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専門は化学③生分解性プラスチック

すみません。いつもより短いです。

「すみませ~ん、ソフィーいますか」


 私はシュミット工房の扉を強めにノックする。


「どちらさ……ま」


 若い職人さんが扉を開けてくれたのだが、私の顔をみるなり固まった。いや固まられても困るんですけど。


「あの、ソフィーは」


 ソフィーがいるかなと扉の先をみてみると有名な工房の支店だけあってそれなりの広さがあるし、職人さんもベテランから若手までパッと見ただけでも10人以上はいる。そして扉から大分な慣れたところに一人突出して小柄な人物が作業の準備に取り掛かっていた。


「ねえ誰が来たのって、優さんどうしました」


 こっちに気付いたソフィーが、いつもより大きな通る声で対応してくれた。


「ちょっとお願いがあって来たんだけれど、いいかな」


「もちろんいいですよ。ああ、皆知ってるだろうけど、こちらが優さんと瞳師匠、それに冬香ちゃん。くれぐれも失礼のないように」


「「はい、三代目」」


 ごっつり皆さんが声をそろえる。見た目は子供なのに、職人としての頭脳は半端じゃないから、この人達もついてくるのよね、きっと。


「それで、どんなお願いですか。やはり作業場を借りたいのでしょうか」


「あ~、それなんだけど、真空ポンプってある?」


 マヌケな話だけど、真空ポンプって地球では17世紀には存在していたのよ。だったらこの世界にあっても不思議じゃないよね。全くもう~、昨日ソフィーに尋ねてみるんだった。


「ええ、工房の奥にあります。もしや、何か新しい発明ですか」


 途中でソフィーのテンションがわずかに上がる。そりゃ、会話の流れから察することが出来るよね。


「ちょっと借りていい。お礼なら」


 だがソフィーが私の言葉を遮った。それも想定していない理由で。


「すでに頂いてます」


「ドライヤーの製造の件? あれとは別に用意するけど」


「では、実験に立ち会わせて頂けるということでよろしいでしょうか」


「もちろん」




「それで、何を作る気ですか?」


 容器の中にはローラーブレード用のウィール、そして牛乳。うん、説明しなかったら誰にもわかんないわよね、こんなの。


 なのでソフィーに用意をして貰っている間にこれまでの経緯を伝えたのだ。


「ボクは上手くいかないと思うんだけどね」


「とリあえず、やってみましょう、師匠」


 ソフィーも渋い顔をしている。やっぱり無理かなー。私としては行けそうな気がするんだけどねえ。


「何事も経験よ、経験。それじゃ、ソフィーお願い」


「では、行きます」


 ソフィーが真空ポンプを動かすとがなり立てるような音が鳴り続ける。そして牛乳はみるみる量を減らしていく。


「ああ、やっぱり牛乳が多孔質に含浸してるね」


 私としては一安心なのだが、二人は厳しい顔をしている。


「優様、問題はここからです」


 一旦、ポンプを止め、今度は容器に酢を入れる。酢が牛乳に含まれるカゼインと反応するとカゼインが沈殿する。これが生分解性プラスチックの一種なのだ。


「あれ?」


 また、ポンプを稼働させたのだが、今度は吸いが悪い。


「やっぱり」


 瞳は’優さん、何やってるんですか’という呆れた表情を見せ、


「そうなりますよね」


 ソフィーはあまり表には出さないが、失敗して当然という反応を見せている。 


 一体なにが……あ。アホか~!


 私は思い切り床に伏せた。


 沈殿したカゼインが多孔質の中をある程度覆ったのだが、そのさらに中には牛乳がたっぷりと残っている。そしてそこまで酢が届かないのでこれ以上カゼインは沈殿しない。




 今回は流石に凹んだ。失敗なら仕方ないけど、完全に読みが甘かったからね。実際、二人は実験やる前からきちんと考察が出来ていたし。


「ああ~、私なにやってるんだろ」


 一人しょぼくれいていると、ソフィーが質問を投げかけてきた。


「この、カゼインですがどんな性質なのですか?」


 プラスチックの代用品だけど、この世界にはプラスチックとか環境問題とかないからね。だから慎重に言葉を選んだ。


「そうね、土に還るってことかな」


 ソフィーはこんな不親切な説明を聞いても怒らず、黙考を始めた。


「……捨てても、なくなるから、誰にも迷惑をかけないで済むと」


「私が聞きたいのだけれど、なんでその答えにたどり着いたの?」


 ひょっとしてソフィーは、二十世紀か二十一世紀の生まれ? なわけないよね。


「女神アリア様の教えに、汝清潔であるべしとあります。

 その一文を読み解くと生ゴミをポイ捨てせずに肥料として利用したり、燃やしたり、鉄のゴミはリサイクルしたり、陶器は金継ぎして再利用したりと解釈できます。土に還るというのは肥料として利用できるという意味にとれます」


 多分、ゴミだらけの中世ヨーロッパを知っているからあんな風にしたくなかったんだろうね。ゆるふわもふもふストーリーでも当然ゴミなんて落ちてないし。


「私もそれは正しいと思う」


 私もゴミが散らかっている世界のアニメやゲームなんて見たくもないから気持ちは分かるけど。


「それで、ちょっと思ったのですが……」


「何?」


「この方法なら樹脂を熱で溶かして液体にして、真空を利用して……」


「さっきのは含浸っていうのよ」


「その含浸をして冷やせば多孔質の中が樹脂で埋まって固まれば強度が上がるののでは無いですか」


「私も最初それを考えたのだけれど天然樹脂なんて……あるの?」


 漆なんてあるとは思えないし、琥珀は超がつくほどの高級品のはずだし、松脂は中国とかアメリカとかブラジルが主な生産地だからドイツというかバーデンには無いはず。


「松脂なら王国中からかき集めれば纏まった量になります」


 あ、無いんじゃなくて、少ないだけなのかっ。

注意 今回の実験を行ったことも無ければ見たことも聞いたこともありませんが、多分こうなると思います。

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