デート(?)その1
翌日。
デートの練習をするために、梨音と待ち合わせた俺は、
集合場所である駅の改札前にいた。
手に持っていたスマホの時刻を確認すると、
今はちょうど午前十時だった。
待ち合わせ時刻は十時半だったので、つまるところ
俺は三十分早く着いた、ってわけだな。
「デートかあ……」
練習に付き合うだけとはいえ、女の子とのデートは俺も始めてだ。
昨日梨音が帰ってからは、デートプランをどうするかとか
着ていく服はどんなものがいいかとか、俺なりに色々考えた。
「いいぜ!」なんてノリノリでOKしちゃったけど、
今は、結構緊張してる。
今日のために、服もかっこいいのを選んだし、
デートコースも、梨音の趣味に合うようなところに絞った。
あいつに、喜んでもらえるといいんだけどな。
俺は不安と期待をないまぜにしたような気持ちで、
可愛い幼馴染が来るのを、ドキドキしながら待っていた。
それから三十分後、約束の時間ぴったり。
「夏樹、待たせたわね!私よ!」
梨音はやけにハイテンションで、俺の前に駆け寄ってきた。
「り、梨音……」
俺は幼馴染の姿を見て、驚愕した。
めちゃくちゃ、可愛いのだ。
一言で言うと、いつもより女の子っぽい。
フリルとリボンが付いた、ピンクのワンピース。
学校ではまとめていた黒髪も、今はロングに戻している。
まるで、絵本から出てきたお姫様みたいだ。
元から綺麗だし、美人だとは思ってたが……
かわいい服を着れば、梨音はこんな風にもなれるんだな。
「梨音、その服めちゃくちゃ似合ってるよ」
俺が素直にそう褒めると、梨音は
恥ずかしそうにはにかんだ。
「あ、ありがと。
……あんたも、なかなかカッコいいわよ」
「お、マジ?やったわ」
思いがけず、服を褒められてしまった。
徹夜で、悩みながら選んだ甲斐があったな。
俺は、ひそかに心の中でガッツポーズした。
「ねえ、夏樹」
「ん?」
「今日は、一応、練習とはいえデートでしょ?」
「そうだな」
頷く俺。
そう、今日はデートだ。
梨音は俺の顔を見てしばらくもじもじした後、
「……手、繋ぎましょ!」
そう宣言して、いきなり俺の手をぎゅっと握りしめた。
「お、おう?」
あまりにも梨音がすごい顔をしていたので、
俺は勢いに押されて返事をする。
「これで、ようやくデートっぽくなってきたわね。
じゃあ、夏樹……エスコートしてくれる?」
これからの時間が楽しみでしょうがないという風に、
梨音はいたずらっぽく微笑んだ。
「まあ、うん。任せとけ。ばっちり考えて来たからよ」
俺は梨音に、期待してくれと胸を張って答えた。
こうして、俺たちのデートは始まった。
*
「とりあえず、映画でも見ようかと思うんだけど、どうだ?」
「映画館ね……いいわね」
デートの最初に俺が行こうとしたのは、映画館だった。
ここなら二人の距離も自然と縮まるし、趣味が合えば会話も弾む。
幸い梨音も乗り気になってくれたみたいで、ホッとしたぜ。
映画館の上映スケジュールも事前に確認して、見る映画はある程度決めてある。
急にデートすることになったから、梨音とは相談してないんだけどな。
「梨音。この映画とか、いいんじゃないか?」
俺が指さしたのはもちろん、恋愛映画だ。
カップル二人が、一緒にドキドキしたり感動できるのは
やっぱり恋愛映画だろう。
しかもこの映画は、梨音と、梨音の好きな人の心理的距離が
ぐっと縮まる事間違いなしの良作だぞ。
俺が恋愛映画の利点についてそう語るのを、
梨音は途中で「ごめん」と止めた。
「考えてもらって本当に嬉しいんだけど、わたし恋愛系苦手なのよね……
例えば、あの映画なら、一緒に楽しく見られると思うのだけど」
梨音が指さした先には、超人気ゲームの映画化作品のポスターがあった。
確か、少年少女が、それぞれの願いをかけて戦うみたいな
ボーイミーツガールものだったはずだ。
ネットのレビューには、「初見にも優しいつくりになっています」とか
肯定的な意見が多かった作品だ。
まさか梨音がアニメ映画をチョイスしてくるとは思わなかったが、
俺もゲームやアニメは好きな方なので、二人で見るのもいいかもしれない。
……原作は遊んだことがないんだがな。
「俺もそれ興味あるから、一緒に見るか」
「いいわね。私もまだ見たことない作品だから、
二人でワクワクしながら見られるわね」
意見が合致した俺たちは、すぐさまチケット売り場へと並んだ。
デートというのは、こうして二人で決めていく行事が多いのも
中々に楽しいポイントかもしれない。
「梨音って、こういうサブカル系にも興味があるんだな」
「まあ、本も読むからそのつながりで、かしらね」
梨音はそう答えながら、俺と手を繋いだまま
チケット売り場でチケットを注文した。
「この映画、高校生二人で」
「1200円になります」
売り場のお姉さんにそう言われた梨音は、
少し不思議そうな顔をした後、
「あ、ごめんなさい。カップル割で」
と再び注文しなおした。
「あ、では1000円になります」
梨音は、俺から受け取った五百円を出しながら、
ちょっと小悪魔チックな笑みをこちらに浮かべた。
俺はそれに気が付いて、梨音にひそひそ声で話しかける。
(どこからどう見ても、カップルだな)
梨音はそれに嬉しそうな顔をして、少し顔を赤らめた。
(あたりまえでしょ)
そんなわけで、俺たちは恋愛映画ではなく、
まったく知らないゲームの映画のチケットを買ったのだった。
……後から考えればこれが失敗だった。
俺たちの見た映画には、まずいシーンがあったのだ。