第2話 最強の武を示す1(キャラ名版)
数週間前、俺は異世界へと飛ばされた。詳細は分からないが、そこでは同じく苦悩する存在がいた。ならば、異世界だろうが地球だろうが、行う事は全く同じである。
しかし、俺の力は余りにも強過ぎる。特に各ペンダントや兵装がそれだ。この世界に合った力の出し加減をするべきだろう。こう言うと烏滸がましい感じだが、下手をしたらこの異世界の根底を覆しかねない。
これは、地球での警護者での活動と全く同じだ。各依頼を遂行する際、パワーバランスを崩さぬように動いている。まあ、相手が極度の行動に出る場合は、問答無用で全力で叩き潰す事にはなるが。
ともあれ、今はそれぞれの行動をし続けるしかない。地球だろうが異世界だろうが、時は待ってはくれないのだから・・・。
カネッド「やりましたぜ! 冒険者ランクEですよ!」
ダリネム「先日は最低のFでしたからね。この勢いなら上位も望めます。」
殆どシュリーベルでの依頼を行う妹達。彼女達の戦闘力は凄まじいものだが、常々油断するなとは語り掛けている。故に、討伐クエストは行わず、雑用などを繰り返していた。
ネルビア「そろそろ、討伐クエストにも手を出してみたいのですが。」
ミスターT「俺も情報を集めているが、何処もモンスの行動が活発化しているらしい。急ぐ気持ちは分かるが、先のゴブリン撃滅戦を踏まえれば油断は禁物だぞ。」
異世界での行動は、慎重に慎重を期した方がいい。地球では一定の文化圏での依頼だったが、そこには魔物などの人外生命体は一切いない。それだけ、この異世界の総合戦闘力は相当高いと見て取れる。
ファイサ「勿論、下積み時代は多く取る、ですけどね。」
ミスターT「例の勇者一行の事か。凄まじい勢いで冒険者ランクを駆け上がり、魔王の配下を撃破して回っているらしいな。情報によると、連中は7人のパーティー編成とか。」
メラエア「意外と多いんですね。」
アクリス「平均は4人が良いとの事ですし。」
確かにそうだろう。地球での各ゲーム作品でも、勇者パーティーは4人が定石だ。偶にそれ以上の人数の場合があるが、殆どが4人の構成である。
ミスターT「連中のジョブや展開する戦術は分からないが、魔王の配下を蹴散らすぐらいだから、結構な手練れになると思う。それに、今の俺達に足りないのは、底力とも言えるしな。向こうは向こう、俺達は俺達のペースで進めばいい。」
アーシスト「はぁ・・・ミスターTさんって、何処か達観してますよね。」
キャイス「もう少し、突っ込んで行動しても良いと思いますが。」
ミスターT「それだと若さ故の過ちに至る。俺もそれなりに修羅場を経験してきたが、お前さん達の様な姿勢の人物が至る道は最悪、死だけだ。」
俺の言葉に黙り込む彼女達。後手の後手に回るような行動でもいい。それが安全に進めるのであれば申し分はない。今の彼女達に必要なのは、何事にも冷静に対処できる静止眼だからな。
ミスターT「まあでも、10人規模なら簡単な討伐クエストは行けるかもな。」
ルマリネ「貴方はいらっしゃらないのですか?」
ミスターT「行くには行くが、完全後方支援に回るのでそのつもりで。」
何度も言わせるなといった感じでボヤいた。先のゴブリン撃滅戦時のバリアとシールドの防御機構、あの効果があまりにもデカ過ぎたため、それに頼ろうとする魂胆が見え見えだ。だからと言って、力を出し惜しみする事はない。要はその他力本願の姿勢を無くして欲しいだけだ。
ネルビア「分かりました。今後は可能な限り、貴方の力を頼ろうとしないで進みます。」
ミスターT「そう、それでいい。まあ、危ないと思ったら即座に支援はするがの。」
ジェイニー「分かっていますよ。私達の堕落する姿勢を正そうとしたいのでしょう?」
ミスターT「まあな。」
自分達を見縊ってくれるなと目で語ってくる。これなら他力本願には至らないだろう。まあ、彼女達に何かあったら、身内に何を言われるか分かったものじゃないが・・・。
カネッド「よしっ、何かクエストがあるか見てきます。」
ミスターT「余り入れ込み過ぎるなよ。」
善は急げと言った感じで動きだす彼女達。流石のこの姿勢は、トラガンの女性陣にはない。じゃじゃ馬娘そのものだわ・・・。
ミスターT(・・・粗方の様相は掴めたか?)
ミツキT(はい。大まかな流れは把握できています。)
冒険者ギルドに向かう妹達を尻目に、念話を通してミツキTに語り掛ける。とにもかくにも情報が全てであるため、彼女には裏方として行動をして貰っていた。
ミツキT(ここより北東に、大都会と言われる都市があります。例の勇者一行も、ここを拠点として活動をしている様子。他にも数多くの冒険者が駐留しているようです。)
ミスターT(地方街には目も暮れない感じだな。)
ミツキT(でしょうね。ただ、先のゴブリン撃滅戦でしたか、それの情報は流れている様子です。妹様方の活躍も届いているみたいですが、今は問題はないと思われます。)
ミスターT(目立ち過ぎると、要らぬ横槍が入ってくるのが定石だしな。)
強く懸念しているのはここだ。彼女達が目立ち過ぎると、何処ぞから要らぬ輩が出てくるのは間違いない。それに、今の彼女達は非常に危うい。特に精神面の弱さが顕著だ。
ミスターT(彼女達の戦闘力は、トラガンの女性陣に匹敵するぐらいのものだ。だが、精神面の強さだと話にならない。トラガンの女性陣の真骨頂は、屈強な精神面の強さだしな。)
ミツキT(フフッ、本当ですよね。)
溜め息混じりにボヤいてみせると、小さく笑うミツキT。
彼女が今世に戻って来てから日が浅く初心者的である。しかし、生命の次元から得られた情報を以てすれば、まるで長い付き合いの如くとなる。これは彼女が俺の生命と同期した事により、俺が知るトラガンの女性陣への一念を、我が一念とした事に他ならない。
これはヘシュナも得意とする業物で、相手の額に触れつつ、その脳内や胸中の様相を自身の脳内や胸中に再現するというものだ。まあ、彼女は生身の肉体経由で得られる情報になるが、ミツキTの場合は生命の次元から得られる情報となる。その力は段違いに等しい。
ミツキT(お褒めに預かり光栄です。)
ミスターT(はぁ・・・心中読みはやめれ・・・。)
ミツキT(読みも何も、小父様の心中からダダ洩れ状態ですし。)
ミスターT(そうですか・・・。)
これである・・・。最近の彼女達は、先の黒いモヤ事変で俺が放った殺気と闘気の心当て、これにより自身の精神面と生命力がケタ違いに強化された。精神体としてしか具現化できないミツキTが、今ではこうして生命の次元で姿を現す事ができるようになったのだから。
ミツキT(まあでも、小父様の思いはナレーターの如くですからね。一応、黙認はしておきます。)
ミスターT(一応、ねぇ・・・。)
ミツキT(女性を見縊るな、という事ですよ。)
何ともまあ・・・。ともあれ、妹達の傍を離れられない事を考えれば、ミツキTの精神体での活動は超絶的に役立ってくれる。しかもその行動力は時間と空間を超越し、即座に目的の場所へと飛ぶ事ができるのだ。こちらの異世界に来れたのも十分肯ける。
ミツキT(ただ、私だけでは広大な異世界を把握し切るのは難しいです。よろしければ、メカドッグ部隊を展開したいのですが?)
ミスターT(それ、現地人に見付かるとヤバくないか。)
ミツキT(私と同じ精神体の状態なら問題ありません。それに、四天王の方々が考案された光学迷彩を用いるか、5大宇宙種族の気配の削除を使えば大丈夫です。大凡、20人ぐらい居てくれれば助かります。)
ミスターT(20人ねぇ・・・。分かった、委せるわ。)
俺の言葉に有限実行するミツキT。その場にメカ式ドッグを展開していく。当然ながら、地球との交信は念話しかできないため、メカドッグ部隊は精神体での活動となる。
ミツキT(黒いモヤ事変様々ですよね。同伴されたメカドッグ部隊が、小父様の殺気と闘気に当てられて覚醒した。筐体から離れれば、私と同じく精神体での活動が可能ですし。)
ミスターT(こっちの方が、よっぽど魔法的概念だわな。)
本当にそう思う。地球上でのミツキTとメカドッグ達の存在は、完全にファンタジー世界観そのものである。しかし、この異世界なら全く以て違和感はない。実に皮肉な話である。
創生されたメカドッグの精神体達が出揃う。その場で座る体勢をしつつ、ミツキTの指令を待っている状態だ。勿論、この様相は一般人には全く見えない。
粗方指令を言い渡すと、4人ずつに分かれて行動を開始し出した。超神速とも取れる速度で移動をしだすのだ。まあ、精神体故に無尽蔵の行動力を得るに至るのだが・・・。
ミスターT(情報収集と各種偵察は委せる。この異世界の様相を“そこそこ”探っておいてくれ。)
ミツキT(了解です。)
そう語ると、自身も超神速で動きだす。メカドッグ達よりも自我が強いため、ミツキTの力は凄まじいものになる。裏方の工作は彼女達に任せれば大丈夫だろう。
それから暫くすると、冒険者ギルドから妹達が戻ってくる。討伐クエストの中での簡単な依頼は、近場の廃墟に出現したゾンビ達を倒す事らしい。まるでゲームのような様相だが、今はこなしていくしかない。
既に準備は整っているため、一路目的地へと向かった。彼女達の後方の憂いは、可能な限り取り除きたい。
アクリス「なるほど・・・魔王の影響かも知れませんね。」
ミスターT「デッドマン・ウォーキングそのものだな。」
正に死者が歩く、と。目の前に徘徊するゾンビ達は、ゲームの世界では超有名な不死族系のモンスである。首を跳ねたり叩き潰せば、一応は倒せるようだが、あまりにもの凄惨な光景はゲームよりも酷い。
ミスターT「うーむ・・・良く平気だな・・・。」
ジェイニー「特に気になりませんけど?」
ミスターT「はぁ・・・そうですか・・・。」
この姿勢、トラガンの女性陣に似ている気がする。以前、彼女達の精神面の強さを挙げたが、妹達はモンスのグロテスクな様相に対しての耐性があるようだ。まあ、俺の方もこの程度では怯みもしないが。
ミスターT「ここは、街の領主が住んでいた場所なのか?」
ネルビア「以前はそうでしたね。かなり前に魔物の大襲撃が遭った時に、ここを破棄して逃げたとの事です。私達が来る前の話なので、詳しい事は分かりませんが。」
ミスターT「なるほどな。」
領主の館、か。ここを狙って襲撃したとは考え難い。だが、今の異世界の様相を踏まえれば、何時何処で何が起きてもおかしくはない。まあこれらもゲーム内設定なら、各種イベントのフラグ的なものなのだろうが。
カネッド「おーしっ! 撃滅完了っと!」
ミスターT「その嬉しそうにする姿勢が分からん・・・。」
全くだわ。この姿勢は若さ故のものなのか、それとも異世界の様相がそうさせるのか。現実世界に身を置く俺としては、とても考えられない概念である。
ルマリネ「館内の探索はしなくて良いですかね?」
ミスターT「不法侵入になる恐れがあるから、今は依頼だけ遂行すれば良いだろう。今後、同じ様な依頼が出るなら、今度こそ堂々と進入すればいい。」
ネルビア「了解です。」
冒険心有り有りの様相を醸し出す妹達。やはり、若さ故の過ちと言うべきだろうな・・・。まあ今は不用意に動くのは得策ではない。
実に簡単に終わった、ゾンビ掃討作戦。これも魔王の出現による影響なのだろうか・・・。本当に異世界での通例的イベントと言えるわ。まあそう言ったら、元も子もない状態になるのだが・・・。
これ、何れ身内がこちらに来るようになったら、今後の良いネタになりそうな気がするわ。今では各ゲームを作る事に躍起になっているため、絶好のネタ環境と言えるしな。今は現地人となる俺としては、非常に遣る瀬無い気分だが・・・。
シュリーベルへと戻り、冒険者ギルドでクエスト達成の報告をする妹達。内容を見てみたのだが、何と上級者ランクのクエストだったのだ。彼女達のランクはEだが、今回の依頼は2つ上位のランクCである。
ただ、先の戦闘を見ていた限りでは、とてもランクCとは思えないほど易しいものだった。冒険者ギルドが斡旋する内容が低レベルなのか、妹達の戦闘力がズバ抜けて凄まじいのか。基準となる部分が欠落しているため、今の俺には何をどう判断すれば良いのか分からんわ。
その後も各種クエストを行っていく妹達。今の依頼で自信が持てたのか、難しくない討伐クエストを受注していく。今度からは内容を把握させて貰ったが、先のゾンビ掃討作戦よりは難しくはなさそうだ。
第2話・2へ続く。




