劇場版 アホと俺の学内大冒険
「美人だからってやっていい事と悪い事があるぞ」
むすっとした顔でそっぽを向く梨音を連行しながら、俺はそう説教した。
「これから文芸部としての活動をやっていくのに、問題を起こしちゃまずいんだ」
「え~」
ずるずると俺に引きずられながら、不満げな声を漏らす梨音。
「でもいい宣伝になったでしょ、この私の」
そんな事で胸を張るな胸を。
アホなのも可愛い所の一つではあるのだが、流石に校内でこたつは頭イカレすぎだ。
「お前自身を宣伝してもダメだろ」
「うえ~~~」
「うえ~じゃない。子供みたいにだだこねたって駄目なものは駄目だ」
「ぶ~」
口をへの字に曲げ、あろうことかこちらにブーイングを決めてくるアホを引っ張って
教室の前まで移動させる。
「じゃあな、また放課後。今度は問題起こすなよ」
「わかったわ。放課後を楽しみにしているといいわ」
日本語通じてんのか?たぶん通じてないな。
ま、仕方ないか。
そろそろ授業が始まってしまう時間だったので、梨音に手を振って自分の教室に入る。
「真里、おはよ……おい、どした?」
教室に入って最初に目に飛び込んできたのは、げっそりとやつれた真里の姿だった。
目にはクマが出来てるし、なにより顔色が悪い。
「ナツキンじゃん……おっす~」
いつもと違い、気の抜けた挨拶をする真里。
「いや~、昨日推しの配信見てたら夜更かししちゃっててさ、まいったまいった」
困ったようにひとしきり笑った後、真里はふう、と深く息を吐いた。
「自業自得だから、そんなに心配しなくても大丈夫だよ。大した事ないしね」
明らかに大丈夫そうではない。
なぜか、無理をしているようだった。
「もし体調が良くないなら、俺に言ってくれよ。保健室まで送るから――」
「大丈夫」
俺の言葉を途中で遮り、真里は力なく笑う。
「大丈夫だから。心配してくれるのは嬉しいけど、わたしは元気が取り柄だから。
それに、ナツキンと二人で歩いたら梨音っちに嫉妬されちゃうよ」
なんでそこで梨音が……?
そう聞こうとしたが、真里の身にまとう雰囲気が、それ以上の追及を拒絶していた。
「……そっか。無理はするなよ」
俺の口から出て来た言葉はあまりにも陳腐なものだったが、真里は小さくうなずいて「ありがと」と
感謝を口にした。
お互いそれ以上何も喋れなくて、そのままの気まずい状態で授業の鐘がなった。
*
授業が全て終わり、ホームルームも終わって皆が帰り支度をしだした放課後になっても、
真里の具合は優れないようだった。
本人が大丈夫と言っている以上、何かしてやるのは難しい。
そもそもクラスメイトというだけで、赤の他人なのだ。
そんな事を思案していると、真里の方から声を掛けられた。
「メッセで送ってくれた文芸部のお誘いだけど、前向きに考えとくね」
「お、おう」
そう、俺と梨音は文芸部に真里を誘っていたのだった。
「嬉しかったよ。また明日」
「おう、また明日な」
最後まで変な調子だった真里を階段まで見送り、俺は梨音の教室へ向かった。
梨音の教室は人がまばらで、担任の先生がホームルームの片付けをしていた。
が、なぜかその中に梨音がいない。
「先生、霧崎知りませんか?」
「ああ、あの子なら二階に行ったよ」
「了解です、ありがとうございます」
先生にサクっと梨音の居場所を聞いた俺は、階段を下って二階へと足を進めた。
「あら、遅かったわね」
「おう、梨音……ん?」
二階で俺を待っていたのは……猫耳を付けたミニスカートメイド姿の梨音だった。
「……何をどうしたらそうなるんだ?」
フリフリのレース付きの白いメイド服に身を包み、足を膝上まで露出させた梨音はあまりにも刺激的で、きらきらしていた。
ただ、死ぬほど目立った。
「あら、私の美しさにくらくらしているの?」
得意げに笑う梨音は、ネコミミのおかげか普段の冷たい印象も無く、とても可愛らしい。
色々と聞きたいことはあったのだが、可愛かったのでとりあえず褒める事にした。
「梨音、可愛いぞ。似合ってるぞ」
「本当!?」
ちょろい。
「恥ずかしかったけど、ちょっと露出多めの服を選んで良かったわ。やっぱり私は美人だものね」
「そうだな」
照れるときにちょっと赤くなるのも、褒められるのに弱いのも俺の幼馴染って感じがして、
ちょっと安心するし、きゅんとする。
「じゃあその格好で街でも歩くか?」
「そ、そんなわけないでしょ!今だって恥ずかしくてしょうがないのにっ……!」
スカートの裾を引っ張ってむくれるのも、いいな。
「やっぱダメか」
「当たり前よ、調子に乗りすぎ」
そう二人でいつものように会話しながら、俺たちは伏見先生が用意してくれた二階の仮部室へと歩いていった。
……あれ?大事な事を忘れてないか?
梨音の衣装って、誰が用意したんだ?