ケモ耳
さて、転移先はどこだろうか。そう考えるだけで胸が高鳴る。
アリアさんからは聞いていない。だってその方が面白そうだから。
視界一杯に広がった真っ白な光がすーっと引いて消えていく。
「ほお」
教会内のステンドグラスのあまりの美しさに感嘆の声が漏れる。ゲーム内でも十分美しかったが、実物(?)ともなるとそれ以上だ。
「アリア様、神々しいです」
「そりゃ、ボクらのアリア様だからね」
「あ、あの人は一体……」
なんとステンドグラスに描かれているのは降臨したアリアさんだった。しかも教会に飾られている石像もアリアさんが模されている。
アリアさんのイタい行動に顔を手で覆ってしまったではないか。
足元に魔法陣があることを確認すると、アリアさんの部屋を想い浮かべる。
「転移」
アリアさんの説明通り、思い浮かべた魔法陣に転移できた。というか私が行ったことのある魔法陣はさっきの教会とここしかない。
「あれ、忘れ物でもした」
「あれじゃないわよ。なんでゲーム内の神様がアリアさんになってるよの!」
「えー、そのくらい、いーじゃなーい」
「良くないでしょう。それじゃあ、行ってきます」
「行ってらっしゃい」
アリアさんは神様の仕事があるから私と同行しなかった。なのに部屋にいたのは、私がツッコミを入れに戻ってくると予想していたのだろう。
ホント、面白い神様だ。
教会に戻るとアリア像に旅の無事をお祈りした。本人の前じゃやらないけどね。
「さて、二人とも行こうか」
「「はい」」
教会を出ると甘い匂いが漂ってきた。そして賑やかの子供たちの声。多分教会に身を寄せている子供たちのおやつの時間だろう。
「なるほど。そういうことか」
「優様、どうしました?」
「私たち、教会を出るまで誰にも会わなかったでしょ」
「はい」
「その方が都合がいいわよね」
「そりゃ、ボクたちが転移しているところを誰かに見られると、大騒ぎですよ」
「そう、だからアリアさんは、この時間はここに人がいないことを知っていて私たちを転移させてくれたんじゃない」
「アリア様は聡明なお方ですから、きっとそこまで考えてくれていたと思います」
「ボクもそう思うよ」
アリアさんはこの二人から随分信頼されているようだ。
景色を見渡せば、山の中にも関わらず馬車がすれ違うことが出来る幅がある石畳の道路。そして少し離れたところから沸き上がる蒸気。
「ここかぁ」
間違いない。全く、あの神様はやってくれるわ。
嬉しさのあまり、にやけ顔が戻らない。
「優様、どこでしょうか」
「ここはバーデン、温泉の街よ」
「温泉ボク大好き!」
「瞳、温泉が嫌いな人なんていないわよ」
「では、早速参りましょう」
「もちろん」
少しではあるがアリアさんからお金を受け取っている。「ゲーム開始時に少しお金があるのはRPGのお約束でしょ」というのが理由だ。
「優様、ちょっと早くないですか」
はやる気を押さえて歩いているつもりだったが、ちょっと急いているみたいだ。
「だって、冬香の作ってくれたブーツが足にフィットして、歩きやすいんだもん」
あの、ゆるふわもふもストーリーの中にいるかと思うと抑えきれない。
だが、これがいけなかった。
「あっ」
ちょっとした石畳の段差に躓いてしまったのだ。
「「優様ー」」
思い切り顔面からダイブしてしまった。
「あ、痛っ」
左手を石畳についてしまった。
「ちょっと貴方、大丈夫」
誰かが駆けつけてくれたみたいだ。声からして女性よね。
「手首をひねっちゃって」
日本のゲームだけあって、日本語が通じる。これはありがたい。
「ウチ、近くだから休んでいきなさい」
「す、すみません」
顔を上げて驚いた。
整った顔立ちに茶色のショートヘアー、そして茶色い毛に覆われた犬っぽいケモ耳。
断言していい。怪我していなかったら抱き着いていた。
警察沙汰にならずに済んだこと。ケモ耳の女性とお近づきに慣れたこと。今回ばかりは怪我したことが幸いしたと言えよう。
「はい、これで良し」
ねん挫した手首にはシップを張ってもらい、包帯を巻いてくれた。これらは店の商品なのに。
「ありがとうございます」
本当に感謝だ。
「「ありがとうございます」」
「二人もゴメンね」
二人には悪いことをしてしまった。
「全くです、優様」
「ボクたち心配したんですから」
面目ない。
「そういえば自己紹介がまだだったわね。私はアイリ。見ての通り道具屋をやってるわ。貴方たちは?」
「私は優。ここには旅行できました。こっちは冬香と瞳。二人とも私の使い魔です」
冬香と瞳が挨拶する仕草は本当に愛らしい。
「見たことない使い魔だけど、可愛いわね~」
「ですよね~」
「それで、旅行ってことは温泉に来たんでしょ。ねん挫に効くいいお湯があるのよ」
「是非、教えて下さい」
「それじゃあ、地図を描いてあげるね」
貰った地図も温泉も私が知っているのと全く同じだった。今のところはゲームとの差異は全くない。
「ありがとうございました。それで、塗り薬とシップと包帯の代金は幾らでしょうか?」
「ああ、いいわよ。その位」
「でも」
流石に商品を使わせてもらってタダというのは気が引ける。
「いいってば」
そんなやり取りを突如、大きな音がぶち壊す。
「よう、邪魔するぜ」
乱暴に扉を開けて入ってきたのは、狼の耳を付けた全身黒ずくめでガラの悪いヤンキー二人組。謙遜じゃなくて本当に邪魔だ。
「お金ならあと一週間待ってくれる約束じゃないですか」
アイリさんの身体が震えている。
「そりゃ、そうだけどよ~。今ある分だけでも払うのが筋ってもんじゃないのか」
アイリさん、まさか……。借金があるのにお金受け取らなかったの。
「今あるお金はお店を回転させるのに必要なお金なんです」
商売をやっていれば仕入れや釣銭が必要になる。そんなことも分からないのか。いや、わざとか。
どちらにしろアイリさんの必死の懇願が届かないことは確かだ。
「別にお前さんが体で払ってもいいんだぜ~」
流石に怒りが湧いてきたんですけど。
「アイリさん。此奴ら何」
いざというときに備えて椅子から立ち上がる。
「優ちゃんは気にしないでいいのよ」
「よお嬢ちゃん、人間で黒髪ロングって珍しいじゃないか」
私の自慢なので褒められるといつもなら嬉しいんだけどね。
「アンタらに褒められても、ちっとも嬉しくないわ」
「アイリ~、借金の形にこの嬢ちゃん、連れてくぜ」
「止めて! この子はただのお客さんよ。借金とは関係ありません!」
残念だが、此奴らはケダモノなので人間の言葉が通じない。
「じゃあ、嬢ちゃんを連れ帰ってもここの借金は減らないってことか」
私を捕まえようと手を伸ばしてきた。
「それってただの人さらいじゃないの」
一応警告はした。これで引かなかったら誘拐未遂で警察に突き出せる。
「あ~、知らねえなぁ~そんなことは」
ヤンキーAが薄汚い手で、怪我している左手を掴んだ。
だがそんな卑怯者に負けることは無い。
掴んだ瞬間、向きをかえ、手首をつかみ、手を上げ、体制を180度回転させ、掴んだ手を下におろす。
合気道の技、片手取り四方投げ(表)である。
「アイタタタ」
ヤンキーAは後頭部を床にぶつけて、のたうち回っている。
「てめぇ、何しやがった!」
「それが分からないなら私には勝てないわ。おとなしく帰りなさい」
「ガキが、ちょーしこいてんじゃねぇ!」
わかった。此奴らには脳みそが無いんだ。
3秒後、学習能力の無いヤンキーBはAと同じ運命をたどることになった。
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他にもう一作書いています。
タイトルは、『神魔大戦~神と悪魔の戦いに化学で割って入る物語』
https://ncode.syosetu.com/n2539ft/
です。こちらは打って変わって生々しい描写のオンパレードです。思いっきりR15指定です。読まれる際は十分気をつけて下さい。




