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02 白と水色のストライプ


「……く、そ!」


 ぐっと指先にちからをこめ、身体を起こしにかかる。

 だが腕は生まれたての子鹿のように震えるばかりで、いっこうに言うことを聞かない。俺の視界は一ミリだって地上から離れちゃいなかった。


 動け! 動けよ、俺の身体!

 これしきの怪我で(くじ)けてんじゃねえ! なんのために男に生まれついたんだ! パンツを覗く絶好の機会だろうが!


 そんな切実さが伝わったのだろう。なにやら考えこむ気配が(おぼろ)()にしたかと思えば、視界に革の靴がすべりこむ。

 なにがと思う暇もなく、すぐに(まばゆ)くもまろい膝頭が眼界をみたした。


「みずい――あッ、あ痛ッ……!?」

魔法(スキル)は使わせない」


 前髪をつかまれ、ひっぱられる。

 怒りに燃え(さか)った双眸が、まっすぐに俺の瞳を()()いた。


 女の子だ。

 一番最初に――ディナとやらに追いかけられる前に出会った張本人。

 茶色い髪をやたら大きなリボンで結いあげ、ポニーテールにして。胸のサイズはBといったところだが、あちこちに(ちりば)められたフリルや小さな貴金属のせいで、そこまで悪目立ちしない。

 ふわふわのミニスカートから覗く太ももは、先ほど出会ったばかりの膝頭に負けず劣らず健康的な肌をしていた。すなわち澄みわたる小麦色。太陽に愛された証である。


 まさに、きちんと、正真正銘、疑いようなく、神に誓って、どこからどう見ても、(まが)うことなき女の子が。まっすぐに、しっかりと、()まず(たゆ)まず俺を(かん)()する。よせよ万年非モテには刺激が強い。


「あなたがどんな〈全属性使い(アルス・マグナ)〉の大魔王だとしても、詠唱が終わるよりも先にディナが殺すわ。それが嫌なら頷くこと。できる?」


 まったく意味不明だが、とりあえず頷く。

 ただでさえ虐められている毛根がさらに痛んだが、まあ必要経費だ。


「そう、ありがとう。……まずこの矢だけど、三日三晩、月光にさらした〈猛毒草(ベラドンナ)〉が塗ってある。あなたの寿命はあとたったの三分しかない」


 えっ、それ会話してるだけで俺死ぬんじゃね?


「助かる方法はひとつ。三分以内に解毒剤……このネックレスにつけた小瓶の中身を摂取すること。もちろんタダであげるわけにはいかないわ。等価交換よ」


 細い金鎖で繋いださきに、小瓶があった。

 琥珀色の液体がゆらめき、俺のガキっぽい顔が映りこむ。

 その苦々しい表情を了承と捉えたのか、矢継ぎ早に言葉がくりだされた。まあ(ゆう)()三分だもんな。


「まずは、もう二度とここに来ないって約束すること。魔獣も仕向けたりもしないで。よその国に行っても誰かを攫ったりもしないで。まだ生きている子たちがいるなら、ちゃんとそれぞれの故郷に帰してあげて。

 それから……それから、


 ……、…………お姉ちゃんを、かえして……」


 俺を力強く(にら)みつけるはずの瞳に、薄く、弱々しい影が落ちる。

 染まる頬。伏せられた(まつ)()。かすかに戦慄(わなな)く桜色のくちびる。


 ……俺は、まあ、その、あんまり空気が読めるタイプじゃねえし。馬鹿だし。いま地面に倒れて身動きできねえわけで。見上げるしかなくて。

 だから嫌でも見えちまうんだよな。――涙が。


「…………あー、なんかその、悪いけどさ。それ無理だわ」

「……っ、なら命乞いでも謝罪でもしてなさい! 絶対に助けてなんかあげないけどっ!」


 前髪をつかむ手を離され、あえなく地面に激突する。

 石と頬骨が対面衝突した。

 たぶん痛い。めちゃくちゃ痛い。そのはずだ。

 だが毒で瀕死状態に陥っているせいなのか、あるはずの痛みも今は遠い。

 なにより――なんかこれさ、あれだろ。いま俺はこんなに痛いでーすとか考えている場合じゃなくね?


「いや言わせてもらうけどよ」

「……なに、命乞い? 謝罪? それとも他のみんなを解放する気になった?」

「いや〝誰か〟じゃなくて〝お前〟の話。白と水色のストライプパンツ……百点満てぎゅ」

「――な、なん言いよっとね!?」


 殴られた。地面にめりこんだ。

 いや問題はそこじゃない今のはなんだ博多弁か? このビジュアルで博多弁とか天才の所業か? ノーベル平和賞まっしぐらだろ。


「そ、そげなわけんわからん物言いばするんやめんしゃい! 魔法と見なすばい!」


 いかん。心の声が漏れていた。

 18禁に抵触しない範囲で本当によかった。


「だが断る! いいか言わせろ、言わせてくれ。お前に足りないのはパンツの魅せ方だ。男ってのはモロに見せられると逆に()える(なん)()な生き物なんだよ。奇跡と偶然と期待感がおりなす絶妙な(さじ)()(げん)でコラボレーションしてほしいっていうかさあ! わかるだろこの気持ち!?」

「なっ、……わ、わかるわけなかばい!」

「そうだよわかんねーよ! だって俺たち、さっき会ったばっかなんだからな! 年齢も趣味も出身も好みのタイプも知らねー! そもそも名前すら知らないのに、お前のお姉さんなんて知るわけないだろ!」


 さて突然だが、現状を思いだしてほしい。

 俺は毒矢をうけ、絶賛、大地と熱い抱擁中だ。いくら激しい剣幕でまくしたてようが、ひらかびたカエル同然なのである。

 相手もそれに気付き、こほん、とわざとらしく(いち)(がい)する。

 きゅうと唇をきつく引き結び、あらためて俺に相対した。


「……そげ……そ、そうよね。じゃあ教えてあげる。

 私の名前はリリィ。あなたが三年前に、ここ〈ジーンガルド〉から連れ去ったアリアの妹で、この子の――……」


 リリィが足元にすりよるディナを引き寄せようとした、その瞬間。

 それまで快晴だった青空に、ふ、と曇天がたれこめる。

 またたくまに太陽は(むしば)まれ、混沌を増し。


「ギャ!? ギャルル、ガガッ!」

「ディ、ディナ!? どうし――……」


 少女の手から離れたディナは、明後日の方向――深い藪の奥にむかって吼え猛る。

 ディナを窘めるか、俺を見張るべきか、リリィが逡巡した刹那。


「――ギッ……ァッ……」


魔獣(それ)〟は現れた。

 藪を薙ぎ、闇を切り裂き、音を置き去りに。

 中型犬ほどはあるはずのディナを難なく(こう)(こう)におさめ、噛み砕き。


 俺たちのまえに悠々と。

 恐竜に匹敵するほど巨大な漆黒の竜が姿をみせた。



2話!!! 書いたぞ!!! スーパーミラクルダイナマイト偉い!!!

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