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19 魔王の証明・4


「う、ううっ……ごめんねリリィ……! 私、この人のこと勘違いしてたわ……!」

「異世界出身とか、絶対にアンタを騙すための嘘だって……」

「あれ? あれはあたしたちへの言い訳じゃない?」

「どっちでもいいわ。本当に悪い魔王なら、騙されたリリィが彼をかばうことはあっても、彼がリリィをかばうはずないもの!」

「それにこう言ってはなんですけれど、彼、これっぽっちも強そうじゃないし……」

「結局〈饜蝕の大驪竜インヘイル・イン・ヘル〉を倒したのはアリア様のようですし!」


 実際リリィの涙はよく効いた。キッカさんを皮切りに、彼女たちの大半がああだこうだと同情をくちにする。

 いやさすがにチョロすぎないか? あとさりげなく俺をディスってるやつ! 聞こえてるからな!


「……どいつもこいつも姉様なみの皮相浅薄(パッパラパー)。やっぱ(しつけ)を間違えまくりましたねェ」


 耳栓がわりの指をひきぬいたジョゼは、相変わらず困りも怒りもしていない無表情のままだった。どうやら乙女の涙もこいつにだけは通じないらしい。

 さてその冷血漢であらせられるところの審問監査官さまは、常のごとく「まあ、よろしい(ウィ)」と呟くと、ポケットからとりだした棒つき飴を噛み砕き。俺たちの正面、アリアさんにむかって歩きはじめる。


 ジョゼとアリアさんなんて、ある意味ここにいる連中のなかで最も厄介なふたりだ。

 すわ(りゅう)()(あい)()つぞとばかりの緊迫感に、キッカさんの涙がひっこんだ。ああだこうだと口々に言いあっていた他の女の子も、怖じ気づいたように後ろへさがる。

 ところで「すわ」ってアラサーの俺をして死語なのでは。いやいいんだけどな?

 

「三年ぶりだなァ、お嬢さん(マドモワゼル)。すこし見ねえうちにデカくなりやがった」

貴女(あなた)はなにも変わらないわね、ジョゼット。ベルナ()()()も……」

「まァそれは置いておくとしてだ。テメエからも釈明があるなら聞きやがりますよォ?」

「……答える必要を感じないわ」


 きっぱりとした声が響く。

 あまりに容赦のない一言だった。おもわず耳から取り落とすほどに。


 だがやはりというかなんというべきか。ジョゼは()めず(おく)せず、半分砕いた棒つき飴をマイクがわりに差しだし、問う。


「と言いますとォ?」

「とぼけないで。貴女もわかっているんでしょう? ――彼は()()()()よ」


 ……。

 …………。

 ぼおん、と晩鐘が遠くで間抜けな音をたてた。


「えっ。いや俺は異世界人で、まあ身体が若返っているのはだいぶ謎なんだが、ちゃんと地球の日本のそのまた東京でサラリーマンしていた記憶はちゃんとあるんですが……」


「魔王が魔法少女を助けるはずがない。けれど事実として彼は魔法を使ってリリィを助け、かつ彼女に異世界から来たと語った。あきらかに記憶の混乱がみられるわ」

よろしい(ウィ)。続けやがりくださァい」

「彼はなんらかの原因によって、魔王だったころの記憶をすべて失った。彼の主張する〝ここではない世界で生きていた記憶〟は知能の低かった魔獣時代の記憶が(さく)(そう)して、あたかも〝異世界〟のように錯覚しているだけ」

よろしい(ウィ)。充分に有り得やがる話ですねェ。あたいは職業上、他国に行けやしない身ですがァ。我が国のこれといった特色に恵まれねェのが逆に奇異な特徴となるほど、各国はどこも極めて独自性が強いと聞きおよんでいやがりまァす」


 ジョゼはちらとキッカを見遣った。

 金髪ツインテ女剣士は、挙手踏足を一音に敬礼すると、ベルナテッドとは打って変わって(かしこ)まる。


「はっ! ジョゼ審問監査官の(おっしゃ)るとおりです! 東部の隣国〈(ふう)(らい)(さと)フィーヴィア〉は岩盤がとても(ぜい)(じゃく)で、何十メートルもの菌糸類や腐葉土に覆われている水なき底なし沼。まともに歩行できません」

「南部の〈リカルトフォルス〉は〈夢幻回廊(ダンジョン)〉で魔獣を生け捕りにしたのち調教します。調教された魔獣は()(じゅう)(ばん)(じゅう)として農商にもちいるほか、SR級魔獣討伐の一翼を(にな)っております」


「えっ。いやこの世界が多様性(ダイバーシティ)はなはだしいのは理解したけど、ハーレム王のあだ名も好きすぎて百回は見返したドラマも憧れだった真理子さんもあのときの両親の告白も色々ひきこもってた時代もそこからなんとか社会復帰して就活死ぬほどがんばって大企業のブラック部署に配属されてからのあれやこれやも、ぜんぶ俺の妄想にされたら超困るんですけど!?」


「……まァそういうわけで、あたいも完全同意でいやがります。アイダ・ソウタが自分をどう認識しているかどうかなんざ心底どうでもいい。リリィに至っては一考の余地すらねェ」

「だから人の話を……っておいこらジョゼ! マジかよ! 今までの問答なんだったんだよ!」

「だァから問題なのは――コイツが()()()()()ってことだ」


 棒つき飴が音をたてて砕かれた。

 もう何度目かの沈黙が落ちる。


 ……なんだ? こいつはなんなんだ?

 いつから。どこから。一体なにを考えているんだ?



遅くなりましたが19話です!!! このあともうちょっとだけ微修正いれて20話を……今日中に……投稿……します!!!!!

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