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キザの国から来たキザ男vsジャパニーズ・モブ(後編)

今度は11時投稿になって本当にすいません。

次回こそ9時に投稿します。

いよいよ本番だ。

俺はしっかり自分の服装を整え、表情を引き締めた。


ほぼ練習していない状態での、一発勝負。


一馬にはもちろん勝たなきゃいけないし、梨音も

あっと驚かせるようなスピーチをしたい。


頭の中で喋る事の構想は出来てるんだ。

後は、いかに緊張せずに喋るかにかかってる。


アドリブは……意識しなくても大丈夫だ。

梨音の話なら、台本なしでもスラスラ出てくるはずだから。


……よし!


俺は闘志を燃やし、隣の一馬に話しかける。


「俺、先行でいいか?」


一馬はそれに、「うーん」と唸って少し考え込む。


「僕も先行を、と思っていたところなんだよ。

 ふむ……時間も押しているし、じゃんけんで決めるのはどうだい?」

「いいぜ」


一馬の提案にうなずき、俺はじゃんけんをしようと手を出す。


「最初はグー、じゃんけんポン!」


俺が出したのはグー。

一馬が出したのはパー。


つまり、一馬が勝って先行って事だ。畜生。


「じゃあ、先にスピーチさせてもらうとするよ」

「いいだろう、期待してるぜ」


そう短く言葉を交わし、俺は悔しさを抱えながらも、

スピーチ用に置かれている机から遠ざかる。


一馬は机に原稿を置くと、さっきと同じ

よく通る声で、「皆さん!」と第一声を発した。


「僕は確信した!」


一気に大きく両腕を広げると、一馬はまるで、夜空を眺める王子のような

うっとりした眼差しで、梨音の方を見つめた。


「霧崎梨音!

 君が、世界で一番美しい女性(ひと)なのだと!」


生徒たちの視線が、一気に梨音に向く。

一馬はそれに構わず、梨音をほめたたえ続ける。


「霧崎。いや、梨音!

 君はとても言葉には表せられないほど美しい!

 その星空のように黒く艶やかな髪。

 神に作られたように精巧で、完全無欠のその様々な表情(かお)たち!

 無駄な所の無い肢体!

 どこをとっても完璧で、ため息が出るくらいだ!」


うっわ、梨音の奴……

めちゃくちゃ嫌そうな顔してやがる。


俺は流石に一馬が可哀そうになって、中央の机の方を向く。


一馬は……全く動じていなかった。

むしろ、嬉しそうですらある。


「梨音!

 君が僕の事を好きになれないのは、わかる!

 なぜなら、天才のこの僕でも、君には釣り合わないからだ!

 それほどまでに、君は美しすぎるから!」


(自分で天才とか言っちまうのか。

 なんというか、元からこういう奴なんだろうな。よくも悪くも)


俺は深くため息をついて、一馬の方に再び耳を傾ける。


「だが聴衆(ちょうしゅう)の皆さん、よく聞いてください!

 梨音の美しさの真骨頂は、本当は外見にあるわけでは無い!

 梨音が真に美しいのは、その内面なのだ!」


一馬はそこまでスラスラと一息で言い切ると、

それまでの笑みから一転、真剣な表情で梨音の方を向いた。


「あれは、僕と梨音がテニス部で一緒に練習をしている時だった。

 試合で足首をねんざした僕を心配してくれた梨音は、

 わざわざ一人で保健室まで行って、応急セットを持ってきてくれたんだ!」


俺はそれを聞いて納得した。


なるほど、元々優しい梨音が、同じ部活の一馬を助けたのが

今回の騒動の元になった出来事なんだな。


納得する俺をよそに、一馬の話はまだ続く。


「ほかにも、

 人手が足りない時に、女子なのに練習試合の相手をしてくれたり、

 誰もいない早い時間に、一人で部室の掃除をしてくれたりしたんだ!

 梨音はまさに、この学園に降り立った女神だ!」


一馬は再びそう言い切ると、全身を震わせてうつむいた。

そして、今度は小さい声で自信なさげに、再び話し出す。


「だが、だが僕には、梨音と釣り合うほどの能力が無い!」


その言葉を聞いた生徒たちは、ざわめいた。

そのざわめきが大きくなったところを見計らって、一馬は叫ぶ。


「しかし!しかしだ!

 この僕には『梨音と結ばれるような男になる』という夢と、

 それを実現しようとする『意思』、

 そしてそれを現実にするための『能力』がある!」


そして、一馬はしっかりと梨音を指さした。


「僕は、今は確かに君に選んでもらえるだけの価値がない。

 だが!

 僕は、必ず君の隣を歩けるような、立派な男になる覚悟がある!」


一馬は、目をこれでもかと開いて必死に叫ぶ。


「誰よりも、君を愛している!

 そう、僕の隣にぼーっと立っている、君の彼氏なんかよりもっと!

 誰よりも、君に似合う男になってみせるさ!

 だから……僕を選んでくれ、愛しい君」


一馬の声は、途中から震えていた。


……俺も、これが演技なのだったら大したものだし、

これが本音ならもっと大したものだと思った。


梨音も想像以上だったのか、驚いて固まっている。


なかなかやるじゃないか、キザ男。

俺はお辞儀する一馬に、拍手していた。


「じゃあ、今度は君の番だ。彼氏くん」


一馬が中央から俺の方に振り向き、手招きする。

俺はそこに、ゆっくり足を進めていく。


「お前のスピーチ、そこそこいいんじゃないか?」


交代の時、俺は一馬を表面だけの笑顔で睨みながら、そう声を掛けた。

一馬も、俺を引きつった笑顔で睨みつける。


「超えられるかい?君のような奴に、僕が」

「言うまでもないだろ」


……確かにスピーチとしては良かった。

でも、お前は大きな勘違いをしている。お前のような奴には、梨音は渡さない。


俺はそう心の中で言いながら、一馬と交代する。

そして、授業中に作った原稿を机に置いて、深く息を吸った。


皆の視線が俺に、集まる。


「人は完璧じゃない。そんな事当たり前のことだ」


俺は、周りの視線を感じながら、

静かにそう口にする。


「でも、さっき一馬は梨音の事を完璧だって言った。

 俺は、それを聞いていてなんだか腹が立っていたんだ」


自分の気持ちを素直に言葉にする。

かつて、梨音がやっていたように。


「周りの人から完璧を求められるのは、つらい事だ。

 俺はそれを分かってるから、梨音がたまに失敗したりしても、

 全然失望しない。むしろ、かわいいとも思ってる」


しんと静まる館内に、俺の声が響く。


「誰にだって欠点はあるんだ。

 梨音はたしかに優しいし、運動も勉強もできるけど、

 それでも、失敗したりくじけそうになる時はこれまで結構あった」


聴衆が、俺の話をちゃんと聞いているのを確認しつつ、

しっかり思いを言葉にしていく。


「でも、それは恥ずかしい事じゃない。

 だって、そこも梨音の魅力だと思うから。

 そこも含めて、愛してるから」


その言葉に、梨音はいつものように照れて顔を伏せた。

こういう所も、俺の幼馴染の魅力だ。


「一馬。

 お前は、梨音の寝ぐせがひどいのを知っているか?

 小学校の時、梨音がぜんぜん勉強が出来なかったのを知ってるか?

 梨音がパジャマで学校に行きそうになったり、

 転んで膝をすりむいて、泣きそうになってたりしたのを知ってたか?」


俺は、一馬の方をじっと見つめて語り掛けた。

一馬は、驚いたようにこちらを見つめていた。


「お前は、梨音にふさわしくなれるように努力すると言った。

 でもな。

 お前が見てるのは、梨音のほんの一部でしかない。

 梨音は、完璧なんかじゃないんだよ。

 ……本当はな、ここにも梨音を連れてきたくなかったんだ。

 梨音は人見知りなんだよ。

 だから、お前の強引な態度に傷ついてたんだよ。

 お前、相手の気持ち考えたことあんのかよ」


その言葉に何も言わずに、一馬はうなだれる。

俺はそれを見て、黙って梨音の方に向き直った。


「……梨音。

 俺は、お前にもっと休んでほしい。

 家事をこなしたり、勉強したりするのは大切だけど、

 お前は頑張りすぎだ。

 俺は、お前のそういう所は好きだけど、

 もっと適当に暮らしててもいいと思ってる。

 梨音。俺は間抜けな奴だ。

 でも、いや、だからこそ」


俺は静かに、心を込めて言い放つ。


「俺はお前の欠点も、出来ないことも全部肯定する。

 全部、お前の全部を愛してるんだ。

 だから、梨音。俺を選んでくれ。

 一緒に、またくだらない話で盛り上がろうぜ。

 紅茶とかジュースとか片手に、すげえ適当でいいからよ」


言いたいことを、全部言い終わった俺は、

震えながら梨音を見た。


梨音は、泣いていた。

静かに、俺の方を向いて泣いてた。

そして、俺に無理に笑顔を作ってみせた。


……それで、俺のスピーチは終わりになった。


「……質問の時間だな」

「……おう」

 

一馬が、俺の隣に沈痛な面持ちで歩いてくる。

俺は、それを黙って見つめていた。


「なにか、俺と一馬のスピーチに質問のある人?」


俺がそう聞くと、後ろの方の男子生徒が手を上げた。


「あの、適当に暮らすというのは、

 具体的にはどんな感じでしょうか?」


俺はそれに、即答した。


「温かい室内で、お菓子を食べながらいちゃいちゃします」

「あ、ありがとうございます」


質問を答えた俺は、「他に質問は?」と周りを見渡した。

誰も手を上げない中、一人だけ手を上げた奴がいた。


「はい、私から質問」


梨音だった。


「私を、夏樹と一馬君は幸せにしてくれますか?」


一馬は、黙って首を横に振った。

俺は、それを見て心が少し痛みつつも、梨音に答える。


「もちろん、そこそこ幸せにします」


梨音は、さっきの涙を袖で拭いながら、「じゃあ」ともう一度

俺に質問した。


「夏樹は、私の彼氏になってくれますか?」


俺は、泣きそうになるのをこらえ、体が震えるのも

こらえて、しぼり出すようにして言った。


「はい」




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