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参加者

「誰にも見せてないから、黙っていれば分からないわ」


 あ、開き直った。


「でも、領主様にツテなんてありませんよ。普通に面会を申し込んでも簡単には会えないでしょうし」


 領主ともなるとおいそれと会える相手でもないだろう。私のイメージでは仕事で面会したい人も多いが、領主に面会して媚びを売りたい人も多数いて’会いたかったら一か月後’とかお付きの人にあしらわれる感じなんだけれど。


「領主様は毎週日曜になると、ホームパーティーを開くわ。そこに入れてもらうのがいいと思う」


「日曜って、明日⁉」


 私も曜日くらいは把握している。今日は学校がお休み(完全週休二日制)で孤児院の子供たちはずっと教会にいたし、街では普通にお店が開いている。これが日曜日ならお店はほどんど閉まっている。


「そう、明日よ」


 何とも急なことだ。……まてよ、領主様のホームパーティーか。


 私の頭の中では瀟洒なお屋敷に数十、あるいはそれ以上の紳士・淑女が集まりダンスホールで踊ったり、ワインを片手に談笑しているイメージが浮かんでくる。


「つまりホームパーティーにはたくさんの人が招かれるから私ひとりなら簡単にねじ込めると」


 職人ギルドのギルマスならコネだってあるだろう。


 だが、私の想像はあっさり否定された。


「逆よ。ホームパーティはこじんまりとしているわ。領主様の家だってそんなに広くないし、パーティーの準備から後片付け、調理、接客に至るまで全部領主様のご家族だけで対応されるの。メイドも執事もお休みで一切仕事しないってくらい小さなパーティーよ」


 それだけ小さなパーティーなら気楽なんだろうけどさ。


「一体どうやって混ぜてもらえというのですか?」


 それってお客さんが数人で、急に一人増えると迷惑なんじゃない。


「明日の参加者に頼んで同行させてもらうしかないわね。今日中に領主様に一人増えると申請してもらえば大丈夫よ」


 クレアさんは私よりちょっとだけ、そう、ほんのちょっとだけ豊かな、歩くと揺れが生じるくらいの胸を張る。

 けど、それって他力本願だと思う。


「それは何方(どなた)ですか」


「分からないわ……って待った待った」


 立ち上がって帰ろうとしたところを引き留められた。


「で、何か方法はあるんですか?」


 どかっと不機嫌そうにソファーに座ったのはワザとだ。


「参加者ならクラウディアさんが把握している。あの人クヴァルティーアデパートの社長夫人よ、その手の情報収集には抜かりが無いわ」


 なるほど。


「でも、その参加者が私を同行させてくれますか?」


「何を言ってるの? 断る人なんている訳無いじゃない。いや、マルケス商会がいるか。でもマルケス商会以外は断られるなんてあり得ないわ。

 優ちゃんは今この街で一番の注目株よ。これを機会にお近づきになりたいに決まっているじゃない」


 たしかに。


「それなら上手くいく可能性が高いですね。でも、他の女性の様子を思い出しても皆、領主様の面子を立てるような配慮がみられなかったですけど」


 どうみても我先にと争っている感じだったけど。


「頭を冷やせば気づいたんじゃないかしら。まあ、別に領主様より先に入手したからといって特に問題にはならないし。あくまで一応面子を立てておこうか位の気持ちだし」


 随分低く見られた領主ね。でもこのゲームの領主がふんぞり返っていたり、配下が過剰に媚びを売るのは似合わないよね。


「それなら、明日行ってみますね」


 領主とコネを作っておくのも悪くないか。


「その方がいいわ」


 話がついたところでふと気が付いた。


「それにしても、下手に自慢しないで良かったですね」


 そう’私ドライヤー手に入れたのよ!’などと浮かれていたら状況が違っていたのである。


「すぐに気が付いたのよ。アレを見せびらかしたらどうなるか」


 周囲に対しマウントを取りに行ってたら、その場では優越感に浸ることが出来ても、嫉妬されるだろう。特にそれがお洒落ともなると嫉妬の度合いが半端ではない。


「どうなります?」


 クレアさんはくすっと笑った。


「ハンカチがボロボロになるわね」


 なるほど。嫉妬のあまりハンカチを噛んで引きちぎる女性が続出すると。


「その程度で済むんですか?」


 下手するとギルマスとして仕事がやりにくくなるんじゃ。


「さあ?」


「まあ、量産化するまでは内緒にしていた方がいいでしょう」




「あれ? ちょっと早いんじゃないか?」


 待ち合わせより少し早いがカールさんの部屋を訪ねることにしたのだ。


「カールさん、クラウディアさんいます?」


 部屋をノックしたら開けたのがカールさんだったのでちょっと驚いた。


「もうすぐ帰ってくるぞ。お茶会に招かれただけだからな。エマも一緒だ」


「お付きの人は?」


 どうして彼女が扉を開けなかったのだろう。


「彼女はもう王都に戻ったぞ。ドライヤーを持ってな。いやー、彼女には悪いことしたよ」


 ちょっと渋面をしている。


「どうかしたのですか」


「彼女、長期休暇でこっちに来てたのに夕べから完全に仕事に追われてしまったから」


「あら、迷惑かけました?」


「とんでもない。彼女の昇進にも昇給にもつながるし、潰れた休みはこっちできちんと埋め合わせするさ」


 ならいいか。


「カールさん。明日の領主さんのホームパーティーって誰が出席するか知ってますか?」


「さあ。何だ領主様にお会いしたいのか? ならこっちでお膳立てするぞ」


 ふふ、その手には乗らない。


「お膳立てしたいの間違いでは」


 義理があるのだからそれでもいいんだけれどね。


「まあな。でも何で明日のホームパーティーなんだ」


「最初にドライヤーを個人所有するのは領主様がいいんじゃないかってクレアさんが言ってたんです」


「確かに領主様の面子を考えるとその方がいいかもな。とはいえ、優さんと領主様を引きあわせる機会を逃すのは痛いな」


 言外にその埋め合わせをしろと仄めかしている。


「では次の新商品を近日中にご紹介します」


 カールさんが全力で席から立ち上がり駆け寄ってくる。


「本当か!」


 おいおい、あのクールなカールさんはどうしたの。いえ、感情を隠すような間柄ではないということなんだよね。


「ですが、まだ試作品も出来てないです。瞳、ブラシ付きドライヤー作れる?」


 ふわふわ浮かんでいた瞳はドンと胸を叩いた。


「任せて下さい。工房に行けばすぐ作れます」


 出来ればヘアアイロンも作りたいが、あれはプレートを耐熱フェルトで覆うことによって髪を痛めないようにしている。代用品をが用意できない限り作れない。そして今のところ代用品は思いつかない。


「それってドライヤーの先端にブラシをつけるのか?」


 ピンと来たのか、目を見開いている。


「安直ですけど便利ですよ」


「そりゃそうだ。男のオレでも髪を巻くのが大変なのは知っている。それを使えば手間が極端に減るのは目に見えている」


 テンション上がりまくりのカールさんに、身振り手振りで細かく説明していると、クラウディアさんが戻ってきた。


「あら、優さん。いらっしゃい?」

「おねーちゃん、こんにちわ」


 カールさんの様子がいつもと違うので戸惑っているようだ。


「クラウディアさん。質問なんですけど、明日の領主様のホームパーティーって誰が出席するんですか。出来れば紹介して頂きたいんですけど」


 するとクラウディアさんは困った顔をした。


「私達夫婦には面識がないからちょと紹介は無理ね」


「は。オレ達の面識がない人?」


 この二人が面識が無いとは、単なる一般人か?


「一体誰? 普通の一般市民?」


 するとクラウディアさんは首を横に振った。


「いいえ、将来の大物よ。相手はあのシュミット工房の三代目。昨日からここに滞在しているんですって」


「何で……」


 私は脱力した。


 カールさんも言葉に詰まっているようだ。


「三代目? 聞いたことはあるが面識は無いな。これは力になれそうにないな」


 カールさんはかぶりを振った。


「何で……」


 私が体を震わせているのを見てクラウディアさんはそっと肩に手を置いてくれた。


「何で、手間をかけて取引して調べた相手がソフィーなのよ! クラウディアさんはシュミット工房の地図を書いて下さい。瞳はソフィーのところに行ってきて!」

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