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夕食

「それじゃ、アイリさんのお店に行こうかしら」


 今度こそ帰る。と、思ったのだがベルティーナちゃんに引き留められた。


「その前に契約書と前金」


 あ、そりゃそうよね。アイリさんが契約書にサインしている間にドライヤー1つと、現金を取り出した。


「優さん、こっちで建て替えましょうか?」


「お願いします」


 カールさんの奢りだと気が引けるが、後で払うならいいかな。




 そして、帰り道。大分日が傾いてきた。夕日がオレンジ色に輝いているあたり日本とは違うよね。


「夕飯、どうしましょうか? お金なら出しますけど」


 アイリさんはしばらく黙々と歩き続けた。眉間に皺を寄せてかなり考え込んでいた。アイリさんとしては私がお金を出すので遠慮したい反面、’薔薇の乙女’に護衛中の食事を出す契約なのでいい食事を出してあげたい気持ちがあるのだろう。


「そうね。やっぱりシュパーゲル(白アスパラ)は外せないわよね」


「お、いいね」


 ウィドちゃんが乗ってきた。絶品でしかも食べられる期間が短いからね。


「でもいんですか。私たちはカルテスエッセンで十分もぐぁ」


 トリシャちゃんは遠慮気味だが、それをウィドちゃんが許さない。


「ウィド!」


 ベルティーナちゃんがリーダーらしく注意する。


「だってぇ」


 あの、私だけ置いてけぼりなんだけど。


「アイリさん、カルテスエッセンって?」


 これまで食べた料理は全てゲームに登場していたので知っているが、その料理は知らないな。どんなのだろう。


「優ちゃんは外国から来たから知らないわよね。カルテスエッセンはハムやソーセージにチーズ、パンがメインの簡単な食事よ」


「優様、直訳すると冷たい食事になりますが、実際は火を使わないというニュアンスになります。それにカルテスエッセンは家事に時間をとられずのんびり過ごす目的もあります。ドイツでは夕飯は毎日カルテスエッセンというのが一般的です」


 冬香は料理の知識も半端じゃないわね。


 それにしてもねえ。日本人にとっては温かくない夕食なんて論外でしょう。それじゃあ、ゲームでも採用されるはずないわよね。


「冬香なら魔法で一瞬で料理が作れますし、代金なら少しは私も出しますよ」


「一瞬?」「魔法!」


 やっぱり驚くわよね。ウィドちゃんやベルティーナちゃんは言葉がでるけど、他の人たちは驚きのあまり言葉が出ないからね。


「そ、それじゃ、メインディッシュがシュパーゲルで、後はパンとハム、それとチーズにしましょう」


 アイリさんが皆の意見を纏めたところで、リオマちゃんがおずおずと意思表明をした。


「賛成」


 リオマちゃんが真っ赤な尻尾をフリフリしているからご機嫌なのが丸わかりだ。

 それにしても、可愛い。さっき公衆浴場でモフれたけれど、まだまだ全然モフモフ回数が足りないわね。


「それじゃ、私が利用しているお店に寄りましょうか」


 それは楽しみだ。




「「おお~」」


 寄ったお店の()()()をテーブルに並べてみる。山ほどのシュパーゲルに、付け合わせとして塩の効いたハム、それからコクのあるチーズ。それとライ麦パン。


「どうしたアイリ、随分豪勢だな」


 ホルスさんが意表を突かれたような顔をしている。


「それがね、パン屋さんもお肉屋さんもチーズ屋さんも「昼間ドライヤーを貸してくれたお礼」って言って只でくれたのよ」


 こっちが恐縮したので、シュパーゲルだけはお金を払ったけどね。それも余ったお金全部で買えるだけ。


「美味しそうですね」


 スッと私の前に来たのは瞳だ。


「お帰り。どうだった?」


「はい。明日のパーティーに参加できることになりました。ソフィーさんとシュミット工房で11時に待ち合わせです」


「優ちゃん、パーティーに行くの?」


「はい。領主様のホームパーティです」


「危ないっ」


 アイリさんが手にしていたお皿を落としそうになった。


「ウィドちゃん、ナイス!」


 流石冒険者で剣士、反応が早い。


「ちょと、今、領主様って……」


 あ、アイリさんの手が震えている。


「ええ、クレアさんからドライヤーを献上した方がいいんじゃないかって。それでツテをたどって」


「昨日の今日でどうやって、それにシュミット工房って……」


「大した話じゃありませんから、その当たりは夕飯を食べながら簡単に……」




「美味い!」「冬香ちゃん’薔薇の乙女’に入らない?」「冬香との出会いは神の思し召し」「賛成」「ダメに決まってるでしょ」「こんな旨い飯は久しぶりだな」「冬香ちゃん、私より上手よね」


 皆好き勝手言っているが、ようはこの料理が美味しいということだ。


 全員が十代、二十代とあって瞬く間に料理がなくなっていく。特にウィドちゃん、リオマちゃん、ホルスさんは体を鍛えている分食事の量も多かった。


 私も釣られていつもより多く食べたかもしれない。二日連続でシュパーゲルだったけど、このジューシーさがたまらない!やっぱり温かい料理が一品あるとぜんっぜん違うわ。それに冬香は腕がいい。昨日のレストランに引けをとらないわ。


「ねえ、優ちゃん。さっきの話だけれど」


 食べる勢いが落ちたところでアイリさんが切り出した。


「それでしたら……」


 10分後。なぜかアイリさんは手で顔を覆い、ホルスさんはこめかみを手で押さえた。


「私の記憶が確かなら、大した話じゃないって聞いたのだけれど」


「オレもそう聞いたな」


「ええ。知り合いに頼んでパーティーに参加させてもらって、そこにドライヤーを持っていくだけですけど。まあ、間に合えば新製品ブラシ付きドライヤーを持っていきますけど」


 私だって、ちょっと近所のレストランで食事などというほど気軽ではないのだけれど。


「いやいやおかしいだろう。なんで領主様にそう簡単に会えるんだ」


「だから、明日のパーティーに招かれたのがシュミット工房の三代目ソフィーなのよ」


「なんで、優ちゃんがシュミット工房の三代目と知り合いなのよ」


「お互い探してたから。アイリさんも見かけたでしょう。フリードリヒス浴場で私にドライヤーのことで質問していた眼鏡をかけた女の子。彼女がそうなのよ」


 おかしい。この会話これで3度目なんだけど。


「そういう事じゃなくて、話が飛躍しすぎて実感がわかないのよ」


 領主様って偉い人だから一般の人は会えないわよね。いくらこの世界がゆるいゲームを元に作られたからって。


「人間、生きていればいろんなことがあるわよ」


 アイリさんの肩にポンポンと手をやった。


「子供の優に言われたくないぞ」


 えっとホルスさん、知らなかったのかな。


「私、ハタチなんだけど」


 ホルスさんと’薔薇の乙女’のメンバーが、食事している手を止めた。いや、止まったと表現すべきかな。


「マジで?」「信じらんない……」「神の御業?」「今年一番驚きました」「ついに不老長寿の薬が完成したのですか?」


 ひどい言い草だねっ。そりゃ日本人でも若く見える方だけどさ。


「信じられないなら職人ギルドで確認して下さいっ」


 こうなったらやけ食いよ。




「優、すまなかったな」


「優さん、そろそろ機嫌を直してください」


 モフらせてくれれば機嫌を直すけどねっ。


「それで、ベルティーナちゃん。護衛の計画はどうなってるの?」


 シリアスな表情で、落ち着いた声で尋ねる。


「明後日の朝までは三人がアイリさんの傍にいて、一人が仮眠を取ります

。アイリさんが外出しないのであればですが」


「ええ。私は何処にも出かけません」


「その方が安心よね」


「明日は俺も非番だから家にいるしな」


 なら、大丈夫かな。


「そうなると皆には、両親の部屋を使ってもらいたいけど……」


 アイリさんが私の方に視線を送る。


「私は職人ギルドに行ってくるから。そのままクレアさんの家に泊めてもらうかも」


 もちろん、クレアさんに口裏を合わせてもらい、あっちに行くけどね。

別作品ですが、運営さんから指摘されてアレな描写を大幅に削りました。

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