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跡取り

 全員の大爆笑が落ち着いたところでフリードさんに入ってきてもらった。


「ところで、気になっていたのですが?」


 自分でこの質問をするのは自爆に近いのだが、気になるものだから尋ねないわけにもいかない。


「何か?」


「どうして私にビールを勧めたのですか?」


 気分で言うのも何だけど、大人に見えないよね? ということは私の年齢を知っていたのだろう。なら誰に聞いたか。


「それは職人ギルドのギルドマスターにお尋ねしたからです。お招きする方の情報を事前に調べるのは当然のことです」


「ついでにクレアさんを誘っても良かったのではないですか?」


「僕は誘ったのですがなぜか怒らせてしまって……」


「ちょっと、どういうこと」


 夫人の眉がピクンと跳ねる。


「それが僕にも良く解らないんです。ソフィーさんの連れではないし、’家族じゃない’けど気軽に来てよと誘ったら機嫌を損ねて、そこでつい昔の呼び名で呼んだら怒り出したのです」


 ああ、大体読めたわ。男の子が年上の女性を呼ぶときの呼び名でよくあるパターン。


「昔の呼び名って」


 それで、もっと踏み込んだ間柄では使われたくない呼び名。


「そ、それがその……」


 フリードさんが顔を赤らめている。


「あら、はっきりしないのですね。一体どんな如何わしい呼び方をしたのですか」


 もちろんこれは挑発だ。


「如何わしいだなんて、そんな。僕はただ、クレアお姉ちゃんと」


 最後の方が声がすごく小さく、かろうじて聞き取れたか細い声だ。


「「「「「ああ」」」」」


 予想通りの酷い事態に、全員が頭に手を当てた。


「と、とりあえず紅茶を置いたら戻って」


 呆れて果てている状況からいち早く復帰したのが夫人だ。多分、こんな状況が十年以上続いてなれている分復活も早かったようだ。


「は、はあ……」


 フリードさんが退席すると同時に全員が不満をぶちまけた。


「あの子は一体何をやっているの!」


 夫人はお貴族様らしからぬ言葉遣いである。


「家族じゃないって、さっさと家族にすればいいじゃない」


 これはフリードさんにもその気があればだけど。


「あるいは家族も同然とか言い方は他にもあるはずです」


 ソフィーが人差し指を立てて対案を出す。


「女心というものが分かってません」


 冬香がプンプンと怒っている。でも怒った冬香も可愛いわね。


「クレアさんの気持ちわかるよ。ボクが同じ立場でも怒ると思うよ」


 瞳が腕を組んでうんうんと頷いた。


 こんなに鈍い人はアニメの鈍感主人公くらいしかいないけどね。


「うう、きっと私の教育が間違っていたのよね」


 夫人がシルクのハンカチを取り出し、泣きまねを始めたので私たちは乗っかることにした。


「恋愛モノの舞台にでも連れて行ってあげましたか」


「ええ」

 

「女性のエスコートの仕方だけ教えてもダメです。ちゃんと気配りまで教えましたか」


「ええ」


「恋愛小説を読む機会がありましたか」


「ええ」


「ボク知ってるよ。こういう時はパターンが決まってるんだ。他に好きな人がいるか、恋愛に興味が無いか、自信が無くて女性から好かれているとは思っていないか」


 う~ん、瞳も女の子なんだね~。なかなか鋭い指摘だと思う。


「そうねぇー、仕事一筋で恋愛に全然興味ないって感じね」


 夫人、肘をついてしゃべるのはマナー違反では。


「辺境伯の跡取りともなると覚えなければならないことが山のようにあるから、恋愛にうつつを抜かしている場合ではないかもしれないですけど、結婚して子供を作るのも立派な勤めのはずではないですか」


 ソフィーの発言は正論だと思う。けど、それに気づかいない夫人ではないわよね。


「気負いすぎなのよね、あの子」


 夫人はカップを揺らしながらポツリと呟いた。この一言で息子を心配する母親の気持ちが伝わってきた。さっきまで息子を茶化していたけど多分これが夫人の本音なのだろう。


「そう言えば、フリードさんとクレアさんってお幾つ何ですか?」


 冬香も気になっていたか。


「フリードが23、大学を卒業したばかり。クレアちゃんは26ね」


「夫人、私この国のことよく知りませんが……」


 口に出しずらいので言葉を濁した。

 

「クレアさん、可愛そうです」


 ソフィーの発言から察するに、やはり行き遅れなのだろう。これが日本なら26で未婚の女性ならいくらでもいる。いや結婚している方が少ないか。


「優様、そろそろお時間では」


 冬香の指摘で気づいたがもう30分経過したのね。


「夫人、ヘアパック剤、洗い流しますね」


「あら、もうそんな時間⁉」


 30分なんて、喋っていたらあっという間よね。


 私は、冬香に40度のぬるま湯を用意してもらい、夫人の髪を洗った。


「さて、髪を整えますね。それで、髪型はどうしましょうか?」


 やっぱり、縦ロールでいいのかな。


「そうね、優ちゃんみたいなストレートがいいかな、出来る?」


 そうきたか。それもアリよね。


「ああ、いいですね。似合うとは思いますけど、でも残念ながら道具も技術もありません」


 ヘアアイロンの二枚のプレートで挟んで髪の毛を直毛にするのだけれど、プレートの素材がテフロンなのだ。それにこの髪をストレートにするにはプロの腕前がいる。


「うーん。うーん。どうしましょう。ああ、そうだ、優ちゃん、何かいい髪型知らない?」


 急に振られても困るわね。あ、でも。


「三つ編みなんてどうですか」


 ここはさりげなく薦めてみる。


「それじゃ、ありきたりね」


 夫人はちょっとがっかりしたようだ。多分平凡すぎてつまらないのだろう。


「ふっふっふっ。とってもお洒落な三つ編みがあるんですよ」


 あっちの世界にはいろんな髪型のヒロインがいるからね。鞄から紙とペンを取り出しさらさら~と描き上げる。……描き上げ……うぉ~、こんなん描けるか~! 冬香、描いて。


「ええと何を描こうとしたのか、推測しながら清書しますが……こんな感じでいいのでしょうか?」


 おおぅ。これよこれ!


「あら、素敵じゃない」


「斬新ですね」


「ではこれでいいですか」


「お願いするわ」


 まずは夫人の髪、耳の前1㎝を分け取り軽く巻く。


 そして後ろの毛を三つ編みにする。


 左右とも終えたら、後ろの三つ編みを渦巻にしてピンで止める。これを左右共にすると、ヴァイオレット・エヴァーガーデンの髪型になる。


「夫人、ヴァイオレットのリボンってありますか」


「ええ、そこの引き出しにあるわよ」


 そう、これが無いとヴァイオレット・エヴァーガーデンにならないのよ。


「こ、これは……」


 素晴らしさのあまり言葉にならない。大人びた髪型と夫人の大人の女性の色気がマッチして、しかもこの髪型だとケモ耳を邪魔することがないのでモフモフ感を損なうこともない。


「気に入ったわ。これで決まりね」


 夫人も満足そうに頷くのであった。

来週の予定が未定です。上げられたら上げたいです。

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