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ローラースケート

「カール殿、二階の個室をご利用下さい」


「これはお気遣い感謝いたします」


 会話を聞いてタイミングを見計らっていたのであろう、執事服を身に着けた初老の男性が歩み寄ってきた。長い人生を過ごしてきたことを象徴するかのような深い皺に、ダンディーさを一層引き立てる白い口ひげ。

 これよこれ、これが執事の見本よ、って、この素敵なおじさまは一体何方?


 おじさまを愛でていたら、ばっちり目が合った。するとまるで執事のように胸に手を当て一礼する。


「優様ですな。初めてお目にかかります。私ギルドマスターのフルバートと申します」


 ギルマス⁉ 執事じゃなくて?


「こちらこそよろしくお願い致します」


 おかしい。この服装と所作でギルマスなのもそうだが、それ以前にゲームではここのギルマスはもっと若かった。

 つまり、4年以内に引退するという事よね。もったいない。実にもったいない。引退したら私が雇いたいわ。




「何かございましたらお呼びください」


 案内された部屋は、ゲームにも登場した、どこぞのホテルの貸会議室かと見間違うかのような作り。座ったイスも革張りで、しかも私たちの為に丁度いいサイズのイスを選んだのだろう。ごつい男性剣士だったらこのサイズのイスに体が収まらないからね。


「依頼を受けてもらえる方向で話は進んでいる。後は当事者同士で詰めて欲しい」


 カールさんの出番はここまでかな。


「護衛の対象はアイリさんのみで、私の護衛はいらないわ」


「優ちゃん!」


 アイリさんが止めに入る。そりゃそうよね。


「大丈夫です。だってドライヤーは、ソフィーも、シュミット工房も作れます。

 私ひとりしか作れないなら、私をどうにかしてドライヤーを作らせないという手もありますけど、シュミット工房でドライヤーを作ってアイリさんのお店に納品することになってますから私を襲う理由がありません」


 これは詭弁だ。本当のところは護衛がいると魔法陣が使えないので、護衛を付けたくないのだ。


「私としても、シュミット工房に作ってもらえるのは有難いですけど、あの条件は信じられません」


 カールさんは気持ちを落ち着かせるように紅茶を一口すする。商人のカールさんからすれば特許料が只なんてとんでもない話だろうけどね。


「お金を稼ぐのが目的じゃなくて、皆にもっとお洒落をしてもらうのが目的ですからいいんですよ」


 私も紅茶を頂くことにした。それにしても……。カップに施された二本の剣のマーク、これってやっぱりアレよね。

 よく冒険者ギルドにこんな高級品が置いてあるわよね。


 などと一息ついている場合ではなかった。


「ちょっと待って下さい」


 ベルティーナちゃんがテーブルにドンっと手を突き、真剣な眼差して私を見つめる。


「な、なんでしょう」


 やっぱり護衛はいらないというのは危険に思えるのかな。


「それじゃあ、ドライヤーがすぐにでも量産化されるという事ですか」


 そっちかい!


「すぐにというのは語弊があるけど、私の工房が完成して量産化するよりは大分早まるわね」


「どうする、どうする」


 ウィドちゃんが分かりやすいくらいワクワクしている。


「じゃあ、次の冒険に持っていっちゃう」


 トリシャちゃんが僧侶でなく完全に16歳の女の子になっている。


「そ、そんな贅沢しちゃっていいの」


 ベルティーナちゃん、あんたリーダーなんだからパーティーを落ち着かせなさいよ。そもそも、私はケチるつもりは無いし。


「前金の一部としてドライヤーを一つ。護衛期間終了後に成功報酬としてさらに三つでどう。その分依頼料はちょっと減らしてもらうけどいいかな」


 4人全員が無言でうなずいた。


「それでアイリさん、護衛ですが、毎日閉店後から翌朝の開店まででよろしいのですか」


 ベルティーナちゃんが気持ちを切り替え、リーダーらしく交渉を進める。


 だが、なぜかアイリさんは放心状態だった。目がうつろで会話も耳に入っていないようだ。


「シュミット工房……独占販売……」


「アイリさん?」


 何かぶつぶつ言ってるけど大丈夫かな?


「優ちゃん、さっきの話……」


 ああ、そういえばまだ説明してなかったわね。


「えっと、シュミット工房でもドライヤーを作ってもらうことになりました。バーデンの工房で出来上がった商品は全てアイリさんのお店に入荷することになりました」


「そ、それは分かったのよ。いえ、実感がまるでないけど。つまり、私がシュミット工房の商品を扱って、しかも独占販売……」


「別に独占販売ではありませんよ。バーデン以外のシュミット工房の商品をここに持ってくるのは大変ですから、それらはカールさんや出資してくれる商人さんに卸します。ですから気にしないでください」


「気にしないでくださいって、シュミット工房バーデン支店のドライヤーが全てうちに入ってくるってだけで、大ごとです」


 う~ん。一地方の小さな道具屋が、突然国内随一の工房の商品を扱うって大ごとよね。しかもその地方では独占状態。


「と、いう訳で販売の方、よろしくお願いしま~す」


 アイリさんのようないい人には幸せな未来が訪れないといけないからね。


「は、はあ、それでは。それで護衛ですよね。確かに閉店から開店までお願いします。あの、カールさん。融資の方はいつ頃用立てしていただけますか」


「予定では5日後、遅くても6日後の昼には間に合わせます」


 返済期限に間に合うことが確認できてアイリさんがほっと胸を撫で下ろす。


「では護衛期間は5日後。場合によってはもう一日延長ということでよろしいでしょうか」


「はい。畏まりました」


 これで話はついたかな。


「ところで’薔薇の乙女’に相談なんだけど……」


 マルケス商会の動きについて尋ねてみた。


「確かに動きが読めないですね。それにこれといった情報もありません。皆はどう?」

「アタシはそういうの分からないから」

「わたしも謀略というのは専門外です」

「予想がつかない」


 だよね~。


「予想がつかないのであれば、いざというときに備えて逃げる方法を用意した方がよろしいのではないですか」


 確かにベルティーナちゃんの意見は正しい。アイリさんは全くの非戦闘員。ならいざというときは逃げるしかない。


 逃げる道具で尚且つこの世界の世界観を壊さない。となるとアレか。某さくらでお馴染みのインラインスケート。

 えっ、ローラーブレードじゃないの?と思う人も多いでしょうが、ローラーブレードは会社名なのです。


 私は子供の頃さくらちゃんに憧れて(もちろん再放送よ!)、買ってもらったのだ。時速3~40キロは出せるから人間に追いつかれることはない。もし馬で追いかけられても裏路地に逃げ込むという手もある。


 しかしアイリさんが使うとなると話は別だ。今から練習してどうこうというのは難しい。となると、前後で2輪ずつ、計4輪ついたクワッドスケートがいいかな。いわゆるアイドルがローラスケートを履きながらステージで踊る際に履いているタイプだ。アレは左右の動きに対してとても安定してるので初心者にはこっちの方が向いている。

 瞳なら作れるよね。


「それなら考えがあるわ」


 この世界にローラースケートを持ち込んでいいかアリアさんに断っておいた方がいいよね。


「考えって、馬で逃げるなんてのは無しですからね」


「もちろんです。自宅で襲われるとしたら、犯人は馬を倒しておくと思いますから」


 カールさんが口を半開きにしている。


「それなら、なにかとんでもない道具を作るとしか……」


 うん、カールさんはイイ勘している。


「作れたらの話しです。それじゃアイリさん、帰って夕飯にしましょうか」


 帰ろうとしたらカールさんにぎゅっと服を引っ張られた。


「待て!」


「完成したら真っ先に見せますから」


「いや、頼むから今すぐ教えてくれ!」


「口で説明するより、見せた方が遥かに早いので、今日のところは我慢してください」


 そんなことに時間をかけるなら、さっさとあっちに行って、設計図を書いて、瞳に作ってもらった方がいい。


「……わかった。でも本当にすぐに見せてくれよ」


 カールさんが服を引っ張っている手を放してくれた。


「カールさん?」


 ベルティーナちゃんは、いつも沈着冷静なカールさんが感情をむき出しにしているので驚いたようだ。


「ああ、気にしないでくれ」


「……は、はい」


 触らぬ神に祟りなしという感じでスルーすることにしたベルティーナちゃんと’薔薇の乙女’のメンバーであった。

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