表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/37

からかってる訳ねえだろ

坊主にしました。

とはいうものの、授業中に手を繋ぐわけにはいかない。

教室も別々だしな。


まあそういう事で、俺たちが手を繋ぐのは、

昼休みと放課後って事になった。


梨音いわく、「しょうがなく決めた妥協案」だそうだ。


……流石に、一日中あいつと手を繋いでたら

俺のメンタルが持たないんだが。


梨音は、そうまでして異性と接触する練習をしたいのだろうか?

もしかしてもう好きな人とかがいて、それの練習をしてる、とか?


いや、でもそれならそいつに告白して、

そいつと練習すればいい話なんだよな。


梨音は可愛いから、断る男なんていないだろうし。


「う~ん?」


俺は首をひねった。


真里が言ってたように、俺と一緒にいるのを楽しんでる

って線も無くはないが……


「そこ、授業に集中しなさい」

「あ、はい」


やっべ、授業中に梨音の事考えてたら怒られちまった。

まあ、当たり前か。



     *


てな訳で、昼休み。

俺は廊下に出て、梨音の姿を探す。


えっと、あいつの教室は階段寄りだから……

こっちか。


俺が見当をつけた方向に歩いていくと、梨音は案外すぐ見つかった。


短めのプリーツスカートの下から伸びる、

モデルの様にきれいな白い脚。


そして、腰まである黒く艶やかな長髪……って、え?


俺は目を疑った。

普段は髪を下ろしている梨音が、今日は後ろの髪をゴムでまとめて

長髪のポニーテールにしている。


普段のミステリアスな雰囲気とは印象もガラッと変わり、

快活で綺麗なモデルさん、という感じがする。


「あ、夏樹。いたのね」

「ああ、うん」


梨音に声を掛けられても、俺は驚きで上の空だった。

女の子って髪形を変えるだけで、こんなに印象が変わるものなのか。


なんというか梨音が綺麗すぎて、近寄り難さすら感じる。


だがそんな臆病な俺とは真逆に、梨音は積極的だった。


「ねえ、夏樹。私のこの髪形、似合ってる?」

「もちろん、似合ってると思うぞ」

「あら、そう。あんたがそう言うなら間違いないわね」


梨音は満足げに微笑むと、こちらの手をぎゅっと握ってきた。


「な……!」


いきなりの事に動揺する俺。

だが、梨音は構わず話を続ける。


「じゃあ、エスコートしてね?私の王子様」


なんちゃって、と梨音は楽しげに笑った。

そして、俺の方を上目遣いで見てくる。


あざといその表情が、可愛いと思ってしまう。

全く、俺の幼馴染は何やっても美人だから、映えるな。


俺は梨音にドキドキさせられたのが悔しくて、

余裕な態度の梨音に、ちょっと意地悪なことを聞いてみたくなった。


「なあ、梨音。

 手が震えてるけど、大丈夫か?

 本当はドキドキしてたりしないか?」

「そ、そんな事無いわよ。訓練だし。

 あんたの方こそ、私みたいな美少女の手を握る

 緊張で震えてるんじゃないの?」


ふふ、露骨に赤くなって反論してきた。

ツンデレなんだよな、梨音は。


俺はほくそ笑んで、さらに追い打ちをかけた。


「まあ、そうだな。

 梨音が綺麗だから、正直俺も緊張してる」

「あえっ?」


想定外の返事だったのか、変な声を出す梨音。


「ど、どういう事?」

「いや、そのままだって。

 梨音が美人で優しくてかわいいって話だろ?

 自分で言ってたじゃないか」

「ま、まあそうだけど……」


自分で墓穴を掘ったな、梨音。

こうなったらお前を褒め続けてやる。


「ほら、いつも俺の世話を甲斐甲斐しく焼いてくれるし。

 今日だって、俺と手を繋ぐ為に髪形だって変えてくれたんだろ?

 健気で可愛くていい奴だもんな、梨音は」

「…………」


あれ?

梨音の様子が、おかしい。押し黙ったまま、動かない。

いつもなら、喜んだり、照れてくれたりするはずなんだが。


俺が心配して声を掛けようとしたその時だった。


「……からかわないでよ」


冷たい声が、廊下に響き渡った。

一瞬、誰に何を言われたのかわからなかった。


だが、目の前を見ると、梨音が醒めた目をしてこちらを見つめていた。

なぜか、悔しそうに唇を噛んでいる。


なにか、とんでもない事を俺がしでかしたんだなという事は、

雰囲気で察することができた。

冷や汗が、俺の背中を伝っていく。


梨音は悲しそうに、そんな俺から目を背けた。


「前から思ってたけど……夏樹は、私の事をよく褒める。

 別にそれが嫌な訳じゃないけど……なんか、違和感があったの。

 私、別にそこまで可愛い訳でもないのに……」


梨音はそこまで言うと、こちらに悲痛な表情を向けてきた。


「本当は、からかってるんでしょ?私の事。

 私、異性経験もなくて照れやすいから……

 思ってもない理由で、褒めてたんでしょ?」

「…………んな訳ねえだろ!!」


俺はその言葉を聞いて、頭に血が上っていくのを感じた。

そんなバカみたいな理由で、幼馴染をないがしろにする訳、ねえだろうが。


「もしそうだったら、家に招いたりとか、手を繋いだりする訳ねえだろ!

 何より、あんなスピーチわざわざしたのは、お前のために……!」


俺は、廊下で梨音に怒鳴っていた。

萎縮(いしゅく)する梨音を見て、はっと我に返る。


「ご、ごめん梨音」


梨音はそれに、首を横に振った。


「……私の方が、悪いわ。ごめんなさい。

 そうよね……夏樹の言うとおりよね。

 折角褒めてくれたのにごめんなさい」


しゅんとする梨音を見て、俺は罪悪感と共に、ある事実を思い出した。


普段は、自信がある様に振舞っているだけで、

本当は、梨音は自己肯定感が低いんだってことを。


「……ここで話すのもなんだからよ、図書館行こうぜ」

「そ、そうね」


俺たちは気まずさを抱えつつも、三階へと上がる階段を昇って行った。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ