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10 俺の正体・4


 水たまりならぬ影たまり。そこから顔をだしたのは、まぎれもなくあの影竜だった。

 初めて現れたときと比べれば驚くほど小さく、せいぜいコンビニのビニール傘ほどの太さだ。おまけに身体の大部分はいまだ影のなかときた。


 ――これなら殺れる!


 俺はすぐ足元の、折れた木の枝に指先をのばし。

 つかむや否や――竜めがけて振りかぶる。


「ギイィッ」

「くそっ!」


 間一髪、影のなかに逃げられた。

 だがすぐ右側で、ふたたび竜の尾だけがゆらめく。


「ちょこまか逃げてんじゃ――ねえッ!」


 今度は振りかぶらず横に()ぐ。

 俺の言葉が理解できるのか、やつは影のなかに逃げなかった。……逃げないかわりに、俺の一撃はやつに触れることなく通り過ぎ。


「シャアァッ!」

「――がっ……!?」


 アッパーカット。

 (むち)のようにしなる尾が、俺の(あご)を真下から蹴りあげた。


「よくもソータを……っ! お願いディナ、あいつを……――ディナっ!?」


 悲痛な声が響きわたった。

 それもそのはず、つい数分前までは容赦なく俺の頭を叩いていたディナが砂に……比喩でもなんでもなく砂や土となって消えていく。


「やだっ、そんな、ディナ……〈オモチャの怪獣(アミューズ・グール)〉! ……〈オモチャの怪獣(アミューズ・グール)〉! オ、オモチャ、の……っ!」


 リリィが半泣きになって両手にちからをこめる。だがディナの身体はもどらない。新しく現れもしない。完全に砂と土になって崩れ落ちた。


「そ、そんな……どうしようソータ、私、もう魔力がなくなっちゃった……!」


 リリィが膝から(くずお)れる。

 馬鹿か俺は。ゲームやアニメでさんざん見てきただろ。魔法ってのは万能じゃない。人に宿る魔力だって限界がある。いつまでもディナたちを頼っていられるわけがなかったんだ。


「……ッ、逃げるぞリリィ!」


 リリィをかつぐや否や、走りだす。

 今度はお姫様だっこなんて悠長なことはしてられない。(こめ)(だわら)をかつぐ要領で肩にのせる。

 誤解のないように言っておくが、あのときはあれが最善解で、今回はこれが最適解にすぎないってだけだ。別にリリィがミニスカだからって合法的に尻を触れるなんて思っちゃいない。断じてない!


 ふたたび逃走を選んだ俺たちを、けれど黒竜はすぐに追わなかった。

 それどころか目のない顔でにんまりと笑うと、ふたたび身体を膨張させていく。

 リリィをかつぎ、全力疾走する俺がちらと見遣っただけでもわかる、異質なボディとなっていく。


 そう、やつは周辺の木々や藪すら呑みこみながら。

 丸く、大きく、まるで風船のように膨れあがり。


 ごぶり、と。

 黒い粘着質な液体を大量に吐きだした。


「なっ……!?」

「いやあっ……!?」


 だが驚くのはまだ早かった。

 黒い油膜(コールタール)は意思を持つかのように蠢き、いくつものかたまりにわかれ、さらに上下左右に裾野をのばし。

 それぞれ奇々怪々な〝魔獣〟の姿をかたちづくる。

 

 ゲロの山が、魔獣の群れと化した。


「――……リリィっ!」

「は、はいっ!」

「お前、あいつのこと詳しいよな!?」

「え、えっ? 詳しいっていうか……」

「ヘイルンだかヘロインだか呼んでただろ!? なんかちょっとくらいは知ってるよな!?」


 こちとら気付けばディナに追われ、竜からも追いかけられる羽目になって!

 リリィにも、竜からも殺されかけまくってきたが!

 流石にこれはマジでヤバい。今までもヤバかったが、今回はその何十も上をいくヤバさだ。間違いない。あれだけの物量で攻められたら、倒すも逃げるも百パー無理ゲーだ。


「あいつについて知ってること全部教えてくれ! 名前でも趣味でも年齢でも身長でもなんでもいい! どこ住み? 女子高生? てかLINEやってる? なんかあるだろ一個くらい!?」


 名前で呼べるなら完全初見のはずがない。他にも情報があって然るべき。

 それを突破口にする!


「えっ……ええっ? らいん? とかよくわかんないけど、ええと、あの竜は……もともと無形の魔獣で……地に降りては影、天にあっては闇となりて災いをもたらすって言われてて……」


 だから俺たちの攻撃が素通りしたし、風船みたいに身体のおおきさを自由自在に変えることができるのか。


「他にはっ!?」

「……えっと、それから……名前、――そう、別名〈生ける魔王城(リビング・ダンジョン)〉。身体のなかにSEMがあって、」

「待て待て待て待て! なぜそこでSEM!?」

「なんでって……私も知らないわよ! 食べちゃったのは事実なんだから仕方ないじゃない!」


 は? え? ……な、なるほど?

 SEMはただの機械。〈饜蝕の大驪竜インヘイル・イン・ヘル〉が自由に身体のおおきさを変えられるなら、理論上は呑みこんだとしても不思議はない。


「でもそれって普通に国家――いや人類滅亡案件じゃね!?」

「SEMが一基だけって私がいつ言ったの?」

「あっハイそういうことー!??」


 ――それはないわ。だってあなたが〈饜蝕の大驪竜〉から生まれるところを見たもの。


 ようやくあのときの言葉の意味がわかった。


 この世界にSEMは複数存在する。あの竜はそのうちの一基を腹におさめており、また魔獣の本能として魔法少女を喰らう。魔法少女の……その、……死体はSEMにとりこまれ、次の命となる。さっきのゲロ発魔獣軍団だ。俺もあんなふうにSEMのクソだか竜のゲロとして吐きだされ、そこをリリィに目撃された。


「リリィ、突然だがいい話と悪い話がある!」

「……い、いい話は?」

「あいつの理解を深めた!」

「…………わ、悪い話は?」

「あいつの倒し方がまるでわからん!」

「馬鹿ああぁっ!」


 顔面を膝蹴りされた。痛ってぇ。

 いいか、それするとただでさえミニスカートなのに余計パンツ丸出しになるからな! 俺、忠告したからな!?


「あきらめないでよ! お姉ちゃんの(かたき)なんだからっ!」

「そうは言っても弱点のヒントなんざ――……」

「ある! あるってば! それを言うまえにソータが遮ったんじゃない!」


 あ、そうだったっけ!?

 もうなにがなんだかさっぱりわからん!


「彼の体内にはSEMがあって、その一部が顎のしたに露出してるの。地上にでているかぎり、そこだけは闇になれない。――そこを狙えば本体にダメージが通るわ!」


 神様仏様リリィ様!

 そういうことはもっと早く言ってくれよ!


「だからそれを言うまえにソータが遮ったって言ったでしょっ!?」


 えっ、あ、そうだったっけ!?



更新ちょっと遅くなりましたが、今回はこっそり過去最大の長さです!!! 楽しんでもらえたら嬉しいです~!!!

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