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15 審問監査官


「……よろしい(ウィ)


 ボサ髪ギザ歯眼帯ガールは誰にともなく左手をあげる。

 指の先で、食いかけのチュッパチャップスが蝋燭のひかりに照らされ、不気味に輝いた。


「本来ならば口の利き方には気を付けやがりたまえと言うとこだが、その同胞意識と威勢のよさを買ってやる。だが忘れるな。大事な人の健やかなる日々を願っているのはテメエだけじゃない。当然――そいつらにナニかしやがったらただじゃすまさねェのもなァ」


 刹那、なにかが光った。

 鞭だ。

 蝋燭のわずかな灯りに反射して煌めいたそれが、ピシャリと石床をたたく。(ちょう)(ちゃく)地点は砕け、新しい陥没をうみだした。


 ぼんやり挙がっていたはずの左手は、いつの間にか鞭をたずさえ振りおろされていた。元々そこにあったはずのチュッパチャップスといえば――やはりいつの間にかギザ歯の餌食になっている。


 魔法か? だとしたら時間停止系? 最強の一角じゃねえかそれ。

 頬を流れるのは天井の水漏れか、それとも冷や汗か。……後者だと思いたくねえな。


「さァて、それぞれが重んじる主義主張宗教国家同胞その他のために(ゆう)()を結ぼう。自己紹介だ。せっかく情報交換しても、たがいを信用できねェんじゃ意味がないからなァ。おわかりいただけやがりましたかァ、お嬢さん(マドモワゼル)?」

「……ああ。ところでなんでお嬢さん呼ばわ」

よろしい(ウィ)。あたいはジョゼットベルナデッド、審問監査官だ。(きょう)()をもってジョゼと呼ぶことを許す。テメエは?」


 聞けよ人の話は最後まで。

 ……と言いたいが、こういう手合いは基本的に自分のペースで物事を進めないと気が済まない性質だ。仕事柄よく見かけるタイプだから間違いない。

 お嬢さん呼びといい、審問監査官なるワードといい、突っ込みどころは多いがとりあえず全無視することにした。


「……双太。相田双太」

「そうたあいだそーた? なんだァその妙ちくりんな名前は」

「いやお前も大概じゃねーか。つーか俺の場合は双太が名前で、相田がみょう――」


 じ、と言い切るよりも(はや)く、ふたたび鞭がしなった。

 今度は俺のすぐ真横を切り裂き、背後に(そび)える壁を半壊させる。


「審問終了。――アイダ・ソウタを敵性勢力〈魔王〉と認定しくさりやがりまァす」


 ぞわ、と全身に鳥肌がたつ。

 うわなんだこいつすげえ怖い。鞭じゃなくてこいつが怖い。


 ツッコミどころ満載の外見と言動――問題はそこでもなくて。


 表情が。一切。変わらないのだ。マジでなんにも一ミクロンも変わらねえ。

 大事な人うんぬんと言ったときはおろか、鞭で恫喝している今この瞬間でさえも。特殊なお面だかシリコンラバーマスクをつけてるのかってくらい、声音も、瞳の奥にも、喜びや愉しさの片鱗がいっさい感じられなかった。


 俺たちを助けにきたリスの魔獣とおなじ、虚無の瞳、奈落の魂。しかしこいつは人間の姿をしているぶん、余計に不気味さが際立っている。そう、もしもこの世に魔王なんぞが存在するというのなら、どう考えても筆頭候補は俺じゃなくてこいつだろ。


「……わけわかんねえな。魔王はお前のほうなんじゃねえの?」

「ああん?」

「自覚ないのかよ。つるぺたすぎて本当に女か怪しい、すぐ暴力に走る、人間の姿態(なり)してるわりにクソ人外な態度。おまけに壊滅的コミュニケーション能力ときた。俺よりよっぽど魔王然としてるじゃねえか」

「………………寝ションベンみたく冷や汗垂れ流しながら言うセリフじゃねェなァ」


 うるせえほっとけ。お前の目すげえ怖いんだよ悪いか。


「大体、苗字があるからなんだってんだよ。この世界の魔王はみんな苗字持ちだってか?」

「当たらずとも遠からずってとこだよ。この世界じゃァ苗字はSEM擁する王族のみが名乗れるのさ。――つまりアイダ(なにがし)を名乗る(テメエ)は自動的に魔王ってわけだ。ご理解いただけましたかァ、お嬢さん(マドモワゼル)?」


 ――じゃあ死ね。


 椅子から降りたったジョゼが、漆黒の鞭をふりあげる。

 ダメだ。ヤバい。速い。マジでヤバい。展開が早すぎる。

 なにかを言わなければ。でも一体なにを。生半可な命乞いでとまってくれるわけがない。


 振りかぶった腕が、鞭が、俺の顔に深い影を落とす。待て。待てよ、なあ!


「ま――……」


 すべてを待たずして、ジョゼの鞭がふりおろされた。



本日2更新目です! ブクマ1件増えてました! 本当にありがとうございます!!!!

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