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万年非モテの童貞アラサーが最強チートスキル「常識改変」持ちで異世界転生したけど、これ無理ゲーじゃね?  作者: 高坂悠貴
3章 彼女いない歴自己ベストを更新しつづける男のハーレム妄想は無罪って法律で決まってる
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30 一般市民の王様・2



「立ち話もなんだし、ひとまず歩きながらにしましょ? さ、私についてきて」

「ついてきてって……一体どこに行くんだ?」

「もちろんこの国の中心――SEMのある大広間よ」


 キッカさんは手を打ち鳴らすと、あっさり(きびす)をかえし歩きはじめた。

 ステファニーも俺と片手繋ぎしたまま歩きだす。もちろん後方はリリィとアリアさんが続いた。


 そこってめちゃめちゃ国の中核だろ? 俺を連れていって本当にいいのか?

 王様がここにいるんだし今更すぎる? いやでも本人は「ただのしがない一般市民」って言ってるし……ガチで高貴な身分なら、俺と一緒に歩かせないはずで。ああいうフランクな態度だって取らないはずで。

 いやでもだったら王様なんて名乗る必要――あ、つまり王様の影武者ってことか? ……こんなちびっこが?


 いくつも疑問が降っては湧きあがるが、意外にも俺が問いかけるより、ステファニーが唇をひらくほうが先だった。


「……あの、報告によれば……ソウタ様のいた世界にSEMはなかったって……聞いてます……。では〝王〟はいましたか?」

「へ? あ、ああ、そうだな。総理とか……いやこれは王じゃないか。天皇とか、皇帝とか、まあ色々」

「そうですか。……あ、あの、じゃあ〝王〟はどのように選ばれていましたか?」


 案外すらすらとしゃべる。どうやら面と向かいあわなければ、そこまで気恥ずかしくならないタイプの性格らしい。


「王は……血筋じゃねえかな」

「やっぱり……。旧世界……ええと、SEMが降ってくる以前の歴史を私たちはそう呼んでいるのですが……その旧世界でもそうだったと聞いています」


 まあそうなるだろう。「人間は考える葦である」の格言で有名なパスカルは『パンセ』のなかでこう書いている。


『人間というものの度しがたい性質のために、この世で最も理屈にあわないことが、むしろ理屈にあうことになっている。一体王妃の長男が国を統治する者になることにどんな理屈があるだろうか。船の船長を選ぶのに、乗客のなかの生まれの一番良い者を、などという選び方を我々はしない。それは馬鹿げているし、また正しくもないであろう。しかしながら、人間があまりにも身勝手であり、それもそう変わりそうもないので、結局この選び方が理屈にあい、正しくもなるのである。


 なぜなら、まず誰を最も徳があり、能力があるとして選ぶかである。我々は自分こそが最も徳があり、能力もあるとして、すぐに殴り合いになることは必定である。ならば、なにかまぎれもないものを探してきて、それに徳や能力があるとしよう。これは王の長男をおいてない。王の長男ならば明白であり、まぎれも生じない。人はこの理屈で満足するべきであろう。なぜなら、内戦は我々の最も憎むべきものだからである』


 要約するとこうだ。

 ――王の資格に血統をもちだすのは〝最善〟ではないが〝最適〟となりうる。


「ですがSEMは現れ、人類の存続はSEMありきとなりました。子種をもつ男性が魔獣として生誕し、わたしたちを襲う以上……、もはや〝生殖活動〟や〝血縁関係〟は存在しません」

「……ってことは」

「はい、そうです。……わたしは……先代の王が亡くなられたあと、……ぐ、偶然、条件に合致しただけの……ただの、一般市民、なので……っ、……ぉ、王は王でも……お飾りの王なんです……」

「お飾りっていうと……」


 繋がった先で、驚くほど小さく柔らかい手がきゅうと握りしめられる。

 これ以上は酷だと判断したのか、俺の疑問をキッカさんが引き継いだ。


「ジーンガルドは最西端の半島に位置するせいで、極端に他国との交流がすくない。よって王の独裁政治は最も()()すべきものなのよ。だからよそではSSRランクだったり複数属性をあつかえる魔法少女が王になるんだけど、うちはその真逆。――魔法少女じゃないし、魔法少女にもならないことが〝王〟の条件なの」


 なるほど。言い分はわかった。ついでに新しい疑問も湧いた。

 ……湧いたから尋ねておきたいが。


「ステファニー」


 震える小さな手を優しく握りかえした。

 こいつ的にはあんまり嬉しくないかもしれないが、すこしだけ身をかがめて。わかりやすく視線をむけて。王様ではなくステファニーって名前で呼びかけて。


「俺も〈無能の王〉って言われたんだ。おそろいだな!」


 本人がそろそろと顔をあげたタイミングで、思いっきりにやっと笑って。

 繋いだ手と手で、大袈裟なくらい握手した。

 ステファニーの頬が朱にそまる。


「……っ! ……は、はいっ! ぁあの、ふ、ふふ、ふ()(つつか)(もの)ですが……! よ……よろしく、……よろしくおねひゃいしますっ……!」

「あーっ! ソータずるい! 私も王様と仲良くしたーい!」


 やっと笑ったなと思った矢先、リリィが腰に激突してきた。

 おいこらやめろ! なぜか若返ったからいいけど、本来の俺はちょこちょこ腰痛が気になりはじめる年頃なんだからな! 職場の上司に「相田くんもそろそろぎっくり腰に気を付けないとね」って言われだすあれなんだからな!?


「あはは、さすが魔王様。もうステファニーまでたらしこんじゃった?」

「いや幼稚園児相手にたらしこむって。そもそもリリィは俺じゃなくて王様目当てですし」


 リリィとステファニーに手を繋がせ、アリアさんに目配せして、キッカさんの隣まで逃げこむ。

 いやリリィにだいぶ懐かれた自覚はあるが、あれは出会いがかなり最悪の部類だったからだ。命の危機に(いち)(がん)となって立ち向かえば、ある種の信頼関係も築けよう。

 いや信頼してもらうために助けたわけじゃないけどな。女の子は女の子というだけで価値がある。困っている女の子を助けないのは男の恥。


「ふーん。そういうことにしておいてあげる」

「そういうことにしておくじゃなくて、まさにそういうことなんですけど!? ……それはさておき、一個だけ質問していいか?」

「私にわかることならね。ちなみにアリアのスリーサイズは知ってるわよ? 三年前のデータだけど」

「えっなんだそれ全力で聞きいやそういうのは大変とても素晴らしく魅力的な申し出だと思うのですがいかんせんこういうものは本人の同意がないと後々重大な()(こん)を」

「あ、やっぱり男の人って女性の身体が気になるものなんだ? 旧世界の情報なんだけど本当だったんだ」


 男の純情をもてあそばれた。それもまたいとをかし。

 いかん話をもどそう。


「……ええと、質問いいですか」

「どうぞ?」

「……さっきのあれ。()()()()()()()()()()ってどういうことだ?」


 アリアさんのスリーサイズではないが、質問の内容が内容なので、できるかぎり声をひそめる。


 俺の見立てだと魔法少女になるための要件、すなわち〝月華の祝福〟は生理のはず。そして生理は年頃になったら勝手にくるもの……の……はずだ。だろ? そうだよな? 間違ってないよな?


 ステファニーの年齢的に初潮はまだだろうけど、いずれは来るはずで。だってジョゼすら魔法を使えているわけで。もし生理がきたら王様やめて一般市民にジョブチェンジしますって理屈なら、「魔法少女にもならないこと」なんて言うだろうか? まるで初潮を回避する方法があるような――……


「うん、もっともな質問ね。それは――ここで説明するわ!」

 

 キッカさんが紋章のえがかれた大扉をひらく。

 扉の先――(ひろ)い空間の中心に〝SEM(それ)〟はあった。


 鋼鉄のかたまりが空や街道を走るほどの文明を〝旧世界〟にしてしまう、すべての元凶が。



30話になりました! 新しく感想と評価をいただけました、本当にありがとうございます!!! 次の話でまた新しいキャラがでてくるはずなので、よろしくお願いしますー!

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