第10話 守るべきもの2(通常版)
(何ですか、“重装甲飛行戦艦”を出して威圧しますか?)
(心中読みどうも・・・。)
(はぁ・・・貴方は周りを過大評価し過ぎと同時に、ご自身を過小評価し過ぎです。あの様な力を持っているのですから、もっと自信を持って下さい。)
(俺の性格上、自信を持ちだすと奢りだすから止めてる。)
吐き捨てるようにボヤいた。この部分は何度となく苦しめられているもので、それ以降は己自身に過剰な自信を持たせる事は一切しなくなった。同時に、力があればどんな事にでも使うと決めたのだから。
(マスターが何処か自信がなさそうに見えたのは、奢りを防ぐためのものだったと。)
(ランク制度が一番それよ。そんなものがなくとも、実力で覆せば良いだけの事だ。所詮は実力主義、最後は己の力がモノを言ってくる。)
(とは言いますが、その考えだと一歩間違うと破滅へと進みますけどね。)
(天下無双ちゃんが良い例わぅ。)
突然介入してくるミツキの一念。近場にナツミAとシルフィアがいるのが感じられた。それは完全武装を意味している。
(娘達に指令を出しています、次の転送は三女神を送るようにと。)
(おういえい♪)
(これだけ待たされたのですから、次からは大暴れしますよ。)
(それに、喫緊の問題からして、商業都市に向かった方が良さそうだし。)
(愚物共を黙らすには、実力で叩き潰す、これに限りますよ。)
遊び雰囲気丸出しの3人だが、先を見据えた部分には危機感を募らせている。特に商業都市への防備を挙げた事は、それだけ近々事変が起こる事を意味している。
(Tさんの過去話を聞いた後なので、リューヴィスへの介入は絶対にあると確信してました。二度と同じ人物を出さないと言う一念、それが警護者の行動を決定付けた要因ですし。)
(ああ、あの流れか・・・。)
(記憶を失っても、その生き様は変わる事がなかったからねぇ。個人の執念と信念こそ、最強の力の1つよね。)
一服しながら当時を思った。黒いモヤ事変後に一同で集まった時、俺の過去話をした事がある。アレが俺を決定付けたとも言い切れる。まあ、今は舞い戻って活躍中だが。
(記憶を失っても、その生き様を変える事はない、と。航空機事変が正にそれでしょうね。己の生命を犠牲にする覚悟で、皆様方を救われた。その代償に記憶喪失に至った。)
(そんな事があったのですか・・・。)
ミツキTを看取った後の航空機事変、その様相を伺って絶句する妹達。身内側はその様相を知っているが、妹達は今知った事になる。
ミツキTが逝去後、とある護衛任務に着いた事がある。その時、搭乗した航空機内での事変がそれになる。凄腕の警護者が出揃っており、俺達を殺そうとしていたテロリストは捕縛。しかし、連中は時限爆弾的に航空機の燃料を投棄し、機体自体を墜落させようとしてきた。
当時俺はミツキTの影響で、シューティングゲームをプレイした事があった。先程挙がった“重装甲飛行戦艦”の元ネタである。その応用で、何とか墜落させないように操縦を試みた。航空機自体は墜落したが、搭乗員は全員軽傷で済んだのだ。俺以外は・・・。
そう、その時に頭を強打して昏睡状態になり、それが切っ掛けで記憶喪失に至ったのだ。
(ヘシュナさんやデュヴィジェさんの力で、当時の様相は窺い知れた。だが、知っただけで今も当時を思い出す事はできない。でも、ミツキTさんが逝去した時の苦痛は、今でも確かに覚えている。)
(それが、今の行動理念になっているのですか・・・。)
(絶対不動の原点回帰だからな。)
大きな傷を負った事により、今の俺自身に至ったというのは、実に皮肉な話だわ。しかし、それにより支えられる存在、救える人物ができたのは非常に幸運だ。それを踏まえれば、俺の記憶など安い投資である。
(投資、ですか・・・。)
(事実だろうに。俺如きの生命で周りを支えられ、救えるのなら安いものだ。それに、警護者自体が戦闘兵器、殺人マシーンそのものだ。真逆の属性の行動ができ、それが許されるのなら、俺はどんな行動でもしてやる。この意志だけは絶対に曲げん。)
(はぁ・・・何処までも自身に厳しいですよね。)
(自己嫌悪とは違いますが、ご自身を雑に扱い過ぎますよ。)
(一向に構わんよ。リューヴィスの彼女達を見れば、否が応でも己を殺したくなるしな。)
今も活発に動くリューヴィスの女性陣。先日までの絶望的な様相を思いだし、怒りと憎しみが湧き上がってくる。特にその憎しみの一念は、同性の自分自身も含まれる。
(何と言うか、見事と言うか。まあ、Tさんの生き様は覆る事はないので、戒める程度にしておきます。根底の一念がブレていなければ、上辺の右往左往は糧になりますし。)
(目の前の出来事よりも、遥か未来の流れを読め、よね。Tさんはそれを常に実践している状態だし。)
(まあでも、行き過ぎた考えは抑えた方が良いけどねぇ。余り皆さんを困らせない事。でないと・・・トンでもない事になるから気を付けてね。)
恒例の戒めの一撃が飛んでくる。この世のものとは思えない殺気と闘気が念話を通し、俺に襲い掛かってくる。それを感じた妹達は、顔を青褪めて驚愕していた。身内も恐怖に慄いた表情を浮かべている。
(まあまあ、そのぐらいにしてあげて下さいな。)
(師匠は彼に甘過ぎです。だから、この様な事になるのですよ。)
(んー、でも貴方に同じ事が降り掛かったらどうします?)
(それはもう・・・相手には地獄を見せますけどね・・・。)
更に強烈な一撃が飛んでくる。俺より甘くはないのだと、殺気と闘気の度合いで語ってきた。それに周りはより一層、顔を青褪めて震え上がっている。
(・・・まあ何だ、それでも俺は生き様を曲げんよ。)
(ですよねぇ~。)
(ウッシッシッ♪)
(はぁ・・・この絶対不動の原点回帰は化け物よねぇ・・・。)
最後は殺気と闘気が止み、呆れの雰囲気が色濃く出てくる。恒例ながらのこの様相は、地球でも何度も振り返っていたものだ。
何度も振り返るが、結局最後は己自身がどうあるべきか、ここに至る。上辺ではどんなに藻掻き苦しもうが、胸中の生命には既に決まった一念がある。それだけでいい。上辺の右往左往は人間の業、これだけは避けられないのだから。
誰彼がどうこうじゃない、自分自身がどうあるべきか、それが重要だ。
(“冒険”を関した艦船の名前が主人公・・・むぐっ?!)
(はぁ・・・相変わらずよね。)
(“両腕義手の代筆人”が主人公・・・もがっ?!)
(はぁ・・・。)
こちらが溜め息を付きたいわ・・・。しかし、元ネタを知っている身内は、堪え切れずに笑っている。更には、元ネタを知らずとも、彼女のボケに否が応でも笑ってしまう妹達。
(両者とも、最後に帰結するは守るべきもの、だな。)
(フフッ、本当ですよね。貴方にも通ずる、大切な原点でも。)
(そうだな。)
(お2人とも、声優さんも同じですよ。)
(何とも・・・。)
本当にそう思う。元ネタの2人の主人公が回帰する所は、全く同じものでもある。その生き様は違えど、目指すべき道は同じなのだ。むしろ、フィクション作品であろうが、彼女達の一念には心から肖りたい。
(・・・何だか、呆れを通り越して羨ましいです。そこまで、己自身と対峙できる事に。)
(私達の場合・・・下手をしたら、そこから抜け出せなくなりそうです。)
(難しく考え過ぎですよ。ご自身の信じる道を進む、それが最善の策なのですから。)
圧倒され続けている妹達に、優しく語り掛けるミツキT。念話を通してのもの故に、そこには心からの一念が込められている。目の前で両手を包まれ、語り掛けられるかのように・・・。
第10話・3へ続く。




