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覆面の探索者 ~己が生き様を貫く者~  作者: バガボンド
第1部 異世界の旅路
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第9話 妙技を使う3(通常版)

 荷馬車を壁門近くに停車させ、徐に同車を降りる。マデュース改は空間倉庫に収納中で、獲物は携帯状態にしてある。言わば、丸腰の状態に近い。そのまま、商業都市の奥へと歩みを進めた。


 先ずは情報収集といきたかったが、近場で蹲る女性達の安否を確認していく。その誰もが傷を追っており、表情が死人の様相だ。その目は、絶望の色を醸し出している。


 その時、この場にいる傷付いた女性陣の姿に、逝去直前のミツキTの姿がダブりだした。あの時は、為す術無く彼女を失ってしまった。しかし、今は女性陣を救える力がここにある。ならば・・・何振り構っている時ではない。


「お話を伺っていましたが・・・ここまでとは・・・。」

「・・・今から自分が行う行動は、偽善者かも知れないが・・・。」


 小さく呟きつつ、目の前の傷付いた女性に右手を掲げる。カルダオス一族の女王ヘシュナが目覚めた能力、身体完全回復と治癒の力を繰り出した。これも各ペンダント効果が成せる技の1つである。


 この能力は、ファンタジー世界観にある回復魔法や治癒魔法とは異なる。ヘシュナ曰く、生命の次元から揺さ振るため、遺伝子レベルからの治療が可能との事だ。過去に陽動作戦で、右肩と右腕を撃ち抜かれた事があったが、それを見事なまでに治癒してくれた事がある。


 目の前の傷付いた女性の全ての傷が、見る見るうちに回復していく。自身の傷が消え失せていく様相に驚きの表情を浮かべている。その彼女の頭を優しく撫でた。


 その後も、目に留まる傷付いた女性を治療して回る。外面的な傷は全て残さない、それを念頭にいれつつ、今は最善の策を繰り返し続けた。




 どれぐらい治療して回っただろうか。既に日は暮れて、辺りは暗闇に覆われている。妹達がランタンなどの光源を用意してくれており、その中での治療を繰り返し続けた。


 治療した女性達の絶望に溢れていた表情が、“半分だけ”希望に満ち溢れた表情に変わっている。それに感化されたのか、暗かった妹達の表情も明るくなっている。しかし、それでは本当の笑顔とは言えない・・・。


「自警団の方々に伺いましたが、全ての方々への治療が終わったみたいです。」

「・・・すまんな、色々と調べてくれて。」


 俺が治療して回っている行動に、商業都市の自警団が関知して来る。すると、都市内の全ての傷付いた女性陣を調べるように、妹達が根回しをしてくれたようだ。俺は妹達と自警団に案内されつつ、治療に回る感じであった。


「・・・今の自分には、このぐらいしかできないが・・・。」

「十分過ぎるものですよ。皆様方に伺った所、“外面的な傷”は全て治癒したそうです。」

「・・・まさかとは思うが、暴行の極みたる痕跡も、か?」


 話したい内容の意図を察知したようで、静かに頷くアクリスとジェイニー。そこまでの治癒能力があるとは驚きだ・・・。


 確かに、“意図的に与えられた傷”であれば、ヘシュナの力なら治癒可能だと挙げてきた。“自らが望んで得た傷”の場合は、その限りではないとも。つまり、脳内の記憶の次元から、治療すべき箇所を特定したとも言える。


「・・・野郎の自分からして、女性の不可侵領域に触れた訳か・・・。」

「貴方様、そこには私利私欲がお有りですか?」


 凄まじいまでの表情で俺を見入る彼女。今までに見せた事がないものだ。その彼女を押し留めるエメリナとフューリス。


「どんな形であれ、貴方様は皆様方を治療された。そして、その過程において本来の姿に戻す事もできた、それで良いではないですか。」

「・・・そうだな。」

「だから、自分を卑下しないで下さい。貴方様は無意識に行動をなされた。それが唯一の真実です。」


 真剣な表情ながらも、涙を流しつつ語る彼女。ここまでの雰囲気からして、過去にあった事を推測させる。しかし、それこそ不可侵領域であり、触れてはならないものだ。


「ヘシュナ様のお力は、回復魔法などの意味合いではなく、遺伝子レベルで元の姿に戻す事をしているという事ですね。しかも、脳内の記憶も考慮しての治療と。」

「回復魔法や治療魔法の類ではなく、元の姿に戻すと?」

「そうです。」


 改めて思い知らされる、5大宇宙種族の力。治療もできれば破壊もできる。正に万能の力と言い切れる。そして、その応用度は未知であり計り知れない。


「・・・お前さん達から、この商業都市の様相を聞いてから、我武者羅に動いていた感じがしてならない。」

「でしょうね。小母様の気迫が、並々ならぬものになっていたのを痛感しました。どんな力を用いようが、助け抜くのだという執念と信念も。」

「・・・身内に何と言われるか、恐ろしくなってきたわ・・・。」


 落ち着きを取り戻して来た頃に、自分が無意識に動いていた事を痛感させられた。自然的に、まともだと思っていたのが、実は暴走状態であったという事である。すると、再度凄まじい表情で睨んでくるテューシャ。その彼女に申し訳ないと頭を下げた。


 全ての治療を終えたのは、商業都市に到着してから数時間後、深夜を回った頃になった。現状からして、全ての女性を治療して回れた感じである。野郎の俺には本当に烏滸がましい行為だったが、今の俺にはこのぐらいしかできなかった。




 夜が明けてから、治療をした女性達を再度見て回った。絶望の表情しか浮かべていなかった彼女達が、今では活力ある表情を浮かべている。しかし、本当の治療はここからだ。


 トラガンの女性陣の時でもそうだった。彼女達は心に痛烈なまでの深い傷を負っており、それが癒えるまで数年は掛かった。話に聞く限り、リューヴィスにいる女性陣は相当な虐待を受けてきたと思える。時間は掛かるだろうが、その傷を少しでも癒せれば幸いだ。


 妹達は率先して彼女達の心のケアに尽力している。妹達も過去に何らかの虐待を受けた様子であり、目の前の人物を癒したいという一念が強く感じる事ができた。彼女達と初めて逢った時の、ゴブリン共への憎しみの表情。それはここに由来するのだろうな。


「お疲れ様でした。」

「・・・ああ、すまない。」


 酒場の前の露天テーブル、そこにあるに椅子に腰を下ろす。妹達や3人は睡眠を取ったが、俺とミツキTは寝ずに都市内を回って歩いた。この不眠の様相だが、ペンダント効果による睡眠欲無効化状態である。後でとんでもない睡魔に襲われる事になるが・・・。


「あの・・・昨日は本当に申し訳ありませんでした・・・。」

「ああ、例の戒めか、気にしなさんな。エリシェさんやラフィナさんにも、同じ様な戒めを受けている。ああやって、自己嫌悪に陥るのが俺だからの。」

「そ・・そうでしたね・・・。」


 自身の行動が、エリシェとラフィナのそれと同じであった事に気が付いたテューシャ。その瞬間の戒めは、時と場合では無意識レベルでのものになる。後で過剰な行為だったと気付くのだが、言われた側は殆どが助かる事が多い。


「・・・宇宙種族の治癒能力、回復魔法や治癒魔法の比ではないレベルと。」

「ヘシュナさんが言うには、生命体の遺伝子レベルから治療するとの事らしい。遺伝子に記録されている、限りなく近く元の状態に戻すと。」

「魔法の概念は、その場での上辺的な治療ですからね。恐らくですが、その治癒能力は、身体の欠損すらも治療できると思います。」

「あー、ミュティナさんのアレか・・・。」


 彼女の言葉に、過去の事を思い出した。当時は強烈な印象を受けたが・・・。


 ミュティ・シスターズが次女ミュティナ。彼女がこの治癒力の力を見せるため、自らの腕を切り落とした事がある・・・。しかし、彼女の自己再生能力もあり、治癒能力も重なって腕の再生となったのだ。もはや人外レベルの話である・・・。


「身内にも言ったが、俺達警護者の戦闘力は、この異世界惑星で真価を発揮するのかもな。ホームベースたる地球では、有り得ない力になる。」

「それでも、こうして皆様方を治療できたのは、貴方様がいたからこそですよ。当時の様相があったからこそ、ここに至ったと思いますし。」

「・・・切っ掛けは些細な事から始まるからな・・・。」


 本当にそう思う。何気ない行動から、大きく開花していく様を何度も見てきた。その結果により幸か不幸かはさておき、行動する事にこそ意味がある。机上の空論では意味がない。


「魔王イザリア様に感謝ですよね。」

「あー、彼女が俺を召喚してくれたからか。まあ、淵源は黒いモヤ事変なんだがね。」


 実に不思議な縁である。イザリアの言い分では、こちらを探知できたのは、黒いモヤを消滅させたあの事変がそれであると。つまり、地球での全ての行動には意味があったのだと心から思い知らされた。


「・・・俺の目が黒いうちは、可能な限り悲惨や不幸なんざ出させない。ありとあらゆる力を使ってでも阻止に走り抜くわ。」

「・・・ありがとうございます。」


 再度振り返る、己の生き様。それに笑顔で頷く彼女に、心から癒される感じである。


 王城から勇者の啓示を受けただけはある。テューシャの場合は賢者の啓示だが、勇ましい者には変わりない。昨日、俺を戒めてくれた厚意も、正に勇ましい者そのものだった。それを自然に繰り出すエリシェとラフィナも、勇ましい者なのだろうな。


 俺の生き様を通し、目の前の悲惨や不幸を可能な限り取り除いていく。全ては今後の俺次第という事になる。頑張らねばな・・・。


    第9話・4へ続く。

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