第10話 守るべきもの4(通常版)
(久方振りの対話に酔い痴れたいが、来訪者が訪れたようだ。)
(ああ、俺の方からもハッキリと見える。)
僅か数十分ほど念話での雑談をすると、イザリアより到来する存在が告げられる。この能力だが、何でも念話と魔力は相互に反応するようで、魔力側で周辺の感知ができるとか。俺には理解できない概念なので、今は己の目で見たもので判断するしかない。
商業都市の東側門、そこから現れる複数の人物。騎兵に重装兵が連ね、その先導には護衛付きの重厚な馬車がいる。明らかに重役が乗ってます、と言いたげな様相だ。
兼ねてからトラガンの女性陣には手を打って貰っているため、俺が小さく合図をすると、現れた連中がいる道路の店舗や家屋が閉じられていく。裏口より遠方に脱出するようにとも伝えてある。
俺は空間倉庫からマデュース改3挺を取り出し、それぞれの腕に装備する。そのまま、侵入して来た連中の方へと歩みを進めた。すると、颯爽と行動を開始する連中。騎兵や重装兵が道の端に並ぶと、重馬車の扉が開き、中から人が降りてくる。
その出で立ちや表情を見て確信が持てた。相当な権力を持つ貴族であり、どうしようもないカスであるという事だ。生理的に受け付けない事を、生命の次元から直感させてくる。また、付き添いの2人の執事的な人物もまた、生理的に受け付けない雰囲気をしている。
「・・・ここには如何様で訪れた?」
「伯爵様が自らお出でになられたのだ、控えろ凡俗。」
「貴様の様な軽々しい女が出る幕ではない。」
執事の言葉に、怒るより苦笑してしまう。俺の気質からして、変人扱いされる方が性分に合うため、軽々しい女と言われて変な感動を覚えてしまった。そして、コイツ等が俺の本質を見抜けていない証拠となる。
「事を荒だてるな。女は需要が高い、それも活用する事が可能だろう。」
「なるほど・・・。」
大凡の見当は付いていたが、こうもどうしようもないカスが出ると流石に萎える。しかし、念話を通して感じている身内達は、青褪めるかの様な殺気を出して怒りだしている。
「さて、ここを引き払って貰おう。ここは私の管轄下であり、ここにいる女共は全て私の所有物である。聞く所、貴様は好き勝手に暴れてくれていたようだが、質が高まるのなら良いと放置していたのは正解だったな。」
「その件に関して、尋ねたい事が幾つかあるのだが?」
「下郎が! 立場を弁えろ!」
「まあ待て、ここは寛大な心で聞いてやろうではないか。」
この手のカスはどうしようもないわな・・・。同時に、何時でも自分達を暴れさせろと、念話から凄まじい殺気が飛んでくる。そこら中に身内がスタンバイしているのが何とも言えない。
両手と人工腕部に持つマデュース改を、俺の背後に間隔を空けて地面に突き刺す。あえて丸腰だと見せる演出でもあるが、それが“カモフラージュ”になる事も踏まえての配置だ。
「まず1つ。1ヶ月前のここは、お前さんが思う通り質は良くなかった。もし私が何もせずにいたとしても、ここに来たと言う事か?」
「先程も言っただろう、質が高まったために訪れたと。この手のハーレムを態と構築すれば、それに釣られて癒そうとする聖者らしき存在が現れる。治療されれば、それなりに使える女になるのは言うまでもない。」
「つまり、商業都市はお前さんの悪知恵と私利私欲により、ここのお嬢さん方を食い物にする算段だった訳か。」
この対話やこの様相は、念話の応用と俺の身体を媒体として、ここに住む女性陣やトラガンの女性陣、身内達全員に伝わっている。最初は怒り心頭の総意だったが、ここまで腐った存在を窺い、かなりの呆れた雰囲気となってきた。対して、俺の方は徐々に怒りが湧き上がりだしている。
「2つ、ここのお嬢さん方を何処に連れて行くつもりだ?」
「王城周辺に住む貴族は、慰めものに使う道具を必要とするのもいる。そこに売り払う流れだ。貴様もそこそこ質が良さそうだな。こんな辺境な地にいるより、私の元に来るといい。破格の待遇を用意しよう。」
「残念だが、私は結構傷物でね。お目に適うものではないと思うが。」
「貴様の評価をするのは、貴様自身ではない、この私だ。貴様の素性など要らぬ。」
人はここまで堕ちるものなのか・・・。地球での各事変では、己の私利私欲で地球自体の住人を食い物にしようとしていた連中もいた。この世界でも、こうした愚物がいる事に、本当に嫌気が差してくる・・・。
我慢の限界を超えたのだろう、ゾロゾロと現れる女性陣。リューヴィスの女傑達を筆頭に、トラガンチームに妹達全員とウインドとダークHもいる。その表情は、この上ないぐらいの呆れ顔そのものだ。
「おお・・・良質の女がこれ程いるとは・・・。貴様の手腕により更生した感じだな。」
「・・・お前さんには、お嬢さん達をそうとしか見れない訳か。仮にここに男性が混じっていたとしたら、どうするおつもりで?」
「男など要らん、必要なのは女だ。」
「そうか・・・。」
俺は性転換ペンダントの効果を切った。眩い光を発しつつ、元の男性の姿に戻る。それを見た伯爵は、まるで絶望的な表情を浮かべだした。そう、驚愕ではなく絶望である。
「な・・・何という事だ・・・男と話していたのか・・・。」
「それを言うなら、その2人の執事君も野郎だろうに。」
「・・・解せぬ・・・解せぬ! この場でコイツ等を皆殺しにしろ!」
「はぁ・・・そうなるのねぇ・・・。よし、そろそろ出番よ、三女神さんや。」
言うか否か、地面に刺さる3つのマデュース改の裏から、ついに出番といった形で現れる。
先程のトラガンチームの歩み寄りがカモフラージュとなり、その間に各マデュース改の裏にミツキ・ナツミA・シルフィアを転送召喚しておいた。伯爵側は身内の女性陣に目がいっており、3人の出現を誤魔化す事ができたようである。
徐に俺の傍らに歩み寄る3人。その表情は、俺の心中を代弁するかの様な、超絶的な怒りと憎しみを浮かべている。末恐ろしいを通り越し、致死に至るような恐怖度である。
「マスター・・・良く我慢されましたね。」
「これは流石に・・・ブチギレるわ。」
「良いじゃないですか・・・カスは潰すに限ります。」
俺の十八番たる殺気と闘気の心当て、それを自分流にアレンジしたのを放つ3人。凄まじい波動を目の当たりにして、伯爵共は恐怖に慄きだしている。ここまで3人を怒らせたのは、俺が知る限りだと過去に例がない。
「・・・伯爵さんよ、考えを改め直す事はない訳だな?」
「小癪な・・・これ如きの“魔力”などで・・・我らを屈服させられると思うな!」
「魔力か・・・それはこの事を言うのだがな。」
3人の殺気と闘気の心当てに引かれている伯爵共だが、それもまたカモフラージュだった。俺の背後にイザリアを転送召喚した。彼女たっての希望で実現した流れである。
その彼女が俺の傍らに出ると同時に、ご自慢の魔力の渦を“右手”から伯爵共に放った。どうやらこの異世界惑星では、殺気と闘気は魔力と同じ力を示すようだ。伯爵が俺達の力を魔力と勘違いしたのがそれである。
となれば、魔王たるイザリアの魔力の渦の方が、伯爵共には特効薬そのものだ。それを窺い知った彼女が、共闘を申し出てきたのだろう。流石は魔王の名は伊達ではない。
3人の殺気と闘気の心当てに、イザリアの魔力の渦のコラボレーション。それはもう、俺も驚くような恐々しさである。そして珍しいのが、イザリアがその一念に憎しみを込めている事だ。先の共闘ではその一念はなかったため、余計それに気が付いた感じである。
「お・・おのれ・・・。」
「おい、まともに発言できんのか貴様は。」
うわぁ・・・リミッターが解除されたミツキを久し振りに見た・・・。何時ものノホホン度が一切消え失せ、殺気と闘気を前面に出した本気モードの彼女だ。この力で各事変の愚物を瞬殺している。
「マスター、どうなさいますか?」
「ここは、是非とも女性の力を見て頂きたいものですが?」
「そうだな・・・お嬢さん方、力を抑えてくれ。」
俺が語ると、殺気と闘気と魔力の渦を抑える4人。この上ない怖ろしさが止むと、今度は臨戦態勢になる伯爵共。周りにいた騎兵や重装兵も武器を構え直している。
「さて・・・こちらの華麗で可愛く、心から敬愛できる美女方が、是非とも暴れたいとの事なので・・・覚悟して下さいな、カス共がっ!」
「お前ら、やっちまえっ!」
態とらしく茶化しも織り交ぜつつも、最後は今までの怒りと憎しみをぶつけての啖呵。それに便乗するミツキの号令に、周りにいた女性陣が一斉に雄叫びを挙げて突撃を開始した。
凄まじいまでの迫力だわ・・・超絶的と言っていい。あれだけ自分達の性別を侮辱され続けたのだ、怒らない方が絶対におかしい。野郎の俺でさえ、相手の暴言には超絶的に激昂する。しかし、ここはこの場にいる女性陣に全て委ねるとしたい。
そして、それは恐ろしい現実となって現れる。1ヶ月ほどの修行は、リューヴィスの女性陣を屈強な女傑へと進化させていた。同月を見守り続けたが、どうやらそれは本気でなかったという事だろう。
相手の武器を弾き、自らの拳や蹴りで一蹴する。その全ての一撃に怒りと憎しみを込めて。まあ、憎しみの部分はパワーアップの要因になるため、実際には怒りのみのものになるが。それでも、あの暴言には、怒り以外に憎しみも抱かない方がおかしい。
リューヴィスの女性陣、トラガンチームの女性陣、妹達に身内全員。ここにいる全ての女性の原動力が、自分達を侮辱した伯爵共に向けられた。傍らにいるウインドとダークHは、不測の事態に備えて待機中だが、実際には暴れたい様子である。
どれぐらいの戦いが続いたのだろう。屈強な女性陣の猛攻に、為す術無く倒された伯爵共。全員捕縛され、武器も1箇所に纏め上げられている。伯爵と執事2人も同じく捕縛された。急所を狙わずも、そのどれもが猛攻であったため、もはや反撃の気迫すらないぐらいだ。
確かに役職やら権力やらでは上手だろうが、実戦主義者の俺達にはそれは一切通用しない。警護者自体がそれに該当するため、言わば伯爵共にとって特効薬そのものである。
「お・・・おのれ・・・。」
「黙れ愚物、おのれおのれ五月蝿いんだよ、殺されたいのか?」
「はぁ・・・そのぐらいにしておきなさいな。」
依然として激昂モードのミツキに、周りの女性陣はタジタジである。しかし、それが自分達を擁護するものである事を知っているので、代弁役として任せている様子だ。
「さて、どうするか・・・。」
「このままでいられると思うな・・・王城にいる貴族総出で貴様等を殺してやる・・・。」
「・・・まだ減らず口を叩くのか。」
捕縛中の伯爵の前に座り込み、顔に着けていた仮面を取り外す。すると、見る見るうちに顔を青褪めていく。
実はこれ、事前にヘシュナの偽装により、顔が醜くなるように施してあった。実際のそこは黒い覆面があるのだが、伯爵や周りの面々には、醜い表情が浮かび上がっている様に見えているのだ。
「ひ・・ひぃぃぃっ!!! ば・・化け物・・・。」
「ほむ・・・顔は化け物でも、心の方は貴様等よりはマトモだがな。」
十八番の殺気と闘気の心当てを放つ。既に恐怖で一杯の相手には、追撃の波動は超絶的なようだった。
「・・・いいか、良く聞け愚物共。貴様等にあると思われる良心に期待し、今回だけは逃がしてやる。だが・・・今度彼女達に手を出したり、愚弄するような場合は・・・、貴様等全員皆殺しにしてやる・・・覚悟しておけ。」
最後通告的に言い放ちつつ、瞬発的に殺気と闘気の心当てを高める。それらを目の前の伯爵共にぶつけた。当然ながら、その波動に当てられた連中は、白目を向いて気絶していく。
「・・・嫌な役回りだわ・・・。」
「ま・・まあそう仰らずに。」
「最後は見事な啖呵でしたし・・・。」
再び仮面を装着しつつ、徐に立ち上がり静かに一服をする。元は超チキンの俺だ、見事に手が震えている。これは当然の反動だろう。その手にソッと触れてくるのは、ウインドとダークHだった。
その後、侵入者全てが気絶した状態の現状を利用して、イザリアの転送魔法の力で王城前へと移動させて貰った。捕縛状態で白目を向いて気絶している伯爵共が、現地でどんな扱いを受けるのかと思うと、変な興味が湧いてくるが・・・。
街中の被害も、格闘戦で対処したため皆無に近い。それなりの散らかし度はあるが、掃除をすれば問題ないだろう。問題があるとすれば、俺自身だろうな・・・。
「全部片付きましたじぇ。」
「骨が折れましたにゃ。」
「ありがとさん。」
全ての行動を終えて、街の中央交差点に集う面々。そこはリューヴィスの女性陣が炊き出しを行ってくれており、戦いに参加した面々を労っている。
「何かさ、今までで一番戦った気がするわ。」
「そうだねぇ。」
「女性の尊厳を取り戻した感じっと。」
キャイキャイ騒ぐ妹達を見つつ茶菓子を頬張る。これ、ミツキが地球より持ち込んだ一品だ。未知の世界の食べ物とあり、リューヴィス在住の女性達には大人気である。特に幼子達にはかなり好評のようだ。
「沢山あるから、一杯食べてわぅ♪」
「茶菓子漬けよねぇ。」
「ハハッ、良いんじゃない。」
漸く異世界に来れたとあってか、瞳を輝かせている3人。彼女達は生粋のヲタク気質なため、見るもの全てに熱い視線を送っている。それに呆れ顔の身内達である。
和気藹々と盛り上がる場だが、やはりリューヴィスの女性陣の視線が痛い。彼女達を癒した人物が、女性ではなく男性だった点だ。言わば、目の前に憎き異性がいる。その目力は殺気ではなく、触れたくないもの、見たくないもののように刺さってくる。
「ミスターT殿・・・。」
「ん? ああ、気にしなさんな。」
「あの戦いの後ですから、辛いですよね・・・。」
一際気に掛けてくるイザリアとテューシャ。その2人に小さく頭を下げた。リューヴィスの女性陣を治療した厚意には、強かな心など一切ない。むしろ、彼女達が立ち上がれるのならと思っての行動だ、後悔もしていない。
「・・・これだから野郎は・・・。」
「ハハッ、恒例の自己嫌悪ですか。」
「今は・・良いと思います。」
「酒でも飲みたい気分だわ・・・。」
憎まれ役を担う、か。ヘシュナやイザリア達が担ってきた、悪役の流れ。形はどうあれ、今の俺はリューヴィスの女性陣にとって敵である。彼女達を虐待した男性共と同性なのだから。俺が彼女達の立場だったら、同じ思いを抱かずにはいられない。
「・・・それでも、彼女達が立ち上がれるなら、それでいい。」
「そうですね。今のマスターの役割は憎まれ役。私達が警察官も、時と場合によっては、憎まれ役を担わなければなりません。警護者も全く同じです。」
「今の世上に憎まれようが、後の世上が良くなるのなら安いもの、と。自ら担って行動した事ですからね。後悔せずに進んで下さい。」
「ああ、委細承知。」
両肩に優しく手を置いてくるウインドとダークH。その手に自分の手を優しく添えた。
今の様相からすれば、どうしようもない流れである。しかし、俺が行った行動は、決して後悔はしていない。ここまで立ち直る事ができたのだ、むしろ異性の俺だが誇り高く思う。本当に、女性の力は凄いとしか言い様がない。
すると、トラガンチームの女性陣が、俺から意識を遠退かせようと、リューヴィスの女性陣に色々とコミュニケーションを取り出している。自発的なその厚意を見て、俺は彼女達に頭を下げた。彼女達も、昔は同じ様相だったのだから・・・。
それでも、守るべきものは確かにある。それを貫く事ができる存在の1つが警護者だろう。今は異世界在住なため、探索者となっているが、殆ど同じ様なものである。
今後も、己が生き様を通し、この世界の住人方を支えられる存在であり続けたい・・・。
第11話へ続く。




