表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/46

22 無血の王・2


「申し訳ないけれど、私は二代目エリザヴァトリではないし、彼も〈無能の王〉じゃないわ」

「証拠はァ?」

「それを提示すべきは貴女のほうよ、ジョゼット」

「――ま、待てよ! ジョゼをかばうわけじゃねえけど、一体どうしろっていうんだ?」


 よせばいいのに、思わずとめにはいってしまった。

 別にアリアさんを疑ってるわけじゃない。ジョゼの味方をしたいわけでもない。八方美人ムーブで全方位フラグマンになりたいわけでもない。

 ただこれは……恐らく〝悪魔の証明〟ってやつに違いないからだ。


 悪魔の証明。

 うろおぼえだからざっくりした説明しかできないが、「(そうでは)ない」ことを証明するのは非常に難しい――事実上不可能な場合によく使われる単語だ。

 たとえば今回だと「アリアさんがエリザヴァトリなのかどうか」が論争なので、ジョゼ側が「アリアさんはエリザヴァトリである」と証明しなければならない。


 じゃあ具体的にどうやって証明するのか?


 エリザヴァトリを探しだして確認をとる?

 アリアさんが初代を殺して二代目を継いだなら、探せど探せど見つかるわけがない。

 もし穏便に代替わりした場合でも、それはおなじ。この世界がどれだけ広いのかわからないが、隠居した初代を探すなんて、サハラ砂漠から一粒のダイヤを探すのと大して変わりないだろう。


 ならエリザヴァトリ側の連中で、なにか証言してくれそうなやつを探すか?

饜蝕の大驪竜インヘイル・イン・ヘル〉ご一行はアリアさんが全滅させた。そもそもすべての魔獣が人語を解するわけじゃない。また人語が話せるからといってエリザヴァトリと親交があるかは別問題だし、もっといえば親交があるからといって本当のことを俺たちに話すかどうかもわからない。


 まさに〝悪魔の証明〟ならぬ〝魔王の証明〟――なのだが。


「どうにもしやがりません。ただ審問監査官としての務めを果たすだけでいやがります。――この〈死霊のささやき(ゴースト・ウィスパー)〉を使ってなァ」

「し、死霊のささやき……?」

「姉様が言ってやがりませんでしたっけェ? 死んだ者の残留思念を関係者に憑依させる、あたいの魔法でェす。死者の語りは死者本人の声に変じるため、(かた)りは不可能となりくさっていまァす」


 そういやなんか聞き覚えがあると思ったら、地上にでるまえベルが言っていたんだった。

 まずは〈死霊のささやき(ゴースト・ウィスパー)〉で確かめなきゃ、と。


 なるほど、死者から証言をひきだせるなら、ジョゼは警察官にも裁判官にもなれる。ベルの〈素晴らしき死の慈悲アメイジング・グレイヴ〉があれば刑務官までこなせてしまう。


「お前の魔法はわかったけど、死者と関係者? 一体誰と誰を……」

「はァん? なんのためにあの魔獣を生かしておいたと思っていやがるんでェす?」


 ジョゼは肩で風をきりさばくように闊歩した。

 むかう先は――第三の檻。

 そうだ。マジで完全に忘れていた。なぜかさっぱりわからないが、俺とリリィを助けようとした魔獣が一匹だけいて。そいつも檻のなかに閉じ込められ、この場の一画を陣取っていたんだった。


「リリィいわく、コイツは〈饜蝕の大驪竜〉のSEMから生まれた。繋がりとしちゃァ頼りないが、生まれたてのお嬢さん(マドモワゼル)なら他に(えん)()もねェでしょうから、まァ、妥協ラインだ。〈饜蝕の大驪竜〉は人語を解さねェんで、なにしゃべっているかは不明でも――アリアへの態度を見りゃァ一発でわかる」


 アリアさんが、以前、エリザヴァトリの魔の手から逃れたならば、〈饜蝕の大驪竜〉にとってはただの餌であり敵だ。

 しかしアリアさんが二代目エリザヴァトリに就任し、主人として君臨していたならば――〈饜蝕の大驪竜〉は彼女に(ひざまず)く。


「キッカ。言うまでもねェですが〈死霊のささやき(ゴースト・ウィスパー)〉発動中は姉様を呼びだせねェんで、〈素晴らしき死の慈悲アメイジング・グレイヴ〉も使えません。よってわずかでも不審な動きがあれば、即刻アリアを殺害しやがれください」

「はっ。――総員、構え!」


 我が意を得たりとばかりにキッカさんが叫んだ。

 何十人もの部下がそれぞれ武器をかまえ、アリアさんとリリィを取り囲む。


「リリィ! 貴女(あなた)もこちらに来るのよ!」

「ばってん、ばってんお姉しゃんな……!」

「これはアリアの無実を証明する絶好の機会でもあるの! 本当にアリアを信じているなら……! お願い、私たちにも信じさせて!」

「――大丈夫よ、リリィ」


 立ち竦むリリィの背中を、アリアさんが優しく押した。

 一歩、二歩。……たったそれだけの、蹈鞴(たたら)を踏んだ程度の距離に不安がる妹を、姉が優しくたしなめる。


「私はエリザヴァトリではないし、彼の正体が知りたいと思っている。だから貴女たちの不利になる行動はなにひとつしない」

「お、お姉しゃ、」

「さあ、ジョゼット。早く始めて。私が本当にエリザヴァトリなら――夜が訪れて困るのは貴女たちよ」

「…………よろしい。んじゃァ行くぜ――〈死霊のささやき(ゴースト・ウィスパー)〉!」


 ジョゼが腕を()ぐと同時、半径十メートルの地面に魔方陣が現れる。

 夕刻となり、闇色に染まりつつある大地が、激しい光につつまれ――……



『リリィを殺せ』


『ジーンガルドを滅ぼせ』


『あらゆるすべてを(みなごろし)にしろ』



 緊迫の場に、断頭台の刃がふりおちた。

 言葉という、一度音にしてしまえば、二度と取り消せない(もの)が。


 ()()()()()()()()()()()()()



またブクマと評価増えてましたー! ううう嬉しい……ありがとうございます!!! 今回のラストは早く書きたい書きたいと思いながらなかなか辿り着けなかったところなので、無事に書けてよかったー!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ