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文芸部の勧誘を、しよう!

学校から帰るいつもの帰り道。

梨音は、難しい顔をして腕を組んでいた。

こういう時は集中している事が多いので、俺はそっとしておくことにした。


俺たちの学校から家まではそう遠くない。

紅葉が綺麗な並木道を、二人でゆっくり歩く。


こういう時に無言でも緊張しないのは、やはり付き合いが長いおかげだろう。

落ち葉の鮮やかな赤が、少しとがっていた心に優しく映った。


前に、紅葉の仕組みについて梨音から聞いたことがある。

葉緑素をなくし余分な葉を落として、冬に備えるのだそうだ。


時間と共に風景も、俺たちも変わっていく。

それは寂しい事でもあるし、期待できる事でもあるのだろう。


ふと、横を歩く幼馴染を眺めた。


今日の梨音は、いつもの制服の上から深い紺のコートを着ている。

綺麗な長い黒髪とマッチして、とてもおしゃれだと思った。


思えば彼女から、俺はいろんな事を学んだ。

外見の整え方だったり、勉強だったり、自信を持つことの良さだったり……


俺は何か、こいつに返せているだろうか。

少しでも、俺が出来る事はあるだろうか。


こんなにセンチメンタルな感情を抱くのは秋だからかもしれない。

でも、この気持ちを俺は忘れずにいようと思った。


「ねえ、夏樹」


聞きなれた、澄んだ声が俺の名前を呼んだ。


「学校で私がバニーガールやって勧誘するのはどう?」

「SOS団のパクリやめろ」

「やっぱ無しか~」


パクリであることを差し引いても、冬場にJKが学校でバニーガールやるのはアウトすぎるだろ。


こいつは見た目に反して結構ノリがバカなので、やっちまいそうで見ていて冷や冷やする。

というかあれだけ考え込んでそれかよ。


「じゃあガンダムは?」

「死んでもさせねえ」

「え~、じゃあエヴァンゲリオンの着ぐるみは?」

「文芸部の勧誘でふざけんといてくださいよ!」


やっぱり駄目なのね、と梨音が笑う。つられて俺も噴き出した。

学校をコミケかなんかだと勘違いしてるだろ。


肝心の文芸部に勧誘する話は一ミリも進んでいないのだが、まあ楽しいのでいいとしよう。


「じゃあ逆に何ならいいかしら」

「チラシ配りとか?」

「時給1050円以上なら受けるわよ」

「無駄にリアルな数字出すのやめろ」


こうやって友達と駄弁りながら帰るってのも、青春かもしれない。

こういう楽しい時間がいつまでも続いたらいいのにな。


「体育館借りて最強文芸王決定戦でもやる?」

「最強文芸王決定戦ってなんだよ」

「本で殴りあって勝負するのよ」

「本を大事にしろ。あとそれはただの蛮族の決闘だから駄目」


この美少女、発想が小学生男子である。


「じゃあ、『一番エロい文章を書いてエロく朗読した人の勝ち! 官能小説選手権』とかはどうよ」

「高校生男子としては気になるけど、公序良俗に反するので駄目」

「気になるの?耳元で朗読してあげよっか?」

「はいはい」


こちらを見てニヤニヤする梨音を、軽く手であしらう。

こういうすぐ調子に乗る所、ちょっと可愛いと思ってしまう。


まあそれはそうと、そろそろおふざけも飽きてきたので真面目に考える必要がある。

とりあえず、いくつか前から考えてみたものを出してみるか。


「二人で一つずつ作品を出して、小冊子で配るのはどうだ?」

「結構現実的な案ね。いいんじゃない?」


そうなると、作品を書く必要があるな。

俺はそんなに執筆経験がないから、ちょっと頑張らないといけない。


「梨音は執筆したことあるのか?」

「まあ、一応って感じ。気合入れないといけないわね」

「そうか~」


一緒に頑張る感じになるな。創作活動は結構厳しいっていうし、締め切りもあるからなかなか難易度は高そうだ。でも、だからこそやりがいもある。


新しい目標が出来るというのは、いい事だ。

目標を達成するために様々な事を経験し、そして成長する。


問題は、この案が失敗すると部活自体が白紙になりかねない所だが……まあ、頑張ろう。


「そうだ、夏樹」

「ん?」

「私の家、今日親がいないのよ。寄っていかない?お茶くらい出すわよ」

「いいのか?」


そう訊ねると、梨音はニコっとはにかんだ。


「もしかして襲う気?」

「なわけあるか」

「じゃあいいじゃない」


文芸部の件も一緒に話し合いましょうよ、と梨音は言った。


「家に一人だと寂しいし、たまにはこういうのもいいでしょ」

「まあ、そうか」


正直幼馴染とはいえ、年頃の可愛い女の子と相手の家で二人きりというのはなかなかに緊張するシチュエーションではある。

こういう時改まっていると梨音にいじられかねないので、俺はあえて自然な感じを装った。


並木道を抜け、住宅街に入る。

家族連れが多いここの街は、いうまでもなく俺たちのホームだ。


ここまで帰って来ると、なんか安心するんだよな。

いつも見ている風景が、ただそこにあるという事実。

それが、少し緊張をほぐしてくれた。


「そうだ、夏樹」

「ん?」

「帰ったら隣の部屋で着替えるけど、覗いたら殺すわよ」

「あ、はい」


一瞬よくない妄想が頭をよぎったが、死ぬのは嫌なのでおとなしく部屋で待っていよう。


「あ、ちなみにバニーガールね」


はあ??????????










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