第11話 海への対策3(通常版)
荷馬車に揺られる事、数時間。大都会から北上しても、数時間の距離とされる造船都市。商業都市からは更に時間が掛かり、約半日近く掛かってしまった。幸いにも夜中に行動を開始したので、朝方には現地に到着する事ができた。
造船都市アルドディーレ。ここは工業都市とは異なり、大都会の庇護を受けず独立で運営をしているとの事。それを象徴するかの様に、外壁はデハラード以上の重厚感を放っている。更に、北側が海に面しているため、海洋国家的な姿を醸し出している。象徴的なのが、帆船型の軍艦だ。
ただ、シュリーベル・カルーティアス・デハラード・リューヴィスとは陸地で面している。そのため、この帆船軍艦を保持する意味合いは別にあると思われる。そう、ここより北方に存在する、魔大陸への抑止力だろうな。
まあ、魔王イザリア自身が本来の善心に回帰したため、魔大陸は普通の大陸と言っていい。魔王を仲間に、か。こちらの方がチート過ぎるわな・・・。
(クロノト・・・むぐっ?!)
(はぁ・・・出ると思った。)
(見事ですよねぇ。)
早速、ネタを飛ばしてくるミツキ。直ぐにナツミAに口を塞がれている。こちらの一挙手一投足全てに反応しているかのようだ。
(ハハッ、本当に賑やかで良い感じだわ。)
(何時もの事なので、呆れを通り越しますけどね。)
(まあそう言いなさんな。ミツキ嬢が言ってたが、笑顔でいるから幸せになれる、だな。それを何度も実践してくれている、感謝に堪えんよ。)
(フフッ、本当にそう思います。)
オルドラの言葉から、この異世界には心から笑える時がなかったと思える。まあこれは、俺の価値観内の解釈なので、実際にはそれ相応の笑顔を持つ方々はいるとは思う。
(しかし・・・何か物々しいですよね。何かに対して警戒しているような。)
(イザリアさんがいる手前、通常大陸からの波動は皆無だと思う。となれば、それ以外の脅威に対してだろうな。)
(怖がる~酒を飲み干せ~♪)
直感的なのだろう、俺が思った事を見事にネタで代弁してくれたミツキ。それに周りの面々は呆れながら溜め息を付いている。しかし、その直感が見事に的中する事になろうとは・・・。
荷馬車を壁門の近くに止めて、街内に入ろうとした瞬間、辺りが騒がしくなりだした。門番の衛兵に尋ねると、何と海賊の襲撃があったらしい。それを窺い知って、一同してミツキの方に一念を向ける。その感じを知った彼女は、呆れ顔ながらもニヤケていた。
非常事態という事で、共闘を買って出る。その事を門番に伝えると、遊撃で動く事を提示してくれた。ただ、冒険者という位置付けから、自身に降り掛かった災難は自己責任になると付け加えられたが。
(どうされます? 増援をお送りしますか?)
(いや・・・大丈夫そうだよ。それに・・・。)
彼女の共闘提示を保留し街中を見入る。そこには、数多くの軍団が疾走していた。どうやら港の方に向かっている様子だ。
(・・・なるほど、メカドッグ嬢達の情報から、取り越し苦労に終わりそうだ。)
(あらら。)
メカドッグ嬢達の情報を念話経由で窺い、その様相を知って納得している一同。そう、本当に納得していた。
疾走していた軍団は、相当な手練れである事。港にはボウガンやバリスタなどの遠距離攻撃ができる兵装が備わっている事。そして、迎撃に出ている面々は、海賊慣れをしている事だ。先程俺が慌てた理由は、海賊の襲撃が初めてだったと思ったからである。
(うーん・・・不発に終わった感じでしょうか。)
(暴れられると思ったのですけど。)
(不要な戦いは避けるに限る、これも警護者の基本概念よ。)
2人は戦いたかったそうだが、不要な戦いはしないに限る。俺達警護者が牙を向くのは、守るべき存在に脅威が迫った時だけだ。好戦者になれば、殺人鬼に至る恐れも十分ある。
(ですが、他にも襲撃者がいる恐れもあります。メカドッグ嬢達を飛行モードにして、周辺の警戒に当たって貰いますね。)
(ああ、頼むわ。)
(長時間グライダースパイクわぅ!)
(はぁ・・・。)
ネタを炸裂するミツキに溜め息を付きつつも、メカドッグ嬢達に周辺の警戒を一任した。何故飛行モードとしたのかは、ここより北側が海であるからだ。空を飛んだ方が良いだろう。
ちなみに、メカドッグ嬢達の基本筐体は、通常は犬である。しかし、飛行モードになると、背中から翼が出て飛ぶ事ができた。小型ジェットエンジンも搭載しており、小さいながらも速度は最高でマッハ2ぐらいは出る。更にこの筐体、俺達の背中にドッキングも可能だ。
つまり、彼女達を背中に背負った状態になると、筐体の恩恵により空を飛ぶ事ができる。ただし、結構な重力が掛かるため、余りお勧めしない戦術ではあるが・・・。
(飛ぶのと泳ぐのだけは勘弁だが・・・。)
(出たわぅ! Tちゃんの苦手な2つの要因わぅ!)
(空と水が苦手なのですか・・・。)
意外な苦手要素に呆気に取られている妹達。それを窺った身内は小さく笑っている。これら苦手要素は、今となっては俺の特効に近い。
(更にもう1つは、女性が苦手わぅ。)
(え・・ええっ?!)
(そんなまさか・・・リューヴィスの様相を見る限り、完全に一体化していましたよ?)
(実際の所、彼はかなりの奥手よ。と言うか、男女問わず、対人が苦手なんだけどね。)
更に意外な弱点を知り、妹達は絶句しだしている。身内はこれを知っているため、毎度の事だと呆れるに留まっている。
(・・・正直な所、1人でいる方が気が楽よ。)
(それ、完全にボッチですよね。)
(ダンナ~、儲かりまっかぁ?)
(ボ・・ボチボチでんなぁ。)
(ウッシッシッ♪)
はぁ・・・この美丈夫は何でもネタに発展しよる・・・。しかし、非常に強いクリティカル性を孕んでいるため、笑わないようにしても笑ってしまうのは見事だが・・・。
(それでも、リューヴィス事変では、何振り構わず動かれた姿勢は見事でしたよ。幼少の頃の孤児院出身時は、女性の全ての痛みを即座に反応していました。当の本人が気付かない部分まで察していましたし。)
(確かに。私もそれを見抜かれて、何度か助けられた事がありましたから。)
(多分、女性を苦手となったのは、要らぬ考えが出始めた頃の自分への戒めでしょうね。そうでないと、意識し過ぎて参ると以前言ってましたし。)
(前にも挙げたが、この覆面と仮面がなければ、お前さん達の超絶的な魅力に当てられ、野郎の意識の方が強く出ていたと思う。我欲なんざ押し殺すに限るわ。)
吐き捨てるようにボヤく。素体の自身を踏まえると、先のリューヴィス事変での伯爵共と同じ様に、女性に特別な意識を抱くのは間違いない。野郎とはそういう生き物だと、28年の人生で痛感させられてきたしな。
(・・・何度か私達をチラ見してたのは、少なからずその意識があった訳ですか。)
(こう見えても野郎の端くれ、我欲の部分は勘弁してやってくれ・・・。)
この部分だけは、どうする事もできない。ちなみに、性転換ペンダントの効果で女性状態になった場合でも、この意識は消す事ができない。俺自身が野郎故の、避け難い一念とも言い切れる。
(・・・一応安心しました。私達を異性と見てくれている部分に。)
(自意識過剰に聞こえると思いますが、私も少なからずアピールしていた時が・・・。)
(ミスターTさんは、男性として出来上がっていますからね・・・。)
(へぇ・・・羨ましい限りよね・・・。)
改めて知る、妹達からの好奇の目線。異性として見られていた証拠である。それを窺い知った身内の女性陣から、恐ろしいまでの殺気に満ちた目線で睨まれた。恒例の嫉妬心である。
(ま・・まあでも・・・女性は笑顔に限る。リューヴィスの女性陣を見て、改めて痛感させられた。今も地球で燻っている抗争などでも、一番被害に遭っているのは女性と子供だ。この異世界でも全く変わらない。)
(そこは大いに同意します。私達大企業連合も、世上から悲惨や不幸を無くすために戦い続けていますからね。今は警護者の大役も両立していますけど。)
(マスターとお会いしていなかったら、私達が目指す誓願には、まだまだ程遠い距離だったと思いますよ。本当に感謝しています。)
(・・・ますます以て、膝は折れんわな。)
毎度ながらの原点回帰だが、それでもいい。こうして振り返る事により、大切な一念に回帰できる事がどれだけ重要か。ミツキ流は理、持ちつ持たれつ投げ飛ばす、である。
(劣勢わぅか?! ふんっ、わた達がいれば、ワンコに骨付き肉わぅ!)
(正に馬の鼻先に人参よね。)
(ポチの場合は、眼前に茶菓子ですよ。)
(なぬぅー?! 茶菓子を寄越せごるぅあー!)
(はぁ・・・。)
何ともまあ・・・。ネタに走り、生真面目会話に戻ったと思ったら、再びネタに走る・・・。その都度、笑いのツボを刺激され、否が応でも笑わせられるという。本当に凄い女傑だわ。
しかし、彼女の姿勢にはとにかく見習わせられる。どんな状況であろうが、笑顔を欠かさずに突き進め、である。言うのは簡単なのだが、実際に実行しようとすると相当難しい。特に殺伐とした場であれば尚更だ。
それを素体で、無意識レベルで繰り出す。肝っ玉が据わっていなければ、絶対に行う事はできないだろう。できたとしても、本当の行動とはとても思えない。
まだまだ膝は折れない、ここに回帰して行く今日この頃である・・・。
第11話・4へ続く。




