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変人しかおらん

顧問候補が伏見先生しかいないとなると……


俺と梨音は、腕を組んで考え込む。


「これは、正直博打(ばくち)よね」

「そうだな、うん」


梨音の言葉に、俺はうなずくしかなかった。


ただでさえ、話したこともない先生と一緒に部活をやるという

大きな賭けに出ているのに……


伏見先生はその上、「先生としての評判も、周りから一切聞かない」という

全くもって謎の先生だ。


不安要素が多いのは、言うまでもない事だろう。


俺は頭をかきながらも、困っている幼馴染に話しかける。


「とりあえず、伏見先生に会って話をしてみるしか無さそうだな」


梨音も、それに渋い顔をしながらうなずく。


「まあ、ダメだったら別の事を考えましょ。」


梨音は、こういう所はさばさばしている。

というか、決断が早いのかもしれない。


不安そうに髪を指でいじっているものの、

とりあえず俺と一緒に行く意思は固めたようだった。


「じゃあ、とりあえず二人で職員室行って、伏見先生探すか」

「そうね」


俺たちはこうして図書館を出て、一階の職員室を

目指し歩き出した。


「あ、梨音。手を繋ごうぜ」

「……あんたのそういうめざとい所、嫌いじゃないわよ」

「どーも」


照れながら手を握ってくれる梨音に、思わずほおを緩めつつも、

俺は暖房のきいた図書室を出て、窓が開きっぱなしの階段に出る。


「さむっ!」

「まあ、一月だししょうがないわね」


い、一月にしても寒くないか。

俺、一応ブレザー羽織ってるんはずなのに、(こご)えてるんだけど。


やっぱり暖房が効いた部屋から出ると、冷たい風が体にこたえるな……


俺はガタガタ震えながら、梨音の方を気にかけた。


こんな日に、生足が結構見えるくらい短いスカートをはいているにもかかわらず、

梨音はなんともないといった表情で、平然としている。


見てるこっちが風邪をひきそうな服装だ。

俺は心配して、梨音の肩を叩いた。


「梨音、寒くないか?

 俺の上着、よかったら貸そうか?」

「だ、大丈夫。私は美人だし……くちゅん!」


……やっぱり寒くてくしゃみしてるじゃねえか!

美人である事と寒さに耐性があることは一切関係ねえし!


なんで、そんな意地張ってるんだか。呆れたぜ、まったく。

しょうがなく俺は、ブレザーを背中からかけてやった。


「風邪ひくぞ。いいから上着ろ」

「……わかったわ」


梨音は意外にも素直に、俺のブレザーを羽織る。


ちょっとオーバーサイズだったが、今はやりの『萌え袖』みたいに

ちょうどよく袖が余っていて、正直可愛かった。


やっぱり、美人には何着せても似合うんだな。感心したぜ。


俺のそんな感想をよそに、梨音はブレザーの袖をめくって調節している。


「この服、結構大きいサイズね……あ」


ふと何かを思いついたのか、梨音は袖の調節をやめた。

そして、なぜかしたり顔で笑みを浮かべる。


「これって、あんたが私の体をあっためてくれた、って事ね」

「なっ」


一瞬、俺は驚いて答えに詰まる。

が、梨音のいたずらっぽい笑みを見てすぐ察した。


こりゃ、俺がいじられてんな。


「誤解を招きそうなことを言うのをやめろ」

「ふふ、夏樹はうぶで可愛いわね」

「アホか」


そう笑いながら、俺と梨音は階段を下っていく。

気が付けばもう、二階から一階への階段だ。


「なあ、梨音」

「なあに?」


梨音は気分がいいようで、俺を見て

猫の様に目を細めて笑った。


「なにか用でもあったかしら?」


調子に乗っているときの梨音は、妙な口調だ。

『~かしら?』なんて、今どきの高校生は使わないだろう。


もしかしたら、本で読んだキャラクターの口調を

無意識にそのまま使っちゃっているのかもしれない。


梨音は本好きだし、ありえない話でもないな、と俺は思った。


まあ、この一風変わった口調も、梨音がハイスペックで

ミステリアスな高嶺の花だからこそ許されているわけだが。


……実際の梨音は、照れ屋で女の子らしいんだけどな。


俺は隣の梨音を見て、そんな事を考えていた。


「何をそんなに微笑むような事があるの?

 私の顔に何かついている?」

「おっ、すまん」


やばいな。

梨音を見ていると、どうしても口角が上がってしまう。

こりゃ、いけないくせだな。


怪訝な顔をする梨音に、俺は手を振って

「なんでもねえよ」とごまかした。


まさか、

『お前の事を色々考えてたんだ』

って本人に言う訳にもいかないし。


梨音は、俺のそっけない対応に何かを感じ取ったのか、

納得したような様子を見せた。


「なるほど、私に見とれちゃってたのね」

「はいはい」


当たらずとも遠からず、って所だな。


俺たちが仲のいいやり取りをしながら歩いていると、

目の前に職員室が見えてきた。


いつもは赤点を取って先生に呼び出されるか、

そうでなくても大概(たいがい)叱られるときに来る事が多い所なので、

ちょっと緊張する。


だが、大切な幼馴染の願いを叶えるためだし

ここは俺が、先頭に立って伏見先生を呼ぶべきだろう。


……梨音は人見知りだし。


俺は深呼吸して、職員室のドアを叩く。


「一年A組の深川夏樹です。文芸部の事で相談に来ました。

 伏見先生、いらっしゃいますか?」

「あ、ここにいるよ~」


返ってきた声は、予想よりゆるい感じのものだった。


思わず拍子抜けしてしまいそうだ。

まさか、今の声が伏見先生か……?


正直、一年の俺たちはまだ倫理を授業で受けたことが無いので、

伏見先生の声すらも知らなかった。


「ちょっと待って、今行くからね~」


優しそうな男の先生の声。

それを聞いた俺と梨音は、顔を見合わせた。


「この声……先生か?」

「そうみたいね……」


二人して困惑した顔をしていると、職員室のドアがゆっくりと開いた。


中から出てきたのは、理科の実験でもないのになぜか白衣を着た先生だった。

頭は天然パーマで、レンズの厚い丸めがねをかけている。


どこからどう見ても普通の先生ではないその人は、

ゆるいトーンで俺たちに挨拶した。


「ボクが伏見。二人ともよろしくね~」



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