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俺が梨音の彼氏だ!!!

それは梨音を守るための、ただのハッタリだった。

だが、俺のその必死の演技の迫力に、一馬は一瞬たじろいだ。


俺はその隙を見逃さず、緊張と恥ずかしさでガチガチに固まる梨音の手を引いて、

野次馬たちの群れを突破すると、そのまま二人で図書室の出口へと駆けだした。


「じゃ、じゃあ俺たちは二人でラブラブするから、あばよ!」


 *


「……とはあの場で言ったものの、どうする?」

「どうしようかしら……」


それから数時間後。

なんとか学校から帰宅した俺は、いつも通り家に来た梨音と一緒に

今さっき起きた事件について頭を抱えていた。  


「うーん、そうね……」


梨音が、長い前髪をかき上げながら、悩ましげにこちらの様子を伺う。

その憂いを帯びた表情はどこか陰鬱(いんうつ)で、でも美しかった。


机越しに近い距離で話していることもあり、艶やかな髪からは

ほのかに石鹸のいい香りがするのを感じる。


見慣れた幼馴染の顔なのに、目を合わせると不覚にもドキッとした。

もし梨音が赤の他人だったら、緊張して目も合わせられないだろう、と思う。


正直、可愛すぎて文字通りくらくらするレベルだ。

一馬とやらが惚れるのも、分からなくはなかった。


「ねえ、聞いてる?夏樹」

「あ、ああ」


梨音のその言葉で、ふと我に返る。

どうやら、俺は幼馴染に見とれていたらしい。恥ずかしい事だ。


「大丈夫?熱でもあったりしないかしら?心配ね」


梨音はそう心配そうに言うと、身を乗り出して

俺の額に手を当ててきた。


「だ、大丈夫だ」

「そう?」


近い。顔が近い。


ここが俺の家で、ほかに誰もいないという状況だからなのか

梨音は心配そうな、それでいて申し訳なさそうな顔をさらに近づけてきた。


本人は話に夢中で気が付いていないようだが、吐息がかかるほどの距離だ。


「今日は私のせいでごめんなさい。迷惑をかけて、本当に申し訳ないわ」

「ああ、おう、大丈夫……あと、顔、近い」

「あっ」


俺がその事を指摘すると、梨音はやっと気が付いたのか

顔を真っ赤にしながら俺から距離を取り、ぺこぺこと頭を下げた。


「ほ、ほんとに今日は夏樹に迷惑をかけてばっかりね、私。

 申し訳ないわ」


俺はそれを見て、なんか()()()、と思った。

俺たちは、そんな()()()()()()とか、そういう関係じゃないはずだ。


「迷惑では、ねえよ」

「え?」

「困ったときに頼るのは、お互い様だろ。幼馴染なんだから」


少しカッコつけたセリフだったけど、俺の今の気持ちはそんな感じだった。


梨音には家事だったり勉強の世話を焼いてもらってるし、

返しきれないくらいの恩がある。


だから、そんな幼馴染が困っていたら助けるのは当然の事だった。


梨音も俺のその言葉に、納得したように頷く。


「そう。そうかも、しれないわね。私たちは長い付き合いだし」

「おう」


じゃあ、改めてだけど、お願いがあるの。


梨音はそう言って真面目な顔をすると、

俺にしっかり向き合った。


「私の、彼氏のふりをしてほしいの」

「……やっぱ、そう来るか」


まあ、言われるのは予想はしていた。


梨音は、一馬の様な奴は苦手だし、周りから注目されるのはもっと苦手だ。

でも、相手の本気の告白を皆が見ている前で断れるほど、肝が据わっているわけでは無い。


俺の幼馴染は、優しくてちょっと意地っ張りな、ただの女の子なのだ。

だったら、俺が悪役をやって、一馬に諦めてもらう他にないだろう。


俺は改めて覚悟を決めると、梨音に勢いよく答えた。


「おう、やってやろうじゃねえの。俺が彼氏になるぜ!」


それを聞いた梨音は俺の返答に、なおも不安げな様子で問いかける。


「本当?いろいろ言われるかもしれないわよ?

 モブ顔とか、貧乏そうとか、足臭そうとか」


いや、ひどいなオイ。クラスの奴らもそこまで言わないだろうよ。


まあ……そんな事言われようが、梨音の笑顔のためなら

俺は頑張って働かせていただくけどな。


大切な幼馴染だし。


でもなんか真面目に言うのも恥ずかしくて、

俺はちょっとおどけた感じで「当たり前だろ!」と笑顔でピースする。


「美人で優しくて家事のできる幼馴染が彼女のフリしてくれるってんなら、

 俺は火の中でも水の中でも行くに決まってんだろ?」

「なっ……」


梨音はそれを聞いて、耳まで真っ赤にしてフリーズした後、

わなわなと震えながら、やっと言葉を絞り出した。


「……あんた、あんたって奴は……」


そこでまた思考がオーバーヒートしてしまったのか、

梨音は口をつぐむと、こちらをきっと睨んできた。


まったく。

照れているのがよくわかって、とても可愛い。

ざまあみろ、昨日の仕返しって奴だぜ。


俺は調子に乗って追い打ちをかける。


「いや~、やっぱり照れてる梨音も可愛いなあ~!」

「っ~!あんた、ほんと、あのねえ……!はあ、もういいわ!」


梨音は呆れたようにそっぽを向くと、赤らめた頬を隠すように

俺の反対側を向きながら大きくため息をついた。


そして、深呼吸をして、一言。


「いろいろ言いたいことはあるけれど。

 ありがとう、夏樹」


俺にそう、呟いた。













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