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18 魔王の証明・3


「ナニを語るも自由ですが、テメエはすでにアイダ・ソウタ(かい)(こう)から第一突撃隊に捕縛されるまでの一部始終を。丁寧に。ことこまかに。じっくりと証言いたしておりまァす。それに矛盾のない範囲でどォぞ?」

「……ソータは男の人だから……私たちと身体の作りが違うわ。たまたま毒が効かない身体だったのかもしれない」

よろしい(ウィ)。有り得る可能性でいやがりますねェ」


 ジョゼはネックレスをポケットにしまいこみ、鷹揚に頷く。

 それからまるで――というよりまさに全員に聞かせるべく、両手をひろげて問いただした。


「ところで(せん)(がく)()(ぶん)ゆえ質問させていただきますがァ。R級魔獣すら一撃三分で殺せる〈猛毒草(ベラドンナ)〉を無効化できるほど強靱な肉体の持ち主ってヤツは、一体ほかに誰がいやがるんですかね。――()()()()()()()()


 ……水を打ったように場が静まりかえる。

 音と音がぷつりと途切れた隙間を、夕刻の(ばん)(しょう)が埋めていく。

 完全にジョゼの独壇場だった。


「……っ! そ、そうよ、ソータは魔法を使ってたわ! それで私を助けてくれた! だからきっとそれで毒を打ち消したのよ!」

「魔法で無毒化した。よろしい(ウィ)。これなら魔王なみの強靱な肉体でなかろうが問題ありやがりませんねェ」

「そうでしょっ!?」

「あァ、もちろん。――この世界じゃ()()()()使()()()()()()()()()()なこと以外は。まったくもって問題ありやがりません」

「あっ……!?」


 そうだ。他ならぬリリィが言ったのだ。

 この世界において人間の女は〝人間〟、人間の男は〝魔獣〟として生誕する。女は〝(げっ)()の祝福〟を授かることで魔法少女となり、魔獣はその魔力をめあてに魔法少女を襲う。

 つまり姿かたちはどうであれ――男女ともに生まれた時点では魔力をもたない。


 もし奇跡的にSEMから〝人間のかたちをした男〟が生まれたとしよう。「性別が男」という以外は、彼女たちとなんら変わらぬ状態で生まれた人間。そいつが魔力をもっているはずがない。また成長したところで男に生理はこないのだから、月華の祝福を得ることもない。


 ――魔法少女を喰らわないかぎり、男は魔法を使えない。


「ひ、ひどい……っ! どう転んでもソータを魔王にしたてあげる気じゃない!」

「それじゃァ撤回しやがりますかァ? 出会ってから捕縛されるまでのあいだ、アイダ・ソウタはただの一度たりとも魔法を使わなかったと。今までの発言すべてが嘘だったと認めますかァ? ……だとしたら、アイダ・ソウタがテメエを助けてくれたって話もぜェんぶ信憑性が消え失せる。それどころか」


 ジョゼはおもむろに眼帯に触れる。


「魔王をかばうテメエは重犯罪人。即時、死刑執行対象――……」

「待てよ!」


 リリィは檻のなかだ。逃げようがないんだぞ! 〈素晴らしき死の慈悲アメイジング・グレイヴ〉なんざ発動させてたまるか!

 おもわず足をつかんだ俺を、ジョゼは虚無の瞳で(かん)()した。


「ああァん?」

「――――俺は魔王だ!」


 奈落の瞳に()()されるより前に、盛大に叫ぶ。

 これ何度目だよってくらい激しい視線があつまった。視界の片隅でアリアさんが激しく動揺するのが見える。


 ああああすみませんアリアさん! これにはわけがありまして!

 あとジョゼ! お前は動揺なさげだけど、それ信じていいんだな!? 表情にでてないだけとかやめろよ! 地下牢での会話、ちゃんと思いだしてくれよ!?


「もちろん魔王であるからして魔法も使える! 俺はその魔法で――……」

「――違うばい! うちゃ魔法で操られてなんかおらん!」


 俺はその魔法で、誠心誠意、御国につくさせていただきます! 具体的には〝異世界出身〟という特殊なバックボーンを活かし、今までにない新たな知見や見識を提供いたします! 今はまだこの世界の常識にとぼしいですが、だからこそ既存の枠にとらわれない柔軟な発想をもって事にあたり、ゆくゆくは国内外でも活躍できる人材へと成長して御国に貢献したいと考えています!!!


 そう言おうとした俺の言葉を、リリィの博多弁がぬりつぶす。

 あれっ、リリィさーん!?


「そりゃソータが魔法ば使えるんな本当ばい! 魔法ば使うて、うちば助けてくれた。これは……すらごとやなか!」

「ちょ、リリィ、待って俺いまから就活で(つちか)ったプレゼン能力をですね、」

「ばってん魔法が使えたけん、うちば助けてくれたんやなか! きっと魔法が使えんだっちゃうちば助けようとしてくれた! やけんソータは……もし魔王やとしたっちゃ、――絶対に悪か魔王なんかやなか!!!」


 鉄格子をぎゅうとにぎりしめ、瞳からぼろぼろと涙を流しながら、リリィが叫ぶ。


「みんな、なしてわからんと? もしソータがほんなこつ悪か魔王なら、ここでうちば(かば)ったりしぇん!!!」


 ……それは、……たぶん、ひとつの真理だった。

 ジョゼの絶妙にいやらしい誘導尋問も、アリアさんの壮絶な殺意も、金髪ツインテールの女剣士をはじめとする魔法少女たちの不安や恐れすらも吹き飛ばす、会心の一撃。


 あ。これ俺が間違ってた。

 野郎の命乞いより乙女の涙のほうが百倍効く。



1日ぶりの更新です。いつも読んでくださっている方々、まことにありがとうございます! リスの魔獣がだいぶ空気ですが次回あたりに触れたい……!

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