第13話 新天地へ2(通常版)
商業都市リューヴィスへの目線を殺ぐため、同都市の東門より大都会へと向かった。そう、態と徒歩でその道を進んでやった。王城からの監視の目があるとすれば、俺の行動を読んでいるのは間違いない。
案の定、街から出れば、ならず者や傭兵が徘徊している。こちらを見れば、即座に襲撃せよという命令なのだろう。雰囲気的に、それが金銭目当て以外にもある事は明白だ。連中の目を見れば痛感できる。
ちなみに、今回の同伴者は妹達10人、エメリナ達3人、そしてイザリアである。性転換状態の俺を含めれば、15人もの女性がいる事、それが連中の好奇の目線を浴びる要因にもなっているようだ。これだから男は・・・。
「・・・カス共が、生きて帰れると思うなよ・・・。」
「この場合、殺害も厭わないとしても良いですかね・・・。」
「諸先輩方がスキル、善悪判断センサーでバリバリの悪心を示しているので・・・。」
手に持つ携帯イルカルラを一閃させる。それは彼女の魔力も相まって、群がる連中を一瞬で切り裂いていった。それには致死性が含まれるが、魔力により魂狩りを実現させたのだ。
ギラリと光る刃が相手の身体を擦り抜け、黒いモヤの血飛沫となって放たれていく。そう、それこそが連中に巣食う悪心である。これは、地球でも各悪党にも同じ力を感じた。実際には俺達は繰り出す事はできなかったが、イザリアの能力なら十分繰り出す事は可能だろう。
心中を切り裂かれた連中は、白目を向いて倒れていく。正に魂狩りである。
「ほむ・・・これならいけそうですね。」
「魔力を込めた斬撃ですか、私達にもできそうです。」
巨大なハルバードを両手に持ち、獲物に魔力を付与していく。それを近場にいる連中に一閃させた。一発勝負的な感じだったと思えるが、何と相手の身体を擦り抜け、黒いモヤの血飛沫となって現れた。切り裂かれた相手は、同じく白目を向いて倒れていく。
「ま・・まさか成功するとは・・・。」
「へぇ・・・魔力の新たな使い道な感じを会得だな。」
「私の場合は宇宙種族故の、更に修行から得られたものだと思います。それに、獲物は貴方のお仲間が作られた逸品、この世界のものではありませんし。」
「私達の獲物は、オルドラ様が隕石武器なので、それが上手く合った感じでしょうね。」
「隕石武器ねぇ・・・。」
啖呵を切ったものの、俺の攻撃は確実に相手を殺す一撃になる。どう攻撃しようかと悩んでいたのだが、全員の攻撃に任せた方が良さそうだ。
イザリアとフューリスを見習って、他の女性陣も獲物に魔力を込めだしていく。それを、迫り来る連中に一閃させていった。案の定、その一撃は相手を切り裂くも、黒いモヤの血飛沫となっている。この原理は、地球組の俺には到底理解できない・・・。
迫り来るならず者と傭兵共への“粛清”は妹達に一任した。俺はその彼女達に迫る一撃を、トリプルマデュース改とダブル方天戟で防いでいく。地球でも行ってきた防衛機構である。トラガンの女性陣には大変高評の戦術だ。
一見すると、掃討作戦を行う様に見えなくもない。しかし、リューヴィス周辺の掃除も必要になってくる。安全に彼女達が離脱できる時間稼ぎを作るためだ。
「それですが、向こうの行動が転送魔法を使っての、直接乗り込みをして来た場合は、どの様に対処しますか?」
「連中の気質からして、その様な高等戦術を使うとは思えない。ジワリジワリと恐怖感を放つ様を好むのが悪党共だ。転送魔法で即座に終わらせる手法は、似合いそうにないしな。」
「そんな理由で、ですか・・・。」
不測の事態を想定して動く事をモットーとしている俺に、相反していると呆れ顔の彼女達。確かに有り得る話ではあるが、それなら既に使って来ている筈だ。ここが重要である。
「裏を掻いて使って来た場合の対策とかは?」
「この手の瞬間的に現れる相手に対しては、トラガンの女性陣が一番得意としている戦術になるからね。現れた瞬間、即座に叩かれてチェックメイトとなる。」
「直感と洞察力、と。皆様方があそこまで強化されている事には驚きましたが・・・。」
十分理解できると頷くイザリア。異世界惑星では魔王の立場からして、魔力や魔法に関しては相当の手練れである。故に理解できたのだろう。
実はこれ、トラガンの女性陣が地球での修業中に培った技術の1つだ。確か、ヘシュナやナセリスが加勢し、超絶的な不測の事態への対応を取るためのものだと言っていた。詳しい事は伺っていないが、2人して相当な実力を経たと豪語していたぐらいである。
ちなみに、5大宇宙種族の全員が、時間や空間の揺らぎを即座に察知する力に長けている。2回に及ぶコミケへの大規模軍団転送、喫茶店近場の駐車場に転送されてきた軍団の察知、全て彼女達が即座に反応していた。
これはデュネセア一族のイザリアも同様で、時間と空間の揺らぎには即座に反応するとも言っていた。地球人の俺には理解し難い概念だが、彼女達がそうなのだと言うのなら、それは間違いのない力である。現にこうして性転換状態に至るぐらいだ、あってもおかしくはない。
「はぁ・・・何か、私達には理解できない事としか・・・。」
「返すが、俺も魔力や魔法の概念だけは理解できないんだがね。俺達地球組は、今も魔力や魔法を繰り出す事が出来ない。それに近い概念は出せるが。」
「電撃力と回復治癒力ですね。超怪力もそれに該当するかと。」
お互いに異なった理解し難い概念を前に、深い溜め息を付いてしまう。だが、時と場合によっては、それらは確実に存在している。認めたくなくても、認めざろう得ないのが実状だ。それに、もし全否定してしまうのなら、5大宇宙種族自体を否定する事になる。
「・・・貴方のその思いには、本当に感嘆します。貴方と同じ地球人への一念よりも、私達宇宙種族や、異世界の住人方に向けられる一念の方が遥かに強い。」
「お前さん達を除くが、異世界の住人達も人間ではある。地球人やら別惑星人とか、それらを除いて考えるべきなんだろうがね。ただ、行き過ぎた考えは、時として偏見や差別に繋がるしな。だから俺は、お前さん達を1つの生命体として見る事にしてるのよ。」
これは俺が行き着いた、1つの究極的な概念であろう。生きているものを全て生命体と取るのなら、そこに要らぬ偏見や差別など生じて来ない。一部例外はあるだろうが、殆ど全て同じ生命体と取れてくる。
「その概念に至るのなら、世上から争いなど消え失せますよね。」
「まあねぇ。だが、因果なもので、争いは消える事はない。それもまた1つの究極点よ。」
「生命体からは、抗争の概念は除外できませんからね。」
生きるために争う、その概念は絶対に消し去る事は出来ない。しかし、それが生きるためになるのか、エゴによるものなのか、その差ぐらいなのだ。
目の前に迫り来るならず者や傭兵は、エゴによる争いを貫いている。中には生きるために動いているのもいるだろうが、その目を見れば一目瞭然だ。伯爵共と全く同じ目でしかない。ならば、やる事は1つしかない・・・。
「降り掛かる火の粉は全て払い除ける、と。」
「はぁ・・・お前さんにも心中読みされるか・・・。」
「フフッ、伊達に魔王と呼ばれていませんからね。人身掌握術には長けていますし。」
目に付く相手を携帯イルカルラで一掃する。漆黒のローブと相まって、正に死神の姿だ。それを見た相手は、恐れ慄いて逃げ回りだしている。
「可能な限り、恐怖心を植え付けていってくれ。その方が効率がいい。」
「イザリア様みたいにはできませんけどね。」
そう言うも、身の丈以上のハルバードを振るう姿は、狂戦士そのものとも見えてくる。彼女の場合は別の恐怖心を煽るようなものだ。これはこれで効果があるが・・・。
他の女性陣も、魔力が込められた獲物を振るう様は、見る者によっては化け物に見えているようだ。青褪めて逃げ惑う相手を見れば、否が応でも痛感させられる。同時に、彼女達が闘士として成長している証拠だ。兄としては嬉しい限りである。
その後も、相手を引き付けるようにしつつ、そのまま大都会へと歩みを進めて行く。既に道端は夥しいならず者や傭兵が転がっている。だが、誰1人として死亡はしていない。むしろ死亡した方が良いような恐怖心を植え付けて回っているが・・・。
約1日ほど、大暴れしつつ大都会へ到着する。同都市に近付いた時、余りにもの大暴れ様に自警団や騎士団が出てくるぐらいであった。当然、相手が私利私欲にまみれた連中だったのを知って、即座に御用となっている。
ちなみに、この大暴れ移動中に、商業都市リューヴィスの面々はシュリーベル近郊に転送移動している。そこから海岸へと繰り出し、レプリカ大和での運輸で移動したようだ。何故この移動方法を取ったのかは、彼女達に一時のクルーズ旅行をプレゼントするのだとか。
これはミツキの発案で、幼子達には大好評だったらしい。海を見る事自体が希であり、更にほぼ揺れないレプリカ大和の艦体だ。満足過ぎるほどのクルーズ旅行である。まあ、軍艦をクルーズ船に用いた事は何とも言えないが・・・。
第13話・3へ続く。




