第10話 守るべきもの3(通常版)
(・・・ん? どうやら動きがあったようです。)
スミエの太い声が響く。本当に真面目な時の声色だ。彼女自身、俺と同じく理不尽・不条理の概念を嫌うため、語られた事への内容が込められていると言える。
(この様相・・・王城からですか。)
(はい。その矛先は・・・リューヴィスのようで。)
(・・・ウインドとダークH、直ぐにこちらに来てくれ、人手がいる。)
((了解!))
大都会での警護活動に徹していた2人を召喚する。既に異世界惑星にはデュヴィジェ達がいるので、転送装置での移動は容易である。力の出し惜しみなどしていられない。
(姉貴、どんな流れか予想が付いているので?)
(弱みの横槍となれば・・・これだから野郎は・・・。)
(はぁ・・・。)
思い付いた予想を思い、吐き捨てるように呟いた。それに一際呆れるテューシャ。エリシェやラフィナも同じく呆れる雰囲気を放っている。だが、それは同時に当たっていると言っているようなものだ。
商業都市への横槍は、その流れは大凡見当が付く。相手側も情報網が発達しているのなら、ここの急激な成長を見逃す筈がない。特に男尊女卑が根強い異世界惑星なら、自分達の力を脅かす存在を許す事もない。
これは、トラガンの女性陣が全く同じだった。そこに辿り着いた彼女達は、その誰もが社会で結構な実力を得たり、生まれ付き能力が高い人物達ばかり。その彼女達を疎んじた野郎が取った行動が、数多くの虐待となる。
今の地球は女性の力が遥かに強くなっている。俺達警護者サイドが女性中心になったため、地球全体が女性力を認めざろう得ない状態になった。5大宇宙種族も9割以上が女性である。彼女達が後押しして、今の女尊男卑の世上に至ったのだ。
だがそれは、決して男性を貶したり追い遣ったりというものではない。過去より見下されていた流れが変わっただけだ。むしろ、世上の全てを見渡す千里眼を持つため、女性の意見ほど力強いものはない。身内の女性陣を見れば一目瞭然である。
この異世界惑星は、今の地球とは真逆の様相である。リューヴィスの女性陣を見れば、一目瞭然と言える。その様相が覆りつつあるのだ、横槍を入れて来ない筈がない。
(・・・ここの女性陣に真実を語ったら、俺は殺されるかも知れないわな・・・。)
(んー・・・その場合は、私も付き合うわよ。君がそこまで思ってくれているなら、性別が“無性”の私も付き合わないと失礼だし。)
(アハハッ、例の論理ですか。Tさんからそれを伺った時、呆れるも感心しましたよ。)
(どちらでもない、わぅね!)
彼女が語るそれは、過去にシルフィアに対して言った内容への返しだ。実際には女性だが、ハッタリ的に無性と言い切った事がある。つまり、“くだらない事”を聞くんじゃない、だ。
(あの時はまあ・・・まだ異性に対して色々と思ってたからの。)
(強かな心なんか直ぐに読めたからねぇ。だからこその“無性”返しよね。)
(ハハッ、本当に感謝してます。)
その言葉の本質を知れた今、とにかく感謝しか思い浮かばない。故に、今の俺の気質に至ったのだから。過去があり今がある、本当にそう思う。
暫くすると、俺の傍らにウインドとダークHが転送移動してくる。地球ではその様相を目撃された場合、流石にドエラい事になる。しかし流石は異世界、転送移動を目撃した女性陣は小さく驚くも気に止めていない。
改めて、この異世界惑星が、ファンタジー世界観が根付く所だと痛感させられた。現実世界の住人の俺にとっては、そのどれもに驚かされるばかりである。
(マスター、どうされますか?)
(俺はこのまま、ここに鎮座し続ける。お前さん達は、全ての女性陣に交戦状態に移行する可能性が高いと伝えて回ってくれ。)
(了解。)
俺の指令を実行しだすウインドとダークH。リューヴィスの女性陣には驚かれるのを考慮して、今後も会話を念話で続ける。要らぬ混乱は招きたくない。
(・・・小父様、メカドッグ嬢達から連絡が。商業都市に接近する部隊ありと。)
(ちょっと早くないですか・・・。)
(アーシスト(スミエ姉御が言った出撃のそれは、恐らく伝令者かもね。それが先に部隊へと連絡し、王城に報告する頃には本体が動きだした後という流れだろうし。))
(・・・ミスTさんが自己嫌悪に陥るのが分かるわね。)
(同調者が増えてくれて有難いわ。)
皮肉を込めて語ると、苦笑する一同。本来なら間違った思いなのだろうが、その現状などを窺えば、否が応でもそこに至ってしまう。俺の場合は、それが周りより多いだけである。
(戦闘になった場合、どうします?)
(規模によっては、予め避難させないと危ないですよ。)
(先読み的ではなかったが、今までの修行でメンタル面の強化は至っている。殺人的な行為でなければ、動じないとは思う。)
(了解です。皆さん方を信じて、不測の事態に備えます。)
今現在は、リューヴィスの女性陣は非戦闘員だが、メンタル面の強化はなされていると思う。言い方は悪いが、怖じたりはしないだろう。それに、今後は更に強くなって貰わないと、色々と厳しい。
それに、仮にバリアとシールドの防御機構で守れるとしても、精神面や魔力面の波動だけは防ぐ事ができない。人間の弱みに対しては、己自身で何とかしていくしかない。彼女達の底力を最大限発揮させねば、今後も連中に付け狙われるのは目に見えている。
周りに悟られるかも知れないが、それでも思ってしまう。本当に人間を守る意味があるのかどうかと。ここまで私利私欲を貪り、多種族を絶滅にまで追い込む罪深き種族を。本当の安穏を最短で求めるなら、人類自体を抹殺すれば確実に達成できる。
しかし、それは行き過ぎた考え、間違った行動そのもの。これも何度も諭されているが、それでもこの様相を突き付けられれば、否が応でも考えざろう得ない。
(・・・お主は、本当にそうして自己嫌悪に陥り易いのだな。)
突然の念話に驚く。それは魔大陸に戻った魔王イザリアからのものだった。彼女自身、宇宙種族なので、念話が使えてもおかしくはない。
(驚いた・・・お前さんか、元気そうだの。)
(はぐらかさないで貰いたい。お主のその一念は、限りなくマイナスに至る。周りの面々が危惧するように、その行き先は破滅そのものだ。)
怒りの雰囲気は出ていないが、相当苛立っているのが感じられる。エリシェとラフィナが、愚痴を聞いた時の初めての応対に近い。それだけ、心配してくれているとも取れる。
(まあまあ、そう仰らないで下さい。イザリア様の思われる思いは、何度も味わってきていますので。このぐらいで反論されては、本当に身と心が持ちませんよ。)
(小父様のその一念には、確かに呆れますけどね。それでも、本当の根幹は据わっていますし。同じ一族同士なら、その部分を感じられていると思います。)
(・・・すみません、少し熱くなり過ぎました。)
冷静なようで熱くなる、か。デュヴィジェと同じデュネセア一族のイザリアだが、実に人間味溢れる言動をしている。そう、壁を作らず真っ向から対峙してくれるその姿勢だ。
(むぬっ? イザリアちゃんは、デュヴィジェちゃんと同じ血を引く姉妹わぅ?)
(いえ、同じデュネセア一族ですが、血は繋がっていません。他のお姉様方も同じで、一族は同じでも血筋が同じではありませんし。)
(貴方が・・・覇王デュヴィジェ様・・・。本当に光栄です、初めてお会いできました。)
(覇王ねぇ・・・。)
デュヴィジェの素性を知ったイザリアが、今まで見た事がない雰囲気を放っている。同じ一族のトップたる存在に、初めて出逢った感じだろう。確かに以前、彼女は一族の下っ端だと言っていた。
(ぬぅーん、不思議わぅ。デュヴィジェちゃんの幼少期に面倒を見たTちゃんが、実年齢では遥かに小僧的な部分がわけわかめわぅ。)
(宇宙種族は、人間種族の時間と空間が全く異なりますからね。イザリア様が数万年前にこの異世界に降り立つも、地球ではたった数年前になりますし。)
(補足ですが、ここと地球との時間の流れはかなり異なりますよ。マスターがこの世界に到来してから4ヶ月が経過していますが、地球ではまだ4日程度です。)
(はぁ?! 待った・・・まだ4日も経ってないのか?!)
(はい。ここでの1年は、地球での12日ですね。)
(ぬぅーん! 正に浦島太郎状態わぅ!)
開いた口が塞がらない・・・。地球から異世界惑星に召喚されて4ヶ月ぐらい経過したが、地球ではまだ4日しか経過していないというのだ。一体どんな仕様なのか、変な興味が湧いて来るわ・・・。
(私達宇宙種族は、時間と空間を超越する術を持っています。遥か永劫の流れを生きる存在でも。イザリア様方は、その途方もない年月を使い、この世界の調停者と裁定者を演じていらっしゃった。本当に凄い事ですよ。)
(そんな・・・烏滸がましい限りです。仮にも宇宙種族の端くれ、目の前の課題を乗り越えねば意味がありません。これはデュネセア一族の指針でもあります。)
(宇宙種族の総意の指針ですよ。まあ、マスターが所属の警護者も同じ概念ですけど。)
サラッと語る内容だが、宇宙種族の彼女達にとっては相当な覚悟とも言える。それは、俺達が所属する警護者にも通じる概念だ。不思議な縁だが、俺は宇宙種族と同じ生き方をして来たと言える。
(とにかく、魔王役を徹底してくれているイザリアさんを困らせない事ね。君の要らぬ右往左往は、私達にとっても苦痛の何ものでもない。周りを支えたいと思うなら、以後は可能な限り抑えなさい、分かった?)
(仰る通りに致します・・・。)
念話を通して、凄まじい一念を放つシルフィア。殺気と闘気でもない、正真正銘の一念だ。恐々しさではなく、純粋な戒めの一撃。それに、心から感謝するしかない。
第10話・4へ続く。




