お呼ばれ2
梨音の家は、綺麗な感じの一軒家だ。
昔から梨音と俺は親交があったので、梨音のお母さんやお父さんとは仲良くさせていただいている。
「入っていいわよ」
「お、おじゃましまーす」
ドアを開けて中に入ると、花が生けてあるのが目に留まった。
小さくて可憐な赤い花と、白くて瑞々しい花だ。相変わらず趣味がいい。
「さ、上がって」
「うす」
靴を脱いで、梨音の後についていく。
お互い付き合いが長いので、家に呼ばれたり呼んだりしたこともあったが、
高校生の男女がこれでいいのかという疑問は抱く。
一応、偽装とはいえ彼女と彼氏だし。
「あんたを家に招くのは、高校に入ってから二回目ね」
「そうだな」
そんな俺のモヤモヤとは裏腹に、なぜか梨音はテンションが高い気がした。
階段を上がり、いつもの「りおん」と丸文字で書かれたプレートがかかったドアの前に立つ。
「今日で二回目ね、あんたを家に上げるの」
「そうだな」
確か、前回は恋の相談に乗ったんだっけ。
それで何かデートの練習に付き合わされたんだったな。
あの時に見た映画のドキドキや、わざわざ手作りしてくれた弁当、
それに一緒に回った本屋や喫茶店の思い出が懐かしい。
まるで、本当にカップルになったみたいだったな。
まあ、美人の梨音に俺が釣り合う訳はないのだけれども。
俺がそう思い出にふけっていると、ふと梨音から声をかけられた。
「夏樹、今から服着替えるから。バニーガールに」
「え、マジ?」
「うん」
梨音は顔を赤らめ、口をへの字にして小さく頷いた。
「着替え見たらただじゃおかないわよ」
「わかってるよ。てか本当に着替えるのか?バニーガールに」
「うん」
なんで言い出したお前が一番恥ずかしそうなんだよ。
まあ、やりたいなら止めはしないけどさ。
「ほら、私の美貌を全世界に届けようと思って」
「見るの俺だけだけど」
「っ……!いいの!」
梨音は恥ずかしいのを隠すかのように、わざとらしく怒った。
そんなに恥ずかしいのに、なんでわざわざ着替えるかな。
「いいからリビングで待機してなさい。着替えたら声かけるから」
「はーい」
お菓子とか飲み物は冷蔵庫に入ってるから勝手にとっていいわよ、と
言われたので俺はリビングまで戻ることにした。
梨音の家のリビングはよく片付いていて、小ぎれいな印象を受けた。
冷蔵庫を開けて、コップにお茶を注ぐ。
(あ、これジャスミンティーだな)
前回とは違い、ポットに入っていたのはジャスミンティーだった。
毎回同じものだといけないので、という配慮だろう。
(あいつ本当に気配り上手だな)
感心しつつ、冷蔵庫に入っていたお菓子も頂く。
と、そこで俺はあることに気が付いた。
(これ、誰かの手作りじゃね?)
ラップしてあるそのケーキは、明らかに市販品ではない手作りの品で、
美味しそうだが食べるのをためらってしまう。
(俺が食べていいのか?)
着替えている所に突入する訳にもいかないが、かといって
お母さんの手作りケーキを間違って食べました、とかだとまずい。
冷蔵庫には他に菓子っぽいものは無いが……
(ええい、ままよ!)
間違っていたら後で謝ればいいやの精神で、俺はケーキを頂くことにした。
いざ食べてみるとシフォンケーキの類で、紅茶の風味がありとてもおいしい。
しかも飲み物はジャスミンティーなので、どちらの香りも楽しめる。
俺は甘い物好きなので、こういうのは大好物だ。
「ごちそうさまでした」
ケーキとお茶を平らげ、手を合わせる。いや、美味しかった。
「ケーキおいしかった?」
「おう、めちゃくちゃ」
二階から降りてきた梨音に返事する。……って、え?
「どうよこの衣装」
胸元がガバっと空いた衣装に、生足が良く映える。うさ耳もちゃんとついている。
梨音は、本当にバニーガールの衣装を着ていた。
「いや、あの、はい」
「何か文句ある?」
正直に言うと、肌面積がデカすぎてどこに視線をやればいいのかわからない。
だってJKのバニーガールだぞ!?
何かとんでもない事態が起こっているのは分かっているのだが、頭がパンクして処理できていない。
だって幼馴染のバニーガールだぞ!?
「かわいいでしょ……恥ずかしいけど」
「いや、可愛いけどさ」
「文句?」
「いや、ハレンチだなあと」
俺がそういうと、梨音は瞬間湯沸かし器のように顔をかあっと赤くした。
「私だって恥ずかしいのよ!胸も足も全部隠れてないし!」
「じゃあなんでそんな恰好を?」
俺がそう聞くと、梨音は口を曲げて押し黙った。
二人の間に、しばしの沈黙が流れる。
先に口を開いたのは、梨音だった。
「……美人のわたしの可愛い衣装を、あんたに見てほしかったから」
「ま、まじで?」
「うん」
上目遣いに、梨音が俺の表情を伺ってくる。
その姿がいつもの何倍も可愛く見える。心臓が早鐘を打つのが分かった。
いつも明るく面白い梨音。
知的で勉強もできる梨音。
自分に自信があって努力家で美人の梨音。
その梨音が、自分のためにおめかししてくれた。
その事実が、俺をどうしようもなくドキドキさせた。
「なあ、梨音」
「何よ」
「世界で一番、可愛いと思うよ」
「ふん、あたり前よ」
言葉の割に梨音は嬉しそうで、俺の反応は間違いじゃ無い事を教えてくれた。
「このまま文芸部の話し合いするわよ」
まじすか。