デート(?)その2
結論から言おう。
俺たちの見た映画には、ラブシーンがあったのである。
……それも、結構強烈な描写のが。
映画館のスクリーンいっぱいに映し出される、それを見て
俺はさすがに赤面した。
いくら幼馴染とはいえど、同い年の異性が隣にいる状態で
このシーンを見るのは、かなり気まずい。
「梨音、大丈夫か……?」
俺はそっと、梨音の様子をうかがった。
「あ、あ……なつき」
梨音は真っ赤になって震えながら、
画面を食い入るように見つめている。
どうやら、刺激が強すぎて思考回路がショートしてしまったようだ。
いつもは大人っぽいけど、こういう時はうぶなんだよな。
「な、なつきぃ」
梨音はかぼそい声で、俺を呼んだ。
恥ずかしさのせいか、声が裏返ってしまっている。
「どうした?」
「えっと……一人だと心細いから……」
梨音は、そこで言いよどんだ。
そして、何かをねだるような上目遣いで俺を見る。
「手、繋いで、一緒に見ましょ……?」
「……!?」
えっと、ちょっと待ってくれ。
つまり、俺は美少女の幼馴染と手を繋いで、
映画のラブシーンを鑑賞するって事か?
オーケイ。なるほど、よくわかった。
……いや、何もOKじゃねえんだが!?
隣にいるだけで結構気まずいし、ドキドキするのに、
手まで繋いだら……!
俺は、心臓がバクバクと脈打つのを感じながら、
梨音を見た。
梨音は、恥ずかしそうに俺から視線をそらすと、
「ダメ?」と、口をとがらせてつぶやいた。
……可愛い。
ラブシーンに赤面しながらも、俺が手を握ってくれないのに
ちょっとすねてるのが可愛すぎる。
こんな子に頼まれて、断れる奴いないだろ。
「……いいぜ、手つなごう」
俺は、なけなしの勇気を振り絞って、隣の座席にいる梨音の手を
ぎゅっと握った。
「ひゃんっ」
梨音はびくっと飛び上がる程震えて、
普段の姿からは想像できないような、高い声を出した。
「……梨音は本当に、男に対する免疫無いよな」
「……しょうがないじゃない」
おっ、ちょっとむくれた。
俺は、自分よりもドキドキしている幼馴染を見て、
思わずニヤニヤしてしまった。
梨音はそれに納得できないといった表情で、首をかしげる。
「私の反応、そんなに変……?」
変ではないんだが……
「いや、可愛いな、と思って」
「っ!」
梨音はぷるぷると震え、俺から目線をそらした。
「な、なんでそんなに褒めるのよ!」
「嫌だったか?」
「そうじゃなくて、嬉しいけど……照れてしまうわ」
「いいじゃないか、照れてる時も可愛いし」
俺がさらに褒めると、
梨音は頬をぷくーっと膨らませた。
「……これ以上私に恥ずかしくさせたら、
おしおきよ」
おしおきね。
あいにく俺は、美少女におしおきされる趣味は持っていないので、
素直に謝る事にした。
「へいへい、やめますよ」
「それでいいわ」
ふん、と鼻を鳴らして、梨音は映画鑑賞に戻った。
スクリーンの中では、まだラブシーンが続いている。
……長すぎんだろ。五分はやってるぞ。
いつまで俺たちは、手を繋いでればいいんですか?
流石にそろそろ、変な気分になってきたんだけど。
いたたまれなくて、俺は再び梨音の方を向いた。
ああいうシーンを見た後だと、どうしても意識せざるをえない。
白いうなじとか、ワンピースのせいで、
見えそうで見えない鎖骨のあたりとか……
「なんで私を見てるの?」
「はっ!」
我に返ったが、もう遅い。
梨音に怪訝な顔をされてしまい、
俺は慌てて釈明した。
「えっと、梨音はきれいだな~と思って」
「それだけ?」
「それだけです」
そう。別にまずい事を考えていたわけではないのだ。
……たぶん。
「あ、あんた、私でエロい妄想したりしてないわよね?」
「し、してねえ!」
俺は慌てて、それを否定した。
断じて、そんなつもりはなかった。
だいたい、隣にいる幼馴染でエロい妄想する奴、かなりヤバいだろ。
俺は紳士的だから、そんな事しないぞ。
だが、梨音は納得していない様子で、いぶかしげにした。
「夏樹も、もう高校生だし。
家からエロ本見つかってるし、絶対私の事もそういう目で見てるでしょ」
「いや、見てねえって!」
あと、エロ本の件はもう忘れてくれ!
俺が必死になって説明すると、
梨音は、渋々といった感じで頷いた。
「……本当にいやらしい目で見てない?」
「うん」
「そう……安心したけど、ちょっとつまらないわね」
いや、なんでだよ。
なんで俺が梨音の事をいやらしい目で見てないのが、
つまらなくなるんだ?
全く。
女心というのは、俺には一生かかっても
理解できないものかもしれないな。
困って、頭をかく俺。
梨音はそんな俺を見て、くすくすと笑った。
「まあ、私は夏樹の事いやらしい目で見てるけど」
「なんでだよ!?」