デート(?)その3
映画館を出て来た俺たちは、感想を互いに言い合った。
「あれ、そこそこ面白かったわね」
「そうだな、絵も綺麗だったし」
どうやら、お互いに満足できたみたいだ。
「夏樹と一緒に映画を見られて、結構楽しかったわ」
「おう、俺も楽しかった」
梨音が楽しんでくれた事に、ほっとしたぜ。
途中にハプニングもあったし、
機嫌を損ねてないか不安だったんだよ。
「次は、どこ行こうかしら?」
梨音にそう言われ、俺は腕時計を確認する。
今の時刻は午後一時過ぎ。
もうすぐお昼ご飯の時間だな。
「よし、二人で飯食べようぜ」
俺のその提案に、梨音は「いいわね」とうなずいた。
「今日は二人分のお弁当を作ってきたから、どこか座れる場所で
一緒に食べましょう」
「弁当?マジか」
「ええ、せっかくの機会だもの」
弁当、わざわざ作ってきてくれたのか。
予行練習だってのに、梨音はすごいな。
「ありがとう梨音、おいしく頂くよ」
俺が笑顔を見せると、梨音は照れたように顔を背けた。
「あ、あんたのためじゃなくて、練習だからね」
「わかっとる、わかっとる」
そんなに強調せんでも。
「梨音は、好きな奴のために頑張ってるもんな。
今日の料理だって、好きな奴に喜んでもらう為なんだろ?」
「そ、そうよ」
「じゃあ、俺の前で照れる必要もないだろ?」
「…………」
梨音は俺の顔を、むすっとしながら見つめてきた。
明らかに何かいいたげな顔だ。
「どうした?」
「別に~!」
あかん。
なんか怒っているらしいが、理由が全く分からない。
うろたえる俺に、梨音はつんと澄ました顔で言う。
「まあ、とりあえず公園で昼ごはんにしましょ。
あんたに美味しいご飯、食べさせてやるから」
「お、おう」
*
近くの大きな公園に移動してきた俺たちは、
日の当たるベンチに腰掛けた。
今日は晴天で比較的暖かく、風が心地いい。
芝が広がっていることもあり、
とてもリラックスできるいい場所だった。
「夏樹、これお弁当」
「お、ありがとう!」
梨音が渡してきたのは、可愛いピンク色のお弁当箱だった。
二重になっていて、結構量もありそうだ。
「こんなに、一晩で作ってくれたのか……?」
俺が驚いてそう聞くと、梨音は胸を張って「ええ」と答えてくれた。
「あんたの好物ばっかりよ。感謝なさい」
得意げになる梨音に、俺は素直に「嬉しいよ、梨音」と感謝した。
「女の子に弁当作ってもらうなんて、夢みたいだ。
本当にありがとう!」
「ふふ。そこまで喜んでもらえると、私も嬉しいわ」
梨音は照れたように頬を赤らめ、微笑んだ。
「開けてみていいか?」
「いいわよ」
「じゃ、開けるわ」
俺は、ゆっくり弁当箱のふたを開ける。
中にあったのは、豪華な料理の数々だった。
鶏のから揚げに卵焼き、
タコさんウインナーに筑前煮、生姜焼きまで。
様々な種類があり、かつしっかりと作られた料理が、
まるでおせちのように取り分けられて入っている。
「すごいな……」
俺は、思わず感動していた。
いくら好きな人の為の練習とはいえ、こんなに手のかかる料理をいっぱい、
それも一晩で作ってくるとは。
凄い奴だな、俺の幼馴染は。
料理のクオリティーの高さと、そこに込められた梨音の情熱を感じて、
俺は胸が熱くなった。
「これ、俺が食っていいのか?」
俺の質問に、梨音は不思議そうに首をかしげた。
「あたり前でしょ?私があんたのために……じゃなくて!」
梨音はなぜか慌てて、言葉を修正する。
「食べて、感想を言ってもらう為に作ったんだから」
ま、そうか。
俺は納得して、手を合わせた。
「じゃ、いただきます」
俺はそう言って、卵焼きに箸をつけた。
見た目はふっくらしていて、とてもおいしそうだ。
「んむ」
卵焼きを口の中に入れた途端、
卵のふわっとしたおいしさが口の中に広がった。
うまい。文句のつけようがない。
「夏樹、どうかしら……?」
梨音は、俺の表情を不安げにうかがっている。
俺はそんな幼馴染に、素直に感想を伝えた。
「うまいぞ、めちゃくちゃ」
「本当?よかった……!」
俺の笑顔に、梨音は胸をなでおろした。
「一生懸命、何回も料理を練習してきた甲斐があったわ……
ありがとう、夏樹」
「いやいや、俺は食っただけだし」
「でも、夏樹は私の料理、『おいしい』って言って
いつも食べてくれるでしょ?」
それが、一番嬉しいのよ。
梨音は嬉しそうにそう言うと、照れたように顔を赤くした。
なぜか俺と目を合わさないようにうつむきながら、
梨音は再び話し出す。
「あの、夏樹にお願いがあるんだけど……」
「ん?どうした?」
「すごい、恥ずかしいお願いかもしれないんだけど、いい?」
は、恥ずかしいお願いか。
俺は、思わず身構えた。
全裸で公園を三周してこいとか、小学校の時のテストの点をバラすとかか?
……いや、梨音に限ってそんな事はないだろう。
「ちょっと待ってくれ」
「あ、うん」
俺は頭の中で、梨音の考える『恥ずかしいお願い』が
何であるかをシュミレートしてみた。
きっと恥ずかしがり屋の梨音の事だから、本当は
そんなに恥ずかしくない事を、
『恥ずかしい』と思っているのかもしれない。
……まあ、梨音には常識もあるし、大丈夫なお願いだろう。
俺はそう予測して、梨音にグーサインを出して見せた。
「おう、俺が出来る事ならなんでもやるぜ」
「ほ、本当?」
顔を赤くした梨音は、しばらく言うのをためらった後
決心したように、俺の目を見た。
「夏樹に、あーん、ってしてほしい」