第9話 妙技を使う1(通常版)
大都会カルーティアスで起きた事変。王城が絡んだそれは、もはや国家反逆罪に等しい。仮にも英雄と位置付けされた偽勇者共が、黒ローブ共と結託し襲撃を実行してきたからだ。しかも、現段階での魔王とされる、カースデビルまで召喚したのである。
これに反抗しだした俺達。妹達も大暴れするが、極め付けは裏で監視を続けていた女性魔王であろう。召喚するという演出で到来してくれた。しかも、イザリアという名の彼女は、何とデュヴィジェ達と同じデュネセア一族であった。
そして、彼女が俺をここへ召喚した理由も明確になった。先の黒いモヤ事変の鎮圧者を、この異世界惑星に召喚しようとしたのがそれらしい。同族か、それ相応の実力を持つ人物を望んでいたようだが、俺に白羽の矢が刺さったという事である。
彼女の力も借りて、大都会事変を鎮圧はできた。しかし、問題は山積みである。その中の1つとなる、権力者の横暴が何処で炸裂するか。今は静かに様子を見るしかなかった。
(そ・・そうか・・・やはり生きていたんだな・・・。)
大都会事変から数日後。念話により定期連絡を行う俺達。その中で挙がったのが、オルドラの娘の一件だ。それに感情を露わにして喜ぶ彼。
(ですが、避け難い事実もあります。お嬢様は我々と同じ宇宙種族、人間ではありません。どうやら、モヤに吸い込まれたというのは演出のようで、態と死んだと見せ掛けたとの事でした。)
(何だって良い、生きてさえいれば・・・。それに、宇宙種族だろうが関係ない・・・。確かに不思議な巡り逢わせだったが、彼女は俺の娘なのは間違いない・・・。)
(そうだな。)
涙ぐんでいた様相から一変し、気持ちを切り替えていくのを感じる。イザリアが、時が来たら娘ことイザネアを会わせるとも語っていた。ならば、先を見据えて動くしかない。
(ミスターT殿、本当にありがとう・・・。)
(礼なら、戻ってきた娘さんにしてあげてくれ。経緯はどうあれ、その行動には意味があったのは間違いないしな。)
(・・・ああ、分かった。)
もう大丈夫だと、雰囲気が物語っている。一念が据わった人物ほど、力強い者はいない。彼もその境地に至ったと思える。
(マスター、軍団の再編成なのですが。)
(以前挙げたプランで良いと思う、実行してくれ。)
(了解です。)
落ち着いた頃に切り出す彼女。既に次のプランを考えており、それの承諾を伺ってきた。今回からは、少々防御面を固めなければならなくなる。
(では、直ぐにでも三姉妹方とルビナ様をお送りしますね。)
(分かった。だが・・・ミツキさん達はどうしてる?)
(気分転換するのだと、アキバに赴かれました・・・。しかもコスプレで・・・。)
(ぶっ?! ハッハッハッ!)
何と言うかまあ・・・。一番こちらに来たがっていたミツキ達が、気分転換にと秋葉原か。それを聞いて爆笑してしまった。周りの面々も釣られて爆笑している。
(はぁ・・・ミツキ様の突拍子の言動には、本当に呆れるしかありませんよね・・・。)
(私達の常識は、一切通用しませんし・・・。)
(・・・これ、コスプレのまま来そうな気がするな・・・。)
俺のボヤきに十分有り得ると頷く一同。とにかく、インパクトがある行動をしたがるのが彼女である。赴く先が異世界惑星とあれば、十分やりかねない・・・。
(それと、お4方を飛ばした後、直ぐに私も駆け付けます。)
(司令塔はどうするんだ?)
(そこはご心配なく、娘達が担ってくれますので。)
(そうですか・・・。)
ついに、出番が到来といった雰囲気の彼女。娘達も娯楽に精通しており、今ではヲタク気質バリバリの女傑である。しかも、プログラミング関連もできるとあり、母のデュヴィジェに負けず劣らずの腕前を持つに至っている。
(まあ・・ウキウキ度はさておき、本格的に雲行きが怪しくなってきましたからね。私達の方も本気を出す準備をしませんと。)
(例の巨大兵装などは既に準備万端です。皆様方も、何時でも出撃できると意気込んでいる状態ですので。)
(実に皮肉な様相だわな。)
娯楽的な内容を止めて、本格的な内容を語り出す。確かに、今後の様相は非常に危ない感じに思えてくる。だが、今の身内には全く以て問題ない。
(ともあれ、シュリーベルとデハラードの防衛は全てお任せ下さい。カルーティアスの方は皮肉にも、王城自体が防衛をするでしょうし。)
(小父様方は、次の行動を開始して下さいな。)
(分かった。)
気質からして、本気モードになる身内。特にデュヴィジェやヘシュナ達宇宙種族が本気を出す場合、それは完全無欠を意味してくる。後方の憂いは確実に断ってくれる。
(マスター、次はどうされますか?)
(再び探索に走るか。ここから商業都市へは、どのぐらい掛かる?)
(ん? 商業都市か? カルーティアスから馬車で約1日だな。北西の方角にあるぞ。)
(流石は工業都市の市長、博識で助かるよ。)
先の魔王撃退の一件から、名誉市長にまで至ったオルドラ。実際には何もしていないのだが、エリシェやラフィナの計らいでそうしたらしい。悪い意味ではないが、権力とはこうした使い道もあったりはする。
エリシェとラフィナは、“権力の出し加減の触り”を把握していると言えるだろう。これはミツキとナツミAが十八番、“力の出し加減の触り”に近い。ありとあらゆる力を持つ存在が集い逢っているのが、俺達警護者軍団となる。
ちなみに、ヘシュナは“場力の出し加減の触り”を熟知している。エリシェとラフィナとトリオを組んだ際は、その属性からして無類の力を発揮するのは言うまでもない。
(ただ、問題があるが・・・。)
(ああ、確かに・・・。)
(・・・ほむ、その流れなら問題なく解決できますよ。)
懸念を挙げるオルドラとネルビア。それを念話で察知するヘシュナ。何だか嫌な予感がしてならないが、解決策があるなら挑むしかない。
後の話になるが、俺はこの時、その内容を伺うべきだったと後悔する事になる・・・。
下準備を終えて、商業都市リューヴィスへと向かう俺達。荷馬車は遠方のオルドラが手配してくれた。その理由は、全ての冒険者ギルドが信用できなくなったからだ。
先の大都市事変での流れからして、ギルドより要らぬ情報が王城に流れる恐れがあった。偽勇者共を野放しにしているのに加担しているのだ、信用できなくなるのは言うまでもない。ちなみに、工業都市の冒険者ギルドは、一切の汚職を断ち切っている。完全独立のギルド運営となっているとの事。オルドラとエリシェ達の実権によるものだ。
ミツキがエリシェ達を先に飛ばした理由が、ここで顕著になって現れだしている。権力的な力があれば、この異世界惑星で問題なく活動が可能になる。エリシェとラフィナの手腕なら、問題なく実権を握る事ができるしな。
ちなみに、シュリーベルの防衛はナセリスだけになっていたが、増援部隊としてギガンテス三姉妹とルビナを派遣した。ヘシュナはウインドとダークHと共に、カルーティアスの警視に当たっている。まるで異世界の警察官である。
デハラードはエリシェとラフィナがいるが、今では実務の覇者となったデュヴィジェが増援として向かった。地球での司令塔は、彼女の5人の娘達が担当してくれている。この場合、母のデュヴィジェが現地の司令塔となった感じだろう。
更に、ミツキTとメカドッグ嬢達を“元の姿”に戻した。最初は精神体での到来だったが、地球との相互移動が可能となった今は、機械兵士の筐体を運び入れた。某映画のサイボーグ筐体に似たそれで、人工皮膚を被せた様相は人そのものである。あの有名なテーマソングが聞こえてきそうで怖いが・・・。
それに、機械兵士の筐体こそ、ミツキTやメカドッグ嬢達の力を最大限発揮させる事が可能となる。メカ式ワンコの筐体もあり、そちらは機械兵士筐体にドッキングも可能だ。
何だかもう、地球での活動をそのまま異世界惑星に持ち込んだみたいで混乱してくるわ。しかし、今はこれら力を駆使せねば、愚物共にいいようにされるのは言うまでもない。力は使ってこそ真価を発揮する、それを実践する時は今なのだからな。
第9話・2へ続く。




