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覆面の探索者 ~己が生き様を貫く者~  作者: バガボンド
第1部 異世界の旅路
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第8話 魔王と愚者と4(通常版)

 諸々の後始末を終えて、冒険者ギルドへと戻る俺達。何と、今回の襲撃事変の臨時報酬がしっかり支払われる事になったという。それに大喜びする妹達。俺の方は遣る瀬無い感じだ。それよりも、喫緊の問題が山積みだ。しかも、その問題が目の前に2つほど存在している。


 1つは、この大都会の中枢である王城。一切の沈黙を守っているが、ここが諸悪の根源であるのは明白である。スミエが裏より現状を報告してくれているのが証拠だ。今後、どの様な行動を取ってくるか警視しなければならない。


 もう1つの方は、目の前にいる人物となる・・・。


「ほむ、デュネセア一族の遠縁の方でしたか。」

「まさかこの地で、諸先輩方にお会いする事になるとは思いませんでした・・・。」


 そう、魔王たるこの女性である。しかし、その素性を見事に見抜いたヘシュナ。どうやら彼女は、デュヴィジェと同じデュネセア一族らしい。魔王たる威厳は何処へやら、ヘシュナに恐縮気味の姿が何とも言えない。


 ちなみに、長年の王城の捏造による、魔王カースデビルの方が認知度は高い。この女性魔王の事は一切知らないようである。こちらの方が真の魔王たる存在なのだが、実に遣る瀬無い感じだわ。


「貴殿と初対峙した時、特殊な力を察知しました。それが我々のテクノロジーであったと見抜けなかったのは、弱体化した証拠でしたね。」

「んー・・・お前さんが敵役で君臨していたから、仕方がなかったとは思うが。ここに同じ事を経験した実例がいるし。」


 一服しながら、ヘシュナの顔を見入る。それに苦笑いを浮かべてきた。彼女が悪役を担った時と全く同じ様相だったからだ。


「一時的に悪心を抱くと、灯台下暗し状態に至りますからね。貴方様は長い間、その役割を担っておいでのようでしたし。」

「と言うか、お前さんの名前を伺っていなかったな、申し訳ない。」


 敵対状態では、その機会を設けられなかったのも事実。改めて、各々の自己紹介を行った。もはや俺達の通例的な挨拶である。


 女性魔王の名はイザリア、デュネセア一族の下っ端との事だ。デュヴィジェや彼女の5人の娘達が王族的存在なので、その彼女達の同族という形になる。下っ端であろうが、実力は相当なものなのは、彼女の魔力の渦を見れば十分肯ける。


 そして、何と大魔王は彼女の姉イザデラと言うらしい。更に驚いたのが、オルドラの娘が2人の妹だったのだ。名前はイザネアとの事である。


「はぁ・・・。」

「アハハッ・・・何ともまあ。」


 どうしようもないぐらいに脱力気味になる。魔王ことイザリアが宇宙種族だとは、あの軽い頭叩きで感じていたのだが、大魔王やオルドラの娘と繋がりがあったとは驚くしかない。


「我々・・・いえ、私達がこの地に到来したのは、今から数万年前の事でして・・・。人気がない場で細々と暮らしていましたが、ある時大災害が起こりまして・・・。」

「それらを鎮火させるために尽力されていた訳ですね。そして、全てが終わった時には、何故か魔王として君臨していたと。」

「はい・・・。今の世上は、余りにも混沌としています。私達がその様相を正し、安穏の世上に導ければ・・・。烏滸がましいのですが、宇宙種族としての使命ですし・・・。」


 魔王としてではなく、イザリアとして心の扉を開いている状態。その彼女の内情を察知するのは、ヘシュナにとって容易であるようだ。その行ってきた歴史に、即座に補足をしている。


「あー・・・帰っていいか?」

「何を仰るのですか。ここまで尽力されてきたイザリア様方を、放ってはおけませんよ。」

「これはもう、この世界に住む我々の問題でもあります。かつて起こったとされる、大災害を鎮圧してくれたのがイザリア様方。そして、今は魔王と呼ばれるも、世の中を正そうと尽力されている。」

「魔王と言う位置付けは問題がありますが、それは総称的なものですからね。魔王が勇者と呼ばれたり、勇者が魔王と呼ばれる事もありますし。」


 吐き捨てるように語るテューシャに、一同して頷くしかなかった。その実例が偽勇者である。アレは今となっては、完全に魔王そのものだ。


「本当に申し訳ありませんでした・・・。遥か遠方の、同族かそれに近い存在を召喚しようとしましたが、貴方様をこの地に呼ぶ事になってしまったようで・・・。」

「それは良いんだが・・・何かこう、遣る瀬無いのよね・・・。」


 今はとにかくそう思うしかない。推測の域であった事が現実となった事で、ある意味での安心感による疲労度の出現だろう。気張っていたのが、すっ飛んだ感じである。


「これも推測ですが、恐らくマスターが黒いモヤ事変で放ったアレでしょう。」

「ああ、イザリアさんが俺を召喚するに至ったのは、それを察知して呼んだ、だな。」

「私達の方も気付きました。あれ程の超大な存在を、簡単に消滅させたのですから。」

「まあアレは、カルテット・キャノンあってこそなんだがね・・・。」


 あの魔王たるイザリアが、憧れの目線で見つめてくる。それは、黒いモヤ事変を攻略した事へのものだろう。ただし、当時は俺1人だけでは対処はできなかった。


 カルテット・キャノン。それは、ルビナ・ヘシュナ・デュヴィジェ・ミツキTによる、俺の殺気と闘気の心当てを増幅させる装置的なものだった。俺1人だけでは、あの黒いモヤを消滅させるには不可能だ。


 それに、各宇宙船や宇宙戦艦群を用いねば、天の川銀河を超える黒いモヤを消す事など無理である。全ての要因を集めなければ、あの事変を攻略する事はできなかったのだから。


「何か・・・とんでもない事をされてたのですね・・・。」

「何とも・・・。」


 魔王イザリアすらも感嘆とする様相に、妹達は絶句し続けている。身内の面々ですら、少し前の出来事だったため、改めて当時の様相を知って驚いているぐらいだしな。


「まあ何だ、ここに呼ばれたのも意味があるし、今後もイザリアさん達の矛と盾になり続けるわ。」

「正に矛盾という事で。」

「ふん、言ってろ、じゃじゃ馬娘め。」


 極度にストレスが溜まりそうになると、俺と同じく一服するクセがあるエリシェ。その彼女が俺にボヤきを入れてきた。傍らにいたため、その頭を軽くどつくと悲鳴を挙げてくる。


「あの・・・私達は今まで通りに動けばよろしいですか?」

「その方が良いでしょう。真の巨悪は、あの愚物共になりますし。貴方は今まで通り、魔王として行動し続けて下さい。」

「了解致しました。」


 あの魔王の威厳は何処へやら、すっかり淑女的な感じのイザリアである。これはこれで可愛いのだが・・・。


「へぇ・・・またエロ目ですか・・・。」

「はぁ・・・勘弁してくれ・・・。」


 今思った内情を見透かされ、周りの女性陣から殺気に満ちた目線で睨まれる。身内は無論、妹達からも睨まれた。俺の一挙手一投足全てに反応しだしているようである・・・。しかし、イザリアの方は人として扱われた事に感謝している様子だ。



 しかしまあ・・・とんでもない感じになってきたわ・・・。


 先にも挙げたが、イザリア達が身内と同じく宇宙種族であった事。しかも、デュヴィジェの家系、デュネセア一族であった事。実質的に、異世界惑星を救った勇者であった事。そして、超絶的な力を持つ人物を召喚しようとしたのは、先の黒いモヤ事変が発端であった事だ。


 あの漠然と発生した黒いモヤ事変が、まさかイザリア達の目に留まり、異世界惑星を救うために俺を呼び寄せるようになるとは。ただ、彼女の言い分だと、この地を救う人物は、同族なら誰でも良かったらしいが。


 それでも、俺がこの地に呼ばれたのは、それだけ使命があったからだな。でなければ、相応の力を持つデュヴィジェやヘシュナが呼ばれたであろう。実に不思議な縁である。




 大都会事変から翌日。再び日常が戻りだしたが、嫌な予感がしてならない。王城側の黙りが余りにも不気味過ぎるのだ。それに、今後の様相を踏まえると、確実に出るであろう行動が脳裏を過ぎりだす。


「地位的な身分の剥奪、ですか。」

「はぁ・・・心中読みやめれ・・・。」


 物思いに耽りつつ、色々と思考を巡らす。すると、傍らで紅茶を啜るエメリナがボヤいた。どうやら、心中を読んだみたいである。


「心中読みも何も、あの軍団の様相からして、次の流れは大体読めますよ。」

「何とも・・・。まあともあれ、考えられるのはそれだろう。」

「啓示は神懸かり的な出来事ですが、それを覆す事はできますかね・・・。」

「それが権力者よ。連中は、己の地位や優位性が覆そうになると、ありとあらゆる手段を投じて潰しに掛かる。昔から全く変わらない悪党の常套手段だ。」


 吐き捨てるようにボヤく。権力者の横暴は、何時の時代も全く変わらない。特にこの大都会の規模を踏まえると、それ相応の横槍は十分予想ができる。


「もしかして、貴方がランクなどに縛られないのは・・・。」

「上辺の要らぬ力を持たぬためよ。」

「なるほど、そうだったのですか・・・。」


 今になって、俺が冒険者ランクを気にしない一念を察知した3人。普通の冒険者なら、これら実力たるランク制度は、失われると相当なダメージを蒙るらしい。社会的身分を失うと言う方が正しいだろう。


「とりあえず、身内の再配置は済ませてある。ネルビアさん達は近辺警護に回って貰っているが、後で呼ぶ事になるだろうし。」

「となると、私達は貴方と行動をした方がよさそうですね。」

「その方が安全だろうな。」


 今現在、危険なのは妹達だろう。特にエメリナ・フューリス・テューシャは、王城から啓示を受けている。一番素性が割れているしな。ネルビア達は冒険者の位置付けだが、先の大都会事変で顔が割れた。身内に関しては、全く以て論外なので問題はない。


「イザリア様は魔王に戻られたので?」

「魔王は異名に過ぎんしな。元に戻って貰って、義賊たる魔物達と共に行動をして貰っているよ。向こうは問題ないだろう。」


 絶対悪でなかったイザリア達は、今は中立的な立場で動いて貰っている。つまり、魔王の大役を担っていると。


 それに、彼女達は宇宙種族の力により、魔物達から毒気を抜く力も持っているようだ。魔物特有の凶暴性を取り除き、本来の動物的野生能力を引き出す事である。魔物だろうが、動物に変わりはない。その彼女達は、言わば義賊そのものだろう。


 また、形なりに魔王討伐は行わなければならないため、何れ彼女達の居城に赴く事になる。その時はエリシェ達が考えたプランを実行するとの事だ。何処に来ても、バリバリの策士を演じる姿は見事だわ。


「何だか凄いですよね。言い方は悪いですが、魔王達を手懐けてしまうのは。」

「元から絶対悪じゃないからねぇ。それに、宇宙種族の概念が、悪の存在を絶対に許す事がないしな。先日会ったと思うが、ヘシュナさんがその体現者よ。」


 ヘシュナとの初対面時は最悪の出逢いだった。敵味方に分かれていたため、その姿はあの魔王の比ではない。それだけ、悪役を徹底して演じ切っていたのだ。


「今のこの世界を見て、一番怒りを覚えているのが彼女だしな。まあそれだけ、身内の中で誰よりも優しいんだがね。」

「フフッ、貴方がそこまで仰られるのですから、そうなのでしょうね。」

「はぁ・・・気苦労が耐えないわ・・・。」


 小さく笑う3人を見ると、俺の方は安堵感からか気怠さが増してくる。今の所、この3人は勇者の啓示を受けた存在だ。その心構えは並々ならぬものだろう。となると、その言わば心の支えが無くなった時が危険だろうか。ここは、何か別の支えを作った方が良いかも知れない。



 ちなみに、今は大都会の酒場に駐留している。態と飲兵衛を演じている感じだ。その理由は複数あるが、一番の意味合いは王城に詳細な情報が漏れないようにする事だろう。


 正直、各冒険者ギルド・自警団・騎士団は信用に値しない。冒険者達や各団員はそこそこ信用はできるが、大元と繋がりがあるため油断は禁物である。偽勇者共を野放しにするのだ、裏で相当な賄賂を受け取っているに違いない。


 となれば、次の王城の出方次第では、俺達は独立戦闘部隊として動き出すしかない。これは地球でも用いてきたものなので、全く以て問題はないが。唯一の懸念材料は妹達だろうか。まあ、いざとなったら俺達だけで動くしかない。実質的には最強の力を持つも、その力を出す事が許されない状況だしな。


 デュヴィジェ達が良く愛読するマンガ群、最初から最強状態で進む作品だ。アレが脳裏を過ぎった。俺達の場合は、常にその状態が働いているため、逆に手加減をしなければならないのが難点だ。


 警護者故の、調停者と裁定者の役割。今はこの異世界惑星でも、その役目が必要である。


    第9話へ続く。

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