第9話 妙技を使う2(通常版)
「・・・それが、奥の手の1つですか・・・。」
妹達の絶句する表情が何とも言えない。その理由は、今の俺の姿だ。傍らにいるミツキTはニヤニヤしっ放しであるが・・・。
出発前にオルドラが挙げた問題点、それは商業都市の状態である。何と男子禁制の乙女の花園らしいのだ。ネルビア達がレディガードと名乗りだした切っ掛けも、このリューヴィスの運営体制によるものとの事。実際に彼女達はここに訪れた事があるらしい。
現地の様相を伺った時は驚いたが、地球でのトラガンの様相と酷使している点に、悪いと思うも笑ってしまった。そこで、同場所に潜入捜査をした時に使った戦術を使う事にした。そう、性転換の技だ。
「何時見ても惚れ惚れしますよ、“ミスT”小母様。」
「トラウマの1つなんだからやめれ・・・。」
ニヤケ顔でニヤニヤしっ放しのミツキT。完全に弄ばれている・・・。それに、身内は全員この姿を知っているため、念話やら何やらでニヤニヤな様相を感じずにはいられない。ただ、妹達の方は絶句しっ放しであるが・・・。
「あー・・・どう接すれば良いのか・・・。」
「何時も通りで良いんじゃないのか。」
「と・・とは言いますが・・・。」
どうやら、女性状態の俺にどう接してよいか分からないようだ。これは過去に、身内も同じ対応をしていたのが懐かしい思い出である。まあ、ミツキ達は直ぐに慣れ、以後は茶化しの連続となったが・・・。
「まあ何だ、これなら商業都市にも問題なく入れるだろう。」
「それで入れない場合・・・私達も無理じゃないですかね・・・。」
「んー・・・俺より遥かに美人なお前さん達がか?」
態とらしくニヤケ顔で茶化してみる。すると、反論するどころか、顔を真っ赤にして俯いてしまった。これが野郎の時だと、間違いなく殺気に満ちた目線で睨まれそうだが。
「どんなに見繕ったって、俺は野郎の域から出る事はできない。性転換力を使おうが、生粋の女性たるお前さん達には絶対に敵わないしな。」
「ですが・・・何と言うか、気質的な部分だと私達よりも女性っぽいのですけど・・・。」
「ああ、それは女性の姿でいる時が長かったからの。」
徐に一服しながら、性転換状態の姿が長かった件を語りだした。それに興味津々に聞き耳を立てだす妹達。
先の黒いモヤ事変では、カルテット・キャノンが決め手となった。しかし、それは俺自身が男性では成し得ていない。最後の戦いが発覚しだした頃、性転換ペンダントが自ら効力を発揮して、俺を女性へと変化させたのだ。以後は黒いモヤ事変が終わるまで、永延と女性の姿でいる事になる。
アクリスが俺を女性らしいと語ったのは、その期間が半年以上も性転換状態でいたからだ。これは、身内からも同じ事を言われている。特に女性陣からは、最初から女性の俺が当たり前だったのだと言ってくる。
そもそも、生命体の素性の性別は女性らしい。そこに突然変異的な要素が加わり、男性へと変化するとの事だ。“X・X”の女性と、“X・Y”の男性の様相である。言わば、野郎は突然変異で至る性別であり、悪い言い方では出来損ないそのものだ。それを踏まえれば、女性が根本的に強い理由が痛感させられる。
野郎の俺が、性転換状態でこの理を知る事となったのだから、実に皮肉な回帰であろうな。
「この姿になって、本当に女性が偉大だと痛感させられてる。新しい生命を産み育て、次の世代へと繋げていく。対して野郎は、破壊と混沌しか生み出さない。数多くの戦乱も、その大多数は野郎が引き起こしているしな。」
「偶に、女性が引き起こす場合もありますけどね。」
「ほぼ野郎が淵源よ、女性と子供が泣かされる事が数多い。これだから男は・・・。」
再度一服しながら、吐き捨てるようにボヤく。最後の一言は、恩師シルフィアの名言だ。俺によく言ってくる言葉だが、それが今は痛烈なまでに理解できる。
「でも・・・貴方は男性ながらも、女性の痛みを知っていらっしゃいます。私達を助けてくれる姿勢から、それを痛感しますし。」
「そうですよ。だから、自己嫌悪はなさらないで下さい。」
「・・・ありがとう。」
まるで同性に語るかの様な雰囲気の妹達。今は女性状態の俺であるから、そこに姉がいるかの様に語るのだろう。身内も同じ雰囲気になると言っていた。
「ちなみにですが・・・女性特有の痛みも出るのですか?」
「あー・・・。」
メラエアの言葉に、それなりに起こった痛みを振り返る。それは、どれも野郎の俺には筆舌し尽くし難い痛撃で、とてもじゃないが耐えられるものではなかった・・・。
「す・・すみません・・・相当キツかったようで・・・。」
「・・・お前さん達の方が、遥かに偉大だと分かって貰えればね・・・。」
身体が震えだしている事に気が付く。それに慌ててフォローをしてくれる妹達。彼女達も相応の経験をしているからか、それがどんな苦痛なのかを知っている故のものだろう。俺には到底理解できる領域と概念ではないが・・・。
「フフッ、そこまで女性の概念を知れているなら、申し分ないと思いますよ。お嬢様方も女性の痛みを知っていらっしゃる。小母様も全く同じです。だからこそ、そこまで女性を演じる事ができるのですから。」
「演じる、か・・・。それこそ、本当の女性に対して、烏滸がましい事この上ないがの。」
本当にそう思う。生まれてこの方野郎である俺には、性転換ペンダント効果がなければ絶対に理解できない領域だ。その一端を知れたとしても、本当の痛みには程遠い。
「本当に優しいのですね・・・。そこまで女性の事を思ってくれているとは・・・。」
「そうでもしないとな・・・身内に何と言われるやら・・・。」
考えただけで恐ろしい・・・。そこまで長期間、性転換状態になっても何も学んでいないと一蹴されそうで怖い・・・。身内の大多数が女性であるため、この点を把握しないと大変な事になりかねない・・・。
「まあ何だ、女性状態になろうが、俺は俺の生き様を貫くだけだがね。」
「小母様、その話し方をそろそろ変えた方が良いかと。」
「・・・失礼しましたの。まあでも、この女性の姿になろうが、私は私の生き様を貫くだけですの。」
彼女に指摘され、女性言葉で言い返す。某ゲームで有名な、吸血鬼姫の語末を用いた独特の言い回しである。それを聞いたミツキTは爆笑だし、釣られて妹達も爆笑しだした。それだけインパクトがある証拠である。俺としては、遣る瀬無い気分で一杯だが・・・。
とりあえず、身内にも妹達にも太鼓判を押された性転換状態。これなら、男子禁制とされる商業都市への入場は問題ないだろう。一応・・・。
数時間後、商業都市リューヴィスに到着。流石は女性の花園と言われるだけあり、他の都市よりも各段に防備が厚い。幸いにも、女性の状態の俺は問題視されないようである。しかし、何故に男子禁制に至ったのか。ここを探る必要があるかも知れない。
荷馬車ごと都市内へ入れたのだが、内部を窺って驚愕した。それは、余りにも劣悪な環境だったからだ。妹達も黙ったままでいる。そして、何故ここが男子禁制に至ったのかを、今の俺自身の状態からして、文字通り身を以て思い知った。
「・・・淵源は野郎から逃れるため、か・・・。」
「はい・・・。」
「一部で花の都と揶揄されるも、実際には男性に虐待などを受けた女性達が辿り着いた、最後の砦です・・・。」
カネッドの話を聞き、怒りが湧き上がってくる。当事者の野郎共もそうだが、俺も1人の野郎なのだと思い知らされた。性転換ペンダントで形作ったところで、本当の自身を変える事はできないのも思い知らされる。
「貴方は絶対に違いますよ。そうして、まるで我が事の様に怒ってくれるではないですか。同じだと言う方がいたら、絶対に違うと言い切ります。」
「心構えの時点で、雲泥の差そのものですよ。」
心配するなと訴えてくる妹達。それに心から頭を下げた。俺の今までの行動を見て来てくれた何よりの証だ。本当に感謝に堪えない。
「ちなみに、私達もここに住んでいた事があります。」
「孤児院があるのか。」
「正確にはあった、ですが。」
妹達が静かに語り出す。辛そうな表情だが、今は内情を知らねば意味がない。
10人が物心付いた頃、リューヴィスの孤児院で過ごしていたと言う。今はカルーティアスに移築したが、幼少期の頃を過ごして来たのはこことの事だ。何故廃園になったのかは、王城が絡んでいるらしい。
過去に一時的だが、商業都市は隆盛を極めていたが、男性に虐待を受けた女性を招く事により、都市としての質が低下したらしい。ただ、それは男性や私利私欲を貪るカス共からの視点であり、女性からすれば正に花の都となっていた。
孤児院もそうらしく、かつてはその名に相応しくないほどの名家的な感じに至ったとの事。丁度妹達が過ごしていた頃らしい。それらに横槍を入れだしたのが王城との事だ。
「ここで育った女性達が、シュリーベルやデハラード、遠方の造船都市へ進出し、劇的な活躍をしだしたのが気に食わなかったようで。」
「王城は男尊女卑が根付いているので、正に目の上の瘤だったと思われます。」
「・・・何時の時代も、野郎はカス共ばかりだな・・・。」
淡々と語るその内容に、再び怒りが湧き上がってくる。この様相は、地球でのトラガンの女性陣と全く同じだ。怒りが湧かない方がおかしい。
「・・・私的な解釈なのですが、恐らくミスターT様が現状を打開すると思われます。」
「男性ながらも、まるで女性の如く振る舞われるその姿は、ある意味女性らしいと言い切れますし。」
「・・・トラガンの女性陣に、心から感謝しないとな。」
徐に一服をしつつ天を仰ぐ。トラガンへの潜入捜査を経て、今の俺の境涯に至っている。彼女達が俺を育ててくれたとも言ってもいい。もし、リューヴィスの現状改善に一役買えるなら、そこにはトラガンの女性陣の一念があると言い切れる。
「・・・ミツキTさん、地球から彼女達を呼べないか?」
「フフッ、既に手配済みですよ。何時でもこちらに呼べます。」
現状打開策には、トラガンの女性陣の力がいる。それをミツキTに述べると、何と既に手配済みらしい。
そう言えば、ここの様相は既に彼女は知っているらしく、ヘシュナを通して行動を取っていると言っていた。出逢った頃のトラガンの女性陣は弱々しかったが、今では一騎当千の女傑達にまで至っている。凄腕の警護者であり、独立戦闘部隊でもある。
その彼女達の力を以てすれば、商業都市の現状改善に一役買えるだろう。同じ境遇を経ている者同士、物凄い効果があると思われる。
「・・・何だか、現状改善とか、部外者の野郎の戯言に聞こえなくないがな。」
「ご冗談を。そこに私利私欲が絡んでいるなら論外ですが、貴方のその姿勢は本当の現状改善ですよ。例え今は憎まれようが、後に花の都へ戻るなら良いと思います。」
「兄貴の生き様は、男女問わず刺激を与えますからね。特に今は女性の状態。特効薬なのは間違いありませんぜ。」
カネッドの言葉を聞いて、ニヤッと笑いながら頷く妹達。その彼女達に深々と頭を下げた。本当に、真の女性は強いわな・・・。
「とりあえず、今後はどうします?」
「・・・作戦と言ったら大変失礼だが、行動すべき事は1つだけしかない。」
実際に何をするのかと尋ねる彼女達に、小さく微笑みながら語る。今は部外者たる自分に可能な行動は1つしかない。
第9話・3へ続く。




