表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/46

12 断崖絶壁、絶体絶命・2



 敵は光を(いと)い、闇に(おもね)し無形の魔獣。

 ゆえに〝端境(そこ)〟で立ちどまることはわかっていた。

 藪にまぎれ、息を殺し、弓をつがう。


「リリィ! 嘘だろ、リリィーーーっ……!!!」


 潜まり、静まり、全神経を指先に集中させて機を待つ。

 ほんの半歩横を魔獣が駆けぬけていこうと微動だにせず、一瞥もくれず。


「畜生っ……! 来るな、来るなよ!」


 断崖をふきぬける空風に耳を貸さず、ソータの悲鳴には耳を塞ぎ。

饜蝕の大驪竜インヘイル・イン・ヘル〉だけをひたと見据え。


「――ゴガアァッ!」


 咆哮の瞬間、顎下の宝珠にむかって()()()()()



 ――――パキン…………



 かすかな音とともに、露出したSEMに亀裂が走り。

 イチイの矢が砕け散る。


 刹那。

 凄まじい爆発が響きわたった。


 それはSEMを通して魔竜の体内がずたずたに引き裂かれた音であり、即死をまぬがれたがゆえの痛みにあえぎ吐き散らかす〈滅びの大咆哮(バースト・スクリーム)〉でもあった。


 失敗だ。

 SEMの強度を見誤ったわけでも、〈饜蝕の大驪竜〉の強さを過小評価したわけでもない。

 地面に叩きつけられた際に矢が歪み、脆くなっていたことさえ関係ない。


 弓術において「矢を放つ行為」を「離れ」と呼ぶ。射手が指を「離す」のではなく、時が来ればおのずと指から矢が「離れる」――それこそが真髄だからだ。


 ゆえに矢から()()()()()時点で、リリィは勝負に負けた。速く敵をしとめ、彼の援護にまわらなければという自分の焦慮(こころ)に敗北したのだ。


「……そーた、ごめんね」


 うち、失敗してしもた。

 そう言い終わる暇もなく、リリィの身体は暴れ狂った竜尾に弾き飛ばされる。

 ――断崖の、さらに向こう側へ。





「やったか……!?」


 痛烈な悲鳴と舞いあがる土埃に、思わずガッツポーズした。

 ひときわ大きな爆風が吹きすさぶ。

 えぐられ、くずれおちる大地。まっぷたつに折れた大樹。砕ける大岩。そして。


 小さな茶色いかたまり。


「――……ッ!」


 くちより先に、足が動いた。

 考えるよりも迅く、心臓が急かした。

 断崖を蹴り、宙に飛びこみ、それを――血と襤褸(ぼろ)にまみれたリリィを抱きしめる。


「あ、」


 視線の先に、太陽がみえた。

 断崖の縁から俺たちを見下ろし、ああもったいないと残念がる魔獣の群れがみえた。

 やたらとすべてがスローモーション。魔獣どもが眉を寄せては溜息をつく様子すらつぶさに窺える。なのに、なんだこれ。俺は一体なにを〝視て〟るんだ?


 いつもの出社。デスクに置かれた田中の退職届(インフルエンザ)。出張キット。縺ウ縺」縺上j縺吶k縺ァ。バグる画面。真理子さん。遘√?縺ッ繧九°蠖シ譁ケ縺九i繧?。床に脱ぎ捨てられた下着。真っ白なベッド。檎セス繧剃ケア縺励◆縺ョ。やわらかい肌。


 ああ、そうか。そうだよな。人ってやつは驚くほどあっけなく死んじまう。

 こういうと厨二病だが、俺は生まれる前から知っていた。憶えちゃいなかっただけで、ちゃんと知ってたんだ。


 壊れるパソコン。割れる花瓶。医↓萓ソ繧翫r謖√▲縺。ホラーゲームのゾンビ。じゃない。それぐらい凄い顔つきで絶叫する男。ョ雖梧が諢溘′髱吶∪繧九?繧。血。血飛沫。蜚セ譽?☆縺ケ縺阪%縺ィ繧定ェャ。暗転。


 だから()()く。もがくんだ。

 たとえ死のうが助けよう、殺されようが生きてやろうって。


 なあ、〝   〟

 俺、まだお前の名前も知らない。




 Don’t be dismayed, woman, by my fierce form.

(女よ、我が(どう)(あく)のなりに驚くなかれ)

 I come from far away, in headlong flight;

(我は遙か彼方から お前めがけてやってきた)

 Whirlwinds may have ruffled my feathers.

(ゆえに(つむじ)(かぜ)が羽翼をみだしたのだ)


 不意になにかがきらめいた。

 太陽? 大岩の破片? 違う、これは光。――俺だけの光だ。


 I come to bring you news, but wait until my heaving chest,

(我はたよりを持ちきたれり だが待てよかし、息切れや、)

 The loathing of the void and dark, subside.

(奈落のうつろの嫌悪が鎮まるのを)」


 どうせ背後は、()(きゅう)の闇。

 墜落死だけが確実で。


 He will have the gift of words, the fascinator’s eyes,

(策謀の舌と誘惑者の瞳をそなえ)

 Will preach abomination and be believed by all.

()()すべき悪を説くが みなが信じるだろう)

 Jubilant and wild, singing and bleeding,

(人々は(きょう)(ほん)し 歌い 血を撒き散らかしながら)

 They’ll follow him in bands, kissing his footprints.

(狂信に(ふけ)り 足跡にさえ口付けるだろう)


 なら俺は、この現実に異議をとなえ。

 ふざけるな、だからどうしたと言い切ってやる。


 And die unsated by slaughter, leaving behind sown hate.

(虐殺に飽くことなく死に 憎悪の種を遺すだろう)


 


「――――〈常識改変(インスタント・キング)〉!」



12話更新しました! 昨日誰か評価してくれた方がいます! 本当にありがとうございますーーーー! 超嬉しい!!!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ