさんにドライヤーを納品して、アイリさんと一緒にお昼を食べてそれからここに戻ってくるってことでよろしいですか?」


「ええ、それがいいわね」


 珍しく、瞳がスケジュールを提案してくれた。いつもは私が考えて二人がついてきてくれるんだけれどね。




「本来ならアイリさんが納品するのが筋なのですが、アイリさんのお店はお客さんが引っ切り無しでお店から離れられないので私たちが来ました」


 一応、言っておかないとね。


「ああ、構わないさ。それでブラシ付きのドライヤーって出来たのかい?」


 はい、と一つ渡した。


「それじゃ、試させてもらうわね」


 ここはクラウディアさんの出番だ。やはりドライヤーは髪の長い人ほど依存性(?)が高いからね。私もロングヘアーだからドライヤーは本当に手放せないし。


「前のも楽だったけど、今回のはもっと楽ね~。何よりこれなら一人で出来るのがいいわね~」


 クラウディアさんは一昨日ドライヤーを試す際に、ブラシをかけながらドライヤーを当てて髪型を整えていたのだが、今回はブラシをかけるとドライヤーを当てるが同時に出来るとあって大喜びだ。


「両方欲しいですね。ストレートなら性能は前のドライヤーで十分ですし、あっちの方が軽いですから好まれるでしょう」


 途中で隣町の商会の社長さんが自らドライヤーを取りに来たのだ。すぐ近くだから気軽に来られるのだろうし、クヴァルティーアデパートと深い関係を築きたいのだろう。


「他の人たちにもこれを送っておく。手紙をつけて使用方法を説明するから安心してくれ」


「それでは私はこれで失礼します。早速戻って宣伝させて頂きますよ」


 社長さんがうずうずしているのがよくわかる。


「あ、待って下さい。そちらでのドライヤーの反応はどうですか?」


 すると社長さんは心底嬉しそうにこう答えた。


「久しぶりに娘に抱き着かれましたよ。年ごろの、15歳の娘にですよ」




「それで、例のアレはどうなった?」


 カールさんは社長さんがいなくなると切り出した。アレとはローラースケートのことだろう。


「多分、今日の夕方には完成します」


「すぐに持ってきてくれるよな」


 目に凄い力が入っている。


「えっと、その、夕方は辺境伯家の料理人に料理を教える約束になってまして、多分明日になるんじゃないかと……」


「は……なんじゃそりゃ」


 カールさんが目をまん丸くして驚いている。


「それは優さんの国の郷土料理ですか?」


「そういうことです」


 するとカールさんが突然、訳の分からないことを言い始めた。


「ウチのデパートで店出してみるか?」


「ダメです。絶対に冬香は渡しません」


 私はもふもふな冬香を抱きしめ、カールさんに背を向けた。


「え、その子料理人だったのか」


 ああ、そういえば二人には言ってなかったわね。


「天才どころじゃないわ。どんな料理も魔法であっという間に作れるから。しかも味は絶品」


 カールさんは呆れ果てたようだった。


「……あっという間って、そこまでくると、最早天才を通り越して反則だな。でも試食して美味しかったらレシピを料理人に教えて欲しいな。そうすればその子を連れて行かなくて済むし」


 それなら条件次第かな。


「こっちでも食材が用意出来ればいいですよ」


 検討しますという日本人特有の返事の先延ばしや、遠回りのお断りでなく、きちんと説明のつく理由で保留したのだった。




「ボクも作った甲斐がありました」


 瞳は一昨日の夜に試作品を作り、昨夜納品分を作ってくれたのだ。昨日なんて日曜だというのに働いてくれて本当に感謝だよ。


「優様、早く戻ってお昼にしましょう」


 今日のランチはルーラーデ。肉巻きの一種でベーコン、タマネギ、マスタード、ピクルスを牛肉で巻いて焼くのだ。それとポテトグラタンに、シュパーゲルと食べ応えのあるメニューだ。代金はどうしたかといえばカールさんに出資金の一部を頂いたのだ。


 食材が8人分とあって、かなり重たいのだが足取りは軽い。


「そうね早くって、あれ?」


 アイリさんのお店が視界に入ると、なぜか人だかりが出来ていた。


「大変!」


 私は食材を放り投げて駆けだそうとしたが、冬香に止められた。


「優様、急ぐ必要はありますが、慌てる必要はありません。もし荒事が起きていたら人だかりなんて出来ませんから」


 そうよね。そうなったら皆一目散に逃げてるわよね。


「ボクたち先に行ってます。優様は急いででも慌てずに堂々と入ってきて下さい」


 冬香が正面から店に入り、瞳は裏手に回っていく。迷わず判断できるのは、この二人が荒事に慣れているからかも知れない。


 私も少し小走りでお店の入り口へと向かったのだった。

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