第12話 海上対決4(通常版)
酒場の屋上から地上へと降り、壁門へと向かう俺とイザリア。現地では既に戦いが始まっており、敵味方入り乱れての戦闘となっている。そして、相手の人員は全てアンデットだった。そう、現状は誰1人として人間がいなかったのだ。
「ついに、人間を使う事を止めたのか・・・。」
「高効率の末路ですよ。黒服軍服事変でもそうでしたが、要らぬ思考が出る人間では、兵員としては非効率ですからね。」
「ゾンビやスケルトンなら、ただ攻めるだけの駒としては十分発揮されますし。理に適った運用法ですよ。」
携帯撃剣で切り刻み、格闘術で蹴散らして行くウインドとダークH。その合間に攻め入る相手を、エメリナ・フューリス・テューシャの3人が介入していく。5人の連携は目を見張るものだ。
「自我を持たない魔物共なら、本気を出しても良いという事ですね。」
「あー・・・まあ、程々にな。」
ニヤリと微笑むと、受け取った携帯イルカルラを一閃する彼女。ギラリと怪しく輝く刃が、ゾンビやスケルトンを一撃の下で一刀両断していく。その隙を狙う他の魔物も、隕石方天戟で迎撃していく。見事なまでの二刀流である。
「なるほど、魔力による身体強化か。でなければ、華奢なお前さんには振り回せない獲物だしな。」
「本当ですよ。貴方こそ、よくこんな重量武器を片手で振り回せますよ。」
「フッ、お前さんよりも扱う年数は長いのでな。」
彼女に迫る魔物を、携帯方天戟で蹴散らしていく。同時に空間倉庫よりマデュース改3挺を取り出し、人工腕部に搭載させた。最近は3挺を同時に展開できる荒業まで見せてくれる。
「それ・・・半阿修羅像な感じが・・・。」
「ついに人外レベルに到達と・・・。」
「ふん、言ってろ、じゃじゃ馬娘達め。」
2人の茶化しに舌打ちするも、迫り来るゾンビやスケルトンを蹴散らしていく。
2人が言う通り、当初の人工腕部は右腕だけしか出せなかった。ところが、つい最近だが、四天王が3本の腕を繰り出せるようにしたタイプを考案した。1段階目は右腕のみなのだが、2段階目ではそれが分裂して3本の腕を出せるようになった。
左側が左腕、中央と右側が右腕、となる。4本にすれば、左右の腕を2対にできるのだが、トリプルマデュース改を考慮しての3本止まりにしたらしい。これはしっかりと理由がある。ちなみに、ヘシュナが持つ特殊仕様は、5対の腕が出るのだが・・・。
これは、彼女の脳波の問題で、宇宙種族特有のもの故に繰り出せるらしい。俺などの人間の場合は、どうやら最大で3本が限界らしいとの事。先の3本止まりという理由は、ここに所以する。
背中から出た3本の人工腕部が、それぞれマデュース改搭載の大盾を構える。生身の両腕はハンズフリーなので、携帯方天戟を両手で扱う事ができるが、今の俺の様相は化け物としか言い様がないわ。
(マスター、ここは大丈夫そうなので、一度レプリカ大和の方を見て来ては?)
粗方撃滅してきた頃を見計らって、エメリナより提示をされた。ここもリューヴィスも人員は足りているので、今は人員が足りないレプリカ大和への様子見を促された。
(そうだな・・・では様子を見てくる。デュヴィジェさん、レプリカ大和へ転送を。)
(了解。)
既に転送移動を確立した現状、即座にレプリカ大和へ転送をしてくれるデュヴィジェ。一度訪れた場所か、知っている人物がいる場所であれば、即座に転送が可能なのだ。これは瞬間移動などと同じ概念である。
飛ばされた先は、レプリカ大和の艦首部分。目の前に広がった光景は、夥しい数の海賊船が迫り来る様相だった。数百隻はいるだろう。凄まじい光景である。しかし、俺達を取り囲むだけで、まだ攻撃はして来ない。
(あら、マスターもお出でです?)
(エメリナさんの提言よ。向こうは押しているから、こちらの様子を見るべきだと。)
(ありがとうございます。ただ、完全に一触即発の状態ですけど。)
(そのようだわ。)
周りを見渡すと、とにかく夥しい海賊船がレプリカ大和を取り囲んでいる。新大陸の方への上陸はないとの事だ。まあ、今まで見た事がない鋼鉄の船が目の前にあるのだ、警戒しない方がおかしい。
(拡声器などがあれば、投降とか呼び掛けて来そうですけど。)
(それよりも、相手の搭乗員は人間か?)
(残念ながら、全て人間が乗っています。こちらは無差別攻撃はできません。)
(なら、動かなくさせればいい。)
小さくニヤリと笑って見せると、その意図を窺い知り2人も小さくニヤリと笑う。致死に至らない一撃であれば、問題なく撤収できるだろう。
頃合いを見計らったのか、全ての海賊船が一斉に大砲を発射しだした。地球では大航海時代で活躍した、あの大砲群である。鉄球を飛ばすタイプだが、人間が当たれば即死しかねない。だが、当然ながらレプリカ大和にもアレが施されている。
数千以上の砲弾が艦体へと飛来するも、手前に張られているバリアとシールドに阻まれる。どうやら、この異世界の大砲は着弾爆発タイプではないらしい。放たれた砲弾のどれもが、ただ打ち落とされるだけという散々な結果となっている。
(う~ん・・・間違いなく青褪めてますねぇ。)
(あの程度の砲弾など、直撃しても掠り傷すらも受けないのですがね。それ以前に、バリアとシールドの防御機構の前では、全て無力化しますし。)
恐ろしいまでにニヤケ顔の2人に、ただただ呆れるしかない。しかし、相手の攻撃は間違いなくこちらを殺しに掛かって来ている。ならば、宣戦布告と取っていい。
(さて、反撃しますか。ルビナさんや、お前さんの出番だ。海賊船の帆やマストだけを撃ち抜いてくれ。)
(了解~っ!)
今まで聞いた事がないような、嬉しそうな声色で返して来た。ルビナもデュヴィジェ達の影響により、アキバの色に染まりつつあると伺っている。今が正に最高潮となるのだろうな。
ルビナの号令により、レプリカ大和の各砲塔が旋回していく。何度見ても、46cm主砲の旋回する様は実に格好いい。この間にも、海賊船群からの砲撃は続いているが、どれもバリアとシールドに阻まれて無効化されていた。
準備ができた砲塔から、独自に攻撃を開始しだした。放たれた砲弾は、ルビナの超能力により、誘導制御されている。それらが海賊船の帆やマストを正確に撃ち抜いていく。そして、撃ち抜いた後の砲弾は海面に着弾し、凄まじい水飛沫を発している。
超絶的な規格外の攻撃を目の当たりにしたようで、海賊船群の攻撃が一瞬止まった。そう、海上が完全に静まり返ったのだ。過去に地球で、実際にオリジナルの戦艦大和が、一瞬だけ大海原の覇者となった時がある。正にそれを彷彿とさせるかの様相だ。
次の攻撃を行うべく各砲塔が旋回をしだすと、何と海賊船群が撤収を始めだした。たった一度の砲撃だけで、相手の戦意を喪失させてしまったのだ。それに呆気に取られるのだが、優越感が出てしまうのは浅はかな証拠だろうか・・・。
ただ、完全には引き上げない海賊船もおり、そこには対空銃座による威嚇射撃を行った。主砲や副砲よりは各段に弱いのだが、相手の装甲を踏まえれば致死性は非常に高い。木造の船体などバラバラにしてしまうだろう。
海上に着弾する弾丸が、海賊船群の撤退を促していく。効果がない船には、副砲による威嚇射撃も行いだしている。仕舞いには、大空へ向けて主砲を放ちだしていた。端から見れば、無駄撃ちに近い様相だが、相手にとっては見た事もない攻撃だ。驚異的な一撃であると判断するには十分効果があるだろう。
ちなみに、レプリカ大和の各砲塔は、その殆どが全自動で動く。地球でのイージス艦にも搭載されている、自動追尾制御装置も施されている。狙われたら最後、その砲弾から逃れる術はない。更にルビナの超能力もあり、一撃必中の弾丸を飛ばす事ができる。
外見こそ、第二次世界大戦の遺物だが、その中身や使われている素材は、地球の現段階の技術力では太刀打ちできない。空や宇宙こそ挑めないが、正に万能戦艦そのものである。
(・・・何だか哀れに見えてきた・・・。)
(死亡者が出なければ、何でもござれですよ。今現在の広範囲生体レーダーの反応だと、海上に投げ出された海賊はいなさそうです。ルビナ様が上手く狙った証拠でしょう。)
(当てようと思えば、幾らでも当てられますのよ、ウッフッフッ♪)
(はぁ・・・そうですか・・・。)
再び、今まで見た事がない言動をするルビナ。その様相は、完全に悪役だと言うしかない。まあ、相手を殺さずに済むのなら、安々しい攻撃なのだろうな。
(・・・あの大戦時は、こうした艦船同士での攻撃が多かった。致死性の一撃は、搭乗者を即死させる事もあっただろう。その瞬間戦われていた、英霊の方々の勇気の行動には脱帽するしかない・・・。)
(それが戦争でしたからね。殺し殺されが当たり前の様相。人間の最も醜い姿が殺し合いになりますし。しかも、それは間違いなく、エゴから発生したものでしたから。)
(人殺しの道具で、人を生かす戦いをする、か。烏滸がましい事この上ないわ。)
艦首部分から、周りの様相を窺いつつボヤく。これら兵装を使わなくても良い時代、それが訪れる時が来て欲しい。そのために、これら兵装を使い続ける、実に皮肉な話だわ。
ちなみに、46cm主砲の第1砲塔の射撃時の爆風は、バリアとシールドの防御機構により相殺されている。爆音の方は凄まじかったのだが、両耳の鼓膜を破る程ではなかった。これも防御機構の恩恵らしい。俺には理解できない概念だが・・・。
(とりあえず、ここは大丈夫そうだな。デュヴィジェさんや、リューヴィスへと頼む。)
(了解。)
(後始末は全てお任せを。)
(程々にな・・・。)
最後の最後まで一気盛んなエリシェとラフィナ。ルビナも同じ気質であり、それが躯屡聖堕メンバーにも飛び火している。しかし、不殺の精神を心得ているため、どれも威嚇射撃や致死に至らない攻撃ばかりだ。
レプリカ大和の方は一切問題がなくなったので、最後は商業都市リューヴィスに転送移動して貰った。デュヴィジェの能力は、本当に凄いとしか言い様がないわ。
「?! うにゃー! ビックリさせないでくれわぅ!」
「す・・すまん。」
今正に相手と交戦中のミツキの目の前に飛ばされてきた。それを見た彼女は驚愕している。しかし、3つの人工腕部にマデュース改を持った人物が現れた事で、相手側は超絶的に驚いているのが何とも言えない。
「念話で全て窺っていましたが、圧巻だったようですね。」
「ああ、本当にそう思う。レプリカであろうが、戦艦大和の攻撃はヤバ過ぎる。」
「ぬぅーん! 波動砲を発射するわぅか?!」
「艦首のスーパーレールガンが無難だと思うけど。」
「イスカンダ・・・むぐっ?!」
「おやめなさい。」
何とも・・・。ボケとツッコミの応酬は、戦闘中の場でも行われているとは・・・。その2人に襲い掛かる相手を、笑いながら蹴散らしているサラとセラが何とも言えない。
そして、侵攻して来た相手を見て呆れ返った。リューヴィスへ到来した軍団は、ゾンビやスケルトンではなく人間の男性だったからだ。しかも、騎兵や重装兵と以前と変わらない人員である。これには呆れ返ると同時に、怒りの方が出始めてきた。
「小父様も来られたのですね。まあでも、この様相を見せたくはなかったのですけど。」
「ああ・・・見たくなかったわ・・・。」
近場の女性に襲い掛かろうとしている兵士を、マデュース改でぶん殴る。大盾で殴られた相手は、凄まじい勢いで吹き飛んでいった。そして気付いたが、庇った女性はリューヴィス在住の戦士である。しかし、以前の様な嫌な目を向けられる事はなかった。
むしろ、不意に現れた俺に対して、リューヴィスの女性達が小さく頭を下げだしていた。ナツミAが以前語っていた通り、感謝の一念を出しているようだ。感謝するのは俺の方だというのにな。
俺は小さく頷きながら、彼女達に襲い掛かる兵士共を片っ端から叩き潰して回った。以前は後手に回り立ち尽くすのみだったが、今回は徹底的に攻撃に回り続けた。自然と湧き上がって来た、怒りと憎しみを込めつつ、致死に至らない程度の一撃で。
「おおぅ、兄貴も頑張りますな!」
「お前さん達には気苦労を掛けっ放しだわ、本当に申し訳ない。」
「何を仰いますか。貴方の考えは分かりますので、お気になさらないで下さい。」
「今回もどうせ、裏ではあのカス馬鹿野郎が手を引いているに違いないですし。」
久方振りに妹達と会うのだが、以前よりも逞しくなっている事に気が付いた。僅かな期間ではあるが、相当鍛錬を積んできたのだろう。同時に、リューヴィスの女性陣の力強さも十分肯ける。
「皆さん、滅茶苦茶強くなりましたよ。連携の方も、相当上手くなりましたし。」
「もう、私達がお教えする事はないぐらいで。」
「努力家だわな。」
迫り来る攻撃をトリプルマデュース改で防ぎつつ、その合間を見て攻撃に転じていく女性陣。身内や妹達が得意としていた戦術を、リューヴィスの女性陣も難なくこなしていた。相当な鍛錬を積んできた証拠だわ。
「ここは私達に任せて、遊撃を行って下さい。街中にも入り込んだ賊徒がいますし。」
「ハハッ、賊徒か。良い言い回しだわ。」
「肝っ玉が据わらない賊徒共ですよ。」
「いざと言う時は、女性の方が力強くなるからの。俺も見習わないといけないわ。」
本当に痛感させられる。いざと言う時の女性力は、計り知れない程の力を発揮しだす。対して野郎の方は萎縮するのが関の山だ。これが本当の対比である。
中央道路を妹達に任せて、俺は遊撃を担当する事にした。すると、自発的に共闘を申し出て来るリューヴィスの女性陣。その姿を見て、自然と涙が溢れてくる。あそこまで追い込まれていた女性陣が、ここまで立ち直れるようになったのだ、感極まるしかない・・・。
共闘を買って出てくれた女性陣を守りつつ、商業都市に入り込んだ賊徒を片っ端から倒して回っていった。こうして彼女達の輪の中に入れた事に、心から感謝したい・・・。
第13話へ続く。




