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彼氏です うん、彼氏です 彼氏です 

「……文芸部?」

「そう」


文芸部ねえ。

俺は首を傾げた。


たしかにこいつは俺と一緒で本をよく読むが、

別に文章を書いているわけではないし、

執筆に興味もそこまで無いはずだ。


それに……


「入ってたテニス部はどうしたんだ?」


俺が一番気になっていた問題をたずねると、

梨音は頬杖をつきながらつまらなそうに、あっけらかんと答えた。


「辞めたわ」

「えっ」


そんなに驚く事でもないでしょう、と

いつもの無表情を崩さずに言って、梨音はため息をつく。


「あそこ、居心地悪いのよ。スポ根だし、

 なんか『俺たち陽キャだぜ!』みたいな雰囲気あるし」

「ああ、なるほどな……」


()に落ちた。


運動も勉強もできる上、美人で無口だから

梨音は学校内で「学園一の高嶺(たかね)の花」だと誤解されているが、

実をいうと少々……いや、だいぶ口下手なのだ。


そこも彼女の良さではあるのだが……

どうやらそれのせいで、体育会系である

テニス部とは相性が合わなかったらしい。


「でも、なんで俺と文芸部なんだ?」

「それはね……」


梨音が言いにくそうに声のボリュームを落として

こちらにささやいた、その時だった。


「おい!そこのモブ男!我が愛しの君(マイハニー)と並んで

 何を喋っている!」


高く、よく通る声が図書館中に響き渡る。

あまりの声量に驚いて声がした方に振り向くと、


「モブ男!」


声の主は、俺の目の前で仁王立ちしていた。


すらっとした長い脚に、細身の体。

カールさせた金髪と青い目が白のスーツによく似合って、

まるで童話に出てくる王子様の様だ。


たしかこいつは有名人だったはず。

名前は、えっと……


「アンドレ、だったっけ」

「そうだ、モブ。僕の名前はアンドレ一馬(かずま)。覚えておけモブ」

「いや俺の名前はモブじゃないんだけど」

「そうか、モブ」


なんだコイツ話通じないなオイ。

呆れ返った俺を見て、一馬は大げさに首をひねった。


「はて?なぜこんないまいちパッとしない男が、

 僕のハニーと肩を並べて喋っているんだ?」


ん?()()()()()

それってもしかして……


俺が振り向くと、ハニーと呼ばれた学園一の美少女――梨音は、

あからさまに嫌そうな顔をして一馬の方を向いていた。


「あら、心外ね。あなたのハニーとやらになった覚えは無いわよ」


一馬はその言葉を聞くと、愕然とした面持ちで天を仰いだ。


「な、何……だと……!」


だが、ショックを受けたのもつかの間。

一馬はすぐに梨音の方に向き直ると、豪快に歯を見せて笑った。


「そ、それでも大丈夫だ!なぜなら、今から求婚するから!

 霧崎、僕のハニーになってくれ!」

「こ、断るわ」


にべもない返答だ。

無口な梨音はこの手のタイプは苦手、なのかもしれない。


逆に一馬の方は一見したところモテそうな感じだし、

梨音の様な正統派美人が好みなのだろう。


で、一馬が梨音を口説いている、と。


なんともかみ合わない二人だな、と思いながら見ていると、

一馬がおもむろに梨音に詰め寄った。


二人を取り巻く空気に緊張感が走る。

そんな中で、一馬は必死に語り掛けた。


「僕にダメな所があったら改善する。君の願いも

 可能な限りなんでも叶えるよう努力する。

 霧崎。だから、どうか僕と付き合ってはくれないだろうか!」


梨音はたじたじといった感じで、しきりに目線を泳がせながら

せわしなく手を無意味に動かしている。


「え、えっと」


おそらく一馬との距離が近い事と、皆に見られている事で

めちゃくちゃに緊張しているのだろう。


こういう時は、俺も動かないといけないな。


「おい……」


俺はそう思い、助け船を出そうとした。

だが、それよりも早く、梨音が口を開く。


「ご、ごめんなさい」


そしてそのままの勢いで息を深く吸い込み、かっと目を見開いた。


「私は……彼氏がいるの!」

「なっ、何ィ!?」


なっ、何ィ!?初耳だぞ!?

ぶったまげた俺をよそに、幼馴染はさらに早口でまくし立てる。


「だから、申し訳ないけど無理……です!」

「ほ、本当かい?マドモアゼル?」


動揺する一馬に梨音はうなずく。

……そして、なぜか頬を赤くしながら俺を指さした。


「あ、あの、この、夏樹って男が、私の彼氏!」

「「は、はあ!?」」


俺と一馬、二人の声がシンクロした瞬間だった。


俺が……梨音の彼氏!?

そ、そんな、ありえないだろ!?


驚きすぎて何も言葉を発せなかった俺とは対照的に、

一馬は体を震わせながらも、すぐに俺のところへやってきた。


「な、な、夏樹とやら!」

「お、おう」

「お前には、霧崎を幸せにする覚悟があるのか!?」


あるわけねえだろ!つい今さっき彼氏(?)になったばっかりだわ!


俺はそう叫びかけるのを抑え、梨音の方を見た。

大切な俺の幼馴染は、目で必死に懇願するように訴えてくる。


(……なるほど。よくわからんが……しゃあないな)


俺は文字通り覚悟を決め、一馬に向き直った。

そして、皆が見ている中で宣言した。



「お、俺は、梨音の彼氏だぞ!絶対梨音を幸せにする!!」


な、なんでこんな事に!?



次回はまた梨音と夏樹がいちゃいちゃします。


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