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キザの国から来たキザ男vsジャパニーズ・モブ(前編)

タイトルふざけすぎました。すみません

翌朝。


「梨音」

「ん、そうね。もう学校」


眠そうに眼をこする梨音と、対照的に目がさえた俺。

俺たち二人は、ほかの生徒よりかなり早く学校についていた。


……なぜなら、改めて心の準備をする為に家の前で待ち合わせ、

手を繋いで一緒に登校していたからだ。


幼馴染と手を繋いで登校するって考えただけで恥ずかしくて、

結局昨日は梨音が帰ってからも眠れずじまいだった。


そんな恥ずかしい事をしたのも、全ては梨音が

キザ男の告白を断れるように、である。


「はぁ~」


下駄箱で靴を脱ぎながら、大きく息を吐いて

隣にいる梨音の顔を見る。


「何かしら?」


その余裕のある声色と美しい表情はいつもの幼馴染で、俺は安心することができた。


(こんだけ梨音が頑張ってるんだし、俺もしっかりしねえとな。)


そう思い、学校一のキザ男に対抗するために、

俺もちょっといつも言わないようなキザな事を言ってみる。


「いや、俺はお前の幸せのために頑張るぞ、と思って」

「なっ、いきなりどうしたのよ」

「一応、お前の彼氏だからさ」

「……そう。ありがと」


まったく、照れてるのが顔に出やすいよな、梨音は。


俺はそれを微笑ましく思いつつ、上履きを履いて梨音の手を取った。


「二階の教室まで一緒に行こうぜ」

「そ、そうね」


周りの生徒たちの視線を集めながらも、それをあえて気にしないようにして

俺と梨音は手を繋いで階段を昇る。


さながら舞踏会のお姫様と王子様ってところか?

まあ王子様になるは、ちょっと俺は役不足かもしれないけどな。


「け、結構恥ずかしいわね、手を繋ぐの……!」


梨音はそう言ってふるふると震えた。


そういえば梨音はこんなにモテるし美人なのに、

人見知りすぎて男子と付き合ったことなかったんだったな。


意外と男子に免疫無いのかもしれない。


そういう俺も、女の子と手を繋ぐのは初めてだし、

梨音と手を繋ぐと体温が伝わってきて半端なくドキドキしているのだが。


「だ、大丈夫だ」


俺は階段の踊り場の誰もいない所で、梨音の手をやさしく両手で包んだ。

そして梨音の目を見つめ、語り掛けようとした。


「ごほん。り、梨音」

「ひゃっ、ひゃい!」


梨音は手を握られて見つめられている事でドキドキしすぎたのか、

視線を泳がせて震えている。緊張で舌も回っていないようだ。


おいおい、今手を握ってるのは、お前の昔からの幼馴染だぞ。

そう言いかけるが、もっと上手い言葉がある気がして、やめた。


代わりに、自分の今の気持ちを言葉にしてみる。


「俺は、お前の事が大切だ」

「わ、私もよ」


梨音も、俺の事を大切に思ってくれるのは嬉しかった。

俺も恥ずかしさで顔を赤らめながら、必死で喋る。


「じゃ、じゃあ、俺たちが手を繋ぐのは、何の問題もないだろ?」

「そ、そうね、そうなのよね……」


自分を落ち着かせようと、頑張る梨音。

それを見た俺はたまらなくなって、梨音の背中をさすった。


「お、俺は頼れる彼氏だからさ。そんな緊張しなくていいぞ。

 頼りにしとけ!」


震え声でそう言って、無理やり笑顔をつくる俺。

それを見た梨音は、花が咲くように笑顔になってくれた。


「……ふふ、あんたって優しいわね。そうね、いつも頼りにしてるわ。

 ありがとう」

「おう、任せとけ」


今度は震えないように、一歩ずつ。

俺たちは教室のある二階へと足を進める。


……だが、そこに立ちふさがる男がいた。


「ちょっと待った、霧崎。とモブ」

「……出たな、一馬」


キザの国から来たキザ男、アンドレ一馬である。


今日は黒のタキシードに白のワイシャツを合わせ、

昨日よりもビシッとした印象でキメている。


胸元に入っている紅いバラが……って、どこの貴公子だよ。


「モブ男」


だが、そんな服が気にならないほどに。

今日の彼の表情は真剣で、深刻だった。


深い彫りのある顔を歪ませ、こちらをじっと見つめるその姿には、

何とも言えない迫力があった。


……一筋縄ではいきません、ってか。


俺はこぶしを握り締め、「なんだ」と一馬に返す。


「今日の昼休み、霧崎をかけて僕と図書室で勝負しろ」

「なっ……」


予想外だった。まさか勝負と来るとは。

しかしそんな状況でも、俺は冷静だった。


なぜなら、梨音がいてくれるからだ。


「ルールはどうするんだ?」


俺がまず問いたいのはそこだった。

スポーツや勉強などであれば、向こうに分がある。


今回の勝負に梨音の幸せがかかっているなら、

できるだけ、そういう()()()()()()()での勝負は避けたかった。


「ルールは簡単だ」


そう言って一馬は俺を指さす。


「お前と僕で、それぞれ五分間、霧崎をどれだけ愛しているか

 というテーマで、図書室で他の生徒が見る中でスピーチを行う。

 そしてその後、スピーチの内容について観客から質問を受ける

 ディスカッションタイムをそれぞれ二分使って補足説明をする。

 そして、どちらを選ぶか霧崎に判断してもらうというルールだ」


なるほど。


このルール、何も考えずに聞くと「結果は霧崎が選ぶ」という事で

俺の絶対的有利に聞こえるが、「観客がいる」という大きな落とし穴がある。


他の生徒がいる前で緊張してしまうのは梨音の特性だ。

もっとも、一馬や俺はその通りではないが。


そして観客が圧倒的に一馬を推す雰囲気であれば、

梨音はより一層断りにくくなる。


……これは、「俺有利」に見せかけた「一馬有利」のルールとして

考案されている。


俺はそれを把握したうえで、梨音に問いかけた。


「この勝負、受けていいか」


梨音は、俺の手をぎゅっと握りしめて不安そうな顔をした後、

一言だけ、


「絶対、勝ちなさいよ」


と言った。


俺はそれに小さく頷いて、一馬の方に向き直る。


「その勝負、受けるぜ」


一馬はそれに満足そうに鼻を鳴らすと、


「では昼休み、図書館で待っている」


と、向こうへ立ち去って行った。

応援してるぞ夏樹(親戚のおじさん)

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