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21 無血の王


「待ってください! アリアが生まれる以前から、この国はエリザヴァトリの襲撃をうけています! それは貴女が一番よく知っておられるはず!」

「……だ、だろっ!? なんか全然よくわかんねえけど、つまりアリアさんは完全無罪!」

「とはいきやがりません。なぜなら()()()()()()()()()()だからでェす」


 キッカさんがトスして俺のスパイクした球を、ジョゼが場外ホームランした。

 待て! だからなんでそうなるんだよ!


「よけいにわけわかんねーよ!? エリザなんたらは人身御供を要求する悪い魔王なんだろ!? アリアさんはそんな人じゃないって今日会ったばっかの俺でもわかる。だったらいくら三年離れてたって、お前らにもわからないはずねーだろうが!」

「そうでェす。あたいのほうが、テメエなんざよりよほどアリアを知りくさっている。そしてあたいよりも――リリィとキッカのほうがなァ」


 そこで気付く。気付いてしまった。あれほど騒いでいたリリィが真っ青な顔で震えていることに。

 いや、リリィだけじゃない。キッカさんも、その他の女の子たちも、みんなそれぞれ沈痛な面持ちで立ち尽くしている。態度が変わらないのはジョゼとアリアさんだけだ。


「リリィ、キッカ。この自称異世界人でもわかるように説明しやがりください」

「……はい、ジョゼ審問監査官。この国では、出生した順に居住エリアが振り分けられます。私は南西部の自然が豊かな場所だけど、……アリアとリリィは北東部出身だと聞いているわ。そこは……、」

「……農業にも牧畜にも不向きな不毛地で、……いつ鳥型ん魔獣が襲うてきたっちゃおかしゅうなか危険地帯ばい」


 キッカさんの説明を、リリィが引き継ぐ。

 涙に、後悔をにじませながら。


「やけん毎年ん納税も大変で。ばってん魔法少女ば(はい)(しゅつ)したエリアは、そん人ん在任期間中、特例として減税さっしゃる。ましてや長年こん国ば苦しめてきたエリザヴァトリば倒しぇば……」

「二属性も攻撃魔法を発現させた天才児ということもあいまって、北東部はエリア全体でアリアを英雄にかつぎあげた。彼女が魔獣を討伐するたび、次こそは大驪竜だ、エリザヴァトリだと褒めそやした。私も優秀な部下をもてた(ほま)れと、……彼女の才能が恐ろしくて、第十七部隊部隊長に任命した。時期尚早とわかっていたのに……!」

「お姉しゃんが部隊長に就任したときには、もう引き返しぇんかった。うちゃやめて、行かんでって言うたっちゃけど、もう故郷だけじゃなく国全体で打倒〈無血の王〉ん声があがっとって……」


「――アリアの部隊は〈饜蝕の大驪竜インヘイル・イン・ヘル〉に勝負を挑んだ。これにより()()三十二名が死亡。行方不明者は三名。アリア本人をふくむ六十五名が喰われ、敗北」


 まァ、つまり。

 あたいたち全員でアリアを殺したようなものでェす。


 無気力に、無表情に、無感動にジョゼが締めくくる。


 妹のため、故郷のため、国家のためと(せん)(どう)され、勝てもしない勝負に(のぞ)まされた。彼女には次代エリザヴァトリになれるだけの強さを備えるだけでなく、故郷を復讐する理由があるのだと。誰よりもアリアさんに親しいはずのリリィとキッカさんが言う。


 アリアさんがそんな人じゃないと信じたい気持ちは確かにあるのに。俺以上にそう願うやつらが()とするなら、一体なにを言えるってんだ?


 ゆえに次の言葉は、俺でも、ジョゼでも、リリィやキッカさんでもなかった。

 終始一貫して沈黙をつらぬくアリアさん張本人だ。


「……ジョゼット。彼がどの魔王なのか、という話はどうなったのかしら」

「あァん?」

「問題なのは彼がどの魔王なのか。――そう言ったのは貴女(あなた)よ。その話はどこにいったの?」

「……こだわるところ、そこですかァ?」

「ええ。私の反応を見るためだとわかっていたけれど、貴女のことだもの。なんの考えもなしに言ったわけでもないでしょう?」


 リリィに抱きつかれながら、その髪をなでるわけでもなく。

 ジョゼに濡れ衣を着せられながら怒るでもなく。

 かつての上司――キッカさんを(いっ)()だにせず、俺を見つめたまま、アリアさんが問う。


「…………アイダ・ソウタは〈無能の王〉だ」


 ジョゼは長い沈黙のあと、椅子がわりの俺から立ちあがった。

 思いがけない返事に、アリアさんではなくキッカさんが声をあげる。


「む、無能の王……? そのような魔王の話は聞いたことがありません」

「あァ、そうだ。さっきテメエが言ったように、魔王は消えても増えても即座に情報がまわる。そして現時点で〈無能の王〉なんて(やから)は報告されていやがりません。なぜならエリザヴァトリ以外、誰の目にも触れなかったからでェす」

「……は、はい?」

「大驪竜は体内にSEMを持つ。つまり少女も魔獣も勝手に生まれ落ちる。初代エリザヴァトリが始めたのか、二代目となったアリアが仕込んだのかはわからねェが、とにかく〝エリザヴァトリ〟は生まれたばかりの魔獣にひたすら魔法少女を喰わせた。竜のSEMから生まれ、祝福を得るまで〝養殖〟した少女を。あるいは各国から(さら)った魔法少女たちを、何百人、何千人とな」


饜蝕の大驪竜インヘイル・イン・ヘル〉は影の竜だった。

 身体の大きさを自由自在に変えられるように、体内もまた自由に広さを変えられるなら。

 ――いや、変えられるのだ。だからこそジーンガルドを始め、各国から魔法少女を何百人も〝誘拐〟できる。生贄として徴収できる。 


「生まれ落ちた瞬間から充分すぎるほど〝(えさ)〟をあたえられた魔獣は、()()を知らず、ただの一度たりとも戦ったことがないまま、無害かつ無能な魔王となる」

「……だとすれば、どうして私に〈無能の王〉を創りあげる必要が?」

「だァから復讐。そのための(おとり)ですよォ。――コイツをリリィに会わせる。魔獣時代に(ほどこ)した()()みで、コイツはリリィを助けないといけない気持ちになる。そこを〈饜蝕の大驪竜〉に襲わせる。竜がリリィたちを殺すまえに潰し、なにくわぬ顔で一緒にこの国にもどる。あたいらはテメエの生存を疑問視しつつ、どう見ても〝魔王〟なコイツに意識を集中せざるをえない。その隙をついてこの国を潰す」



「――〈()()()()〉とはよく言ったなァ。まさしく()()()()だ」



ブクマや評価などいただいておりました!!! ありがとうございます!!! 個人的ノルマだったリス魔獣までまた届かなかったのですが、だしたい情報をちゃんとだせているので……気にしないことにします……!

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