練習
「なるほどー、確かにこれなら速く走れそうね」
アイリさんはローラースケートを手にすると、逆さにして眺めたり、ウィール(タイヤのことね)を回したり観察に余念がない。
「馬車みたく、この車輪で走るのか」
ベルティーナちゃんは気づいていないが、いや分解しないと誰も分からないが、ちゃんとベアリングが入っている。
瞳、よくこんな細かい所まで一晩で作ったわね。本当に尊敬するわ。
「でも、何か工夫があるようね。聞いたことない音がするし」
どうやらアイリさんはウィールを回した音で何かあると気づいたようね。
「優さんのとはちょっと違うんですね。ひょとしてスケートの影響受けてます」
トリシャちゃんは、私が履いているインラインスケートの方に興味があるようだ。
「分かるの。こっちの方がスピードが出るけど難しいのよ」
「私の方は車輪が横に並んでいるから転びにくいのかな?」
「? まさかアイリさん、ローラースケート知ってるんですか⁉」
するとアイリさんはくすりと笑った。
「いえ、見るのも聞くのもこれが初めてよ。でも観察すればある程度は分かるわ」
ああ、地頭のいい人なのね。
スタイル抜群でケモ耳も尻尾も最高で性格も良くてその上、頭の回転がいいってほとんど完璧じゃない!しかも結婚しているし。
ああっ、女子として完全に負けたー。
「優さん、どうしました?」
リオマちゃんが凹んだ私を気遣ってくれる。
「なんか色々負けた気がするわ」
「私からすれば二人とも凄いと思う。アイリさんの女子力も優さんの知力もけた違い」
リオマちゃんは私を褒めてくれているんだろうけど、私の知識なんてあっちにいれば普通に身につくものばかりだからね。
そう考えると私って本当に普通よね。
などと凹んでいる場合じゃない。
「じゃあ練習しましょうか。どこか人目に着かないところがいいんですけど……」
店の中はいくら何でも狭すぎる。転んで戸棚に突っ込んで怪我をしたり商品を壊す恐れもある。
そうなると、あそこか。
行先はもちろん教会だ。シスターマムに事情を説明し、隅っこで練習させてもらうことにした。
「優ちゃんや」
暫くしてグランマに建物内へと呼び出されたのだが、なぜか仏頂面をしていた。私何かやらかしたかな?いや、そんな記憶はないんだけどな。
「はい」
「アンタと私は献金をもらうような間柄かね」
そもそも昨日が初対面なんですけど。
「子供たちの為と……思ったん……です」
するとグランマは大きくため息をついた。
「そりゃ、気持ちは嬉しいけどさ、昨日あれだけしてくれたのにお金をもらうのは気が引けちまうよ」
う~ん。他人行儀に見えたのかな。そんなつもりは無いんだけどな。さて、どうしよっか。どうすれば収まるかな。……あ、そういえば。
「それじゃあ、昨日のお金は、これから食べ物を譲ってもらう分の代金ということにして頂けませんか」
「そりゃ、一体どういう意味だい?」
グランマの顔に訳が分からんと書いてある。
「実は、領主様のホームパーティーに出席することになりまして、そこで手土産としてちょっと……」
「領主様への手土産ってなるとそれなりの品じゃないと。ああ冬香なら領主様を唸らせる料理も作れるね。それで、一体何を作る気だい」
どうやらグランマの機嫌も直ったようだ。
「おーい、冬香、ちょっといい?」
庭では冬香が子供たちと遊んでいる。子供たちの目を冬香が引き付けて、その間にアイリさんが練習するという手はずだ。
「今、行きま~す」
ありがたいことに子供たち全員が冬香についてきてくれた。
「グランマが材料くれるって」
「冬香、何がいるんだい」
「小麦粉と……」
私もソースの原材料までは分からない。それにしても一瞬でソースまで作れるとは冬香には驚かされるわね。
「全部あるけどさ、これで一体何を作る気だい?」
この組み合わせ、こっちの世界の人には分からないだろう。
「冬香、何ができるの?」
「もしかしてしてケーキ?」「私ケーキ食べたい」「この組み合わせでケーキは無い!」
子供たちもワイワイと盛り上がっている。
「シスターマム、子供たちのおやつ一品増えてもいいですか?」
本来おやつで食べるものではないけどこの際いいでしょう。
「冬香、後お願いね。私は皆の様子を見てくるから」
「任せて下さい」
「あー、大丈夫ですか?」
アイリさんは歩こうとしているのだが、へっぴり腰で全く前に進めない。これじゃ、かたつむりの方がよっぽど速いわね。
「優ちゃん、これ難しい~」
芝生の上で、防具一式を身に着けているのだから転んでも平気なんだけど、初めてなら当然よね。
「うわあ、楽しいわ、これ……あ、あれ」
トリシャちゃんは、足のサイズが私と同じなのでインラインスケートを試していた。
勇者パーティーのメンバーだけあって運動神経はいい。すでに立つ、足踏み、しゃがむ、転ぶ、歩くをこなしている。足腰にしっかり力が入っているし、滑るにしてもスピードも乗っている。只、減速に苦労しているようだ。
「ほらトリシャー、しっかりしろー」
ヤジを飛ばしているのはウィドちゃんだ。予定では仮眠を取っているはずなのだが、急遽外出することになりついてきてくれたのだ。寝不足とあってかテンションがやたら高い。
「いや、トリシャちゃん、覚えるの滅茶苦茶早いから」
「ほら、優さんも私の実力認めてるじゃない」
「いや、それリップサービスだから」
「なんですって……あ、あ」
ヤジに気を取られて、つま先同士がぶつかり転倒した。
「わははは」
ウィドちゃんが腹を抱えて笑っている。
「こら、ウィド」
ベルティーナちゃんがウィドちゃんの頭にチョップを落とした。
「うう、優さん。もう一回見本見せて下さい」
「ふふふ、いいでしょう」
一応念のため、私も防具を身に着ける。
頭の中でアニメのシーンをリプレイする。
さくらちゃんが登校途中下り坂を滑って~、鉄柱に手を掛け直角に曲がる。あのシーンはさくらちゃんが本当にかっこよく見えたな~。
そのイメージで芝生を颯爽と滑り、滑らかに曲がる。
「「「「おお」」」」
手を掛けるものが無いので直角には曲がれないが、まあいいでしょう。
次は、桜並木の下を滑るシーンかな。桜並木とさくらちゃんの組み合わせは本当に絵になってたわね。しかも途中で後ろ向きになってたのがポイントよね。
そのイメージで芝生の上を後ろ向きで滑る。
「「「「おおお」」」」
それじゃ、最後はあのシーンかな。
さくらちゃんが自転車のお兄ちゃんに追いついて息を切らすシーン。これは有名なシーンよね。
自転車に追いつくつもりで全力で走る。そう、全力で。
「「「「おおおお」」」」
「どう?」
ちょっとドヤ顔をしてみる。
「優さん、とてもお上手ですね。これなら簡単には捕まらないですよ」
「アタシも、捕まる可能性は低いと思います。それに弓で撃とうにもこれだけ動き回れると当てるのは相当難しいです」
「わたしも二人と同意見です。もし魔法を当てようとしたら不意打ちをするしかないです」
「一度加速したら、わたしには捕まえことが出来ないです」
4人が認めてくれたのなら、いざというとき役に立つだろう。だが、そんな思いをアイリさんが否定した。
「でも私、そんなに上手く滑れないですよ」
「「「「あ」」」」
……どうしよ。
もう一本作品を執筆しています。
タイトルは、『神魔大戦~神と悪魔の戦いに化学で割って入る物語』
https://ncode.syosetu.com/n2539ft/
です。こちらはR15指定です。性的な意味での濃厚な描写が随所にありましたが運営さんの指摘を受けて削りました。それでもR15指定です。




