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専門は化学②実験失敗からの……

「あーー」


 私は自宅というかアリアさんの家に戻ると机に伏せた。そう簡単に出来れば誰も苦労しないよね。さて、どうしよか。


「あれ、どうしたの?」


 アリアさんは珍しく家にいた。神様にも日曜日ってあるのかな?


「あわよくば、と思ったんですけどね」




 ポリ酢酸ビニルを作ろうとしたのだが、これがまた見事なまでの大失敗。


「ベルティーナちゃん、炎魔法でこれを燃やしてくれるかな?」


 私が用意したのが卵の殻だったのでキョトンとしている。


「焼却ですか?」


 そう思われるても仕方ないよね。


「ん~、ちょっとした実験。出来れば825度くらいで」


「なんの実験か知りませんが、825度なんて分かりませんよ」


 と、呆れられてしまった。


「えっと、大体たばこの温度くらいかな」


「それじゃ分かりませんって。でも、優さんのお願いですから」


「ありがとね」


 室内でこんなことするのは危険極まりないので、皆で外に移動した。


「この辺りなら、火を使ってもいいですよ」


 家主であるアイリさんの許可を取り、燃えるものが何もない土の上に卵の殻を幾つか置いた。幸い今は風もない。

 

 それを見てベルティーナちゃんは精神を統一すると呪文を唱えた。


 おおっ、攻撃魔法を拝める日が来るとは。これはこれで実験とは別でワクワクしてしまうじゃないの。


「ファイアー」


 すると小さな赤い火の玉が突然出現した。燃料が何なのか分からないので炎の色から温度を捨ているすることが出来ないのが残念だ。これは一度じっくり研究する必要があるわよね。


 そんなことを考えている間に、火の玉は地面に置かれた卵の殻目掛けで一直線に飛んで行った。


「す、すごいわね」


「とりあえずこんなところですね。それで、実験はどうですか?」


 近寄ってみると生石灰らしきものは確かに出来上がっていた。但し収率は明らかに悪いが。


「……ま、まあ一応出来たということで」


 ひとまずはOKかなと思っていたら、ソフィーから衝撃の事実を告げられた。


「ひょっとして生石灰ですか。それなら購入できますよ」


 思いっきりズッコケそうになったわ。


「あるんかいっ」


「じゃあ私の魔法は無駄ってことですか?」


 ベルティーナちゃんからジトーっという生暖かい視線が送られる。


「でも、注文して届くのに時間がかかりますから、無駄ではないです」


 ああ、ソフィー、フォローありがとうね。


「じゃあ、気を取り直して、次リオマちゃん、電撃魔法お願いね」


「は、はあ……」


 寝起きのところに、ロクな説明もなしで申し訳ないと思うがこれも技術の発展のためということで。


「サンダー」


 リオマちゃんの電撃魔法がバチバチという音を立てて炸裂した。だがそこにあったのは無残なまでの黒焦げの物体である。


「これ、炭ですよね?」


 ううっ、ウィドちゃんにでもわかるよね。


「つまり、失敗って訳ですか」


「ベルティーナちゃん、こんな言葉知ってる? 失敗は成功の母って」


 べ、別に失敗を誤魔化したわけじゃないんだからねっ。




「それで結局何を作ろうとしていたの?」


 アイリさんからすれば説明が不十分だろう。


「ポリ酢酸ビニルです」


「それはちょっと」


 言葉遣いも表情も柔らかいが、そこには明確にダメという意思が感じられた。


「あ、ダメですか」


 断られる可能性も頭の中にあったのよね。


「自然界にない物質は基本NGね。有機化合物は基本的には土に還る材料がいいわね」


 基本的という単語が二回も出てきたのだから少しは融通が利くのだろうけど


「すみません」


 女神としては地球のような環境汚染を防ぎたいものね。これは私が浅はかだったかな。




 夕飯を終えると、私は考え直すことにした。やはり多孔質の中に何かを詰めて強度を上げるのが一番だと思うけど、その何かが思いつかない。


 自然界に存在する、もしくは存在しなくても土に還る、となると合成樹脂はダメよね。土に還るね……。


 頭を捻ってみるが、ちっとも出てこない。ネットで検索しても見つからない。いえ、調べ方がわるいのよねきっと。


「あ~、ダメだ」


 とりあえず、ベッドにダイブした。もちろん単なる現実逃避だ。そのままゴロンと寝っ転がってみる。神様の家の家具だけあって肌触りがその辺のとは全く違うわね。何日も使っているから知ってるけど。


 コンコンっ。


 途方に暮れていると、ノックする音が聞こえた。


「はい?」


「優ちゃん、ケーキあるけど食べる?」


 この声はアリアさんね。


「もちろん頂きます」


 ケーキを食べれば頭が働くかと思ったけれど、それは考えが甘かった。さっき食べたアンジェリーナのモンブランよりも。


 ダメだ、こういう時は気分転換でもしないと……。




「優様、ホットミルクお持ちしましたよって、何しているんですか?」


 こういう時は’ゆるふわもふもふストーリー’よね。


 ベヒーモスと言えば、凶悪な二本の角とごっつい筋肉でゲームの中盤から終盤にかけて登場することが多いモンスターだけれど、このゲームでは、全身毛だらけ、茶色く柔らかい毛並みでごっつい筋肉が隠れていて思わずモフりたくなるのよ。


「あ、ちょっと休憩」


 冬香の視線がちょっと冷たいのは気のせいよね。多分。きっと。そうよね。


「はー。偶には気分転換も必要ですけど、ほどほどにして下さいね」


 冬香のため息交じりのお小言が胸に刺さったのでそろそろ切り上げることにした。


「うん、わかってるって。この戦闘が終わったら研究を再開するから。それよりも、まずは頂きます」


 一口飲んでみるとコクのある濃厚な風味が広がっていく。スーパーやコンビニの安物じゃない、牧場の直送品よね。


「それで、どうですか」


「目処が立ってたらこんなことしてないって」


 ゲームでは、私の操作する’薔薇の乙女’のリオマちゃんがベヒーモスの背によじ登ると体毛に埋もれながら背中をモフっている。

 それが気持ちいいのでベヒーモスは’キュー’と体形に似合わない可愛い鳴き声を上げている。

 凄いよね。だって人間が埋もれるくらい毛が長いのよ。私だってこんなダイナミックなモフモフをしてみたいわよ。地球じゃ無理だもん。


「ですよね」


 少し冷めたので二口、三口と啜る。それにしてもアリアさん、食べ物にはお金を惜しまないわよね。これ私に気を使って北海道の牧場から購入してたりして。 

 ん、まてよ。ホットミルク……、それに土に還る……。ここで私に閃きが起きた。コレという自信のある閃きが全身を突き抜ける。そうだ、アレなら、出来るかも。若干強度が弱いけど、空気でスカスカよりは全然いい。


「あった、あったよ」


 ヒントをくれた冬香に抱き着いた。やっぱり冬香はちっちゃくてモフモフで可愛いわ。


「えっと、優様のお役に立てたのなら嬉しいです」


 冬香は困惑気味ながらも優しい言葉を返してくれたのだった。

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